「Running Up-Date」とは……
コロナ禍をきっかけに走り始めてみたものの、残念ながら続かなかった。
ここ最近、そういう話をしばしば耳にする。
でも、急なランニングがたたって膝や腰を痛めてしまっては本末転倒。
久々に体を動かす人や、衰えが顕著に出始める40代以上の分別のある大人であれば、走るのと同時にケアやリカバリーにも気を遣いたいもの。
それこそが真に健康的なことなのだから。
「ビギナーこそ、かかりつけの接骨院を作っておくべし」
スケートボードを背景に持つブランド、アレキサンダーリーチャンのプレスを務める一柳 聡さん。学生時代はラグビーに打ち込み、社会人になってからはスケートボードやスノーボード、自転車などに励んできたアクティブ派である。
そして40代に突入した現在、もっともハマっているのがランニングだという。

「走り始めたのはこの1年で、完全にコロナがきっかけです。夜呑みに出歩けなくなったので、自然と早寝・早起きのライフスタイルにアップデートされまして。
朝に余裕ができたので、運動不足解消も兼ねて、近所の駒沢公園へと散歩に行くようになりました。するとランナーが気持ち良さそうに走っているんですよね。それを見て、自分も走ってみようと。
でもやっぱり、最初の頃は走った翌日に筋肉痛がひどくて、2日続けてはとても走れませんでした。
そこで大事にいたらなかったというか、走り続けられたのにはちょっとしたワケがある。
「走り始める数年前から、週1ペースで定期的に通っている接骨院があるんですけど、それが大きかったですね。
スケートボードにはケガがつきもので、それによる体の不調に悩んでいたとき、豪徳寺にある高橋接骨院さんと出合いました。
院長先生がサーファーで、アメフトの社会人チームトレーナーを務めるようなゴッドハンドの持ち主。元陸上部のトレーナーさんもいらっしゃるので、ケアはもちろん、筋肉の張りの状態から逆算して走り方を改善するためのアドバイスも受けられるんです」。
定期的に通っていたからこそ、体の変化や故障の兆候を客観的に指摘して、整えてもらうことができる。
かくして大きな故障を味わうことなく、順調にステップアップできたのだ。

「先生方にも言われましたが、それなりの走行距離を踏めるようになってから、アスリートのような体つきになってきたんですよ。
高橋接骨院では隣のブースでプロのアスリートが治療を受けていることもあります。
彼ら、彼女らが自分の肉体を心底丁寧にケアしている現場を目にしていると、一般人だって替えのきかない自分の体にもっと真摯に向き合うべき、と思わされます」。
ランニングは対・自分のスポーツ
一柳さん曰く、ランニングの面白さは「自分越え」にあるのだという。
「コロナの影響で呑み歩きが難しくなっただけでなく、今まで打ち込んでいたバンド活動など、皆で集まって何かをしにくくなってしまいました。
だからこそ『今までやってなかったことをやろう!』というマインドになれたのかもしれません。集団でなくひとりでもできるという点が、ほかのスポーツとランニングとの大きな違いですよね」。
学生の頃にやっていたラグビーでは、チームの皆で力を合わせて、同じ目標を目指していく。激しくぶつかって、試合が終わればノーサイド。頭も体もフル動員する紳士のスポーツである。
かたやランニングは対・自分のスポーツだ。
「その点はスケートボードにも通ずるものがあるかもしれません。自分越えができるかどうかの指標は月間の走行距離に置いています。
最初は月間100kmでいっぱいいっぱいになっていましたが、今は最低でも月間100kmで、200kmに到達することもあります。
こうして成長を感じられるのが楽しいですよね。走り始めたことをきっかけに外食もしなくなりましたから、よりいっそう体が劇的に変化していて、それも醍醐味かな」。

「それと、ランニングって身近で敷居が低いじゃないですか。
これがラグビーとなると、経験者じゃないとプレーは難しい。
走るのはシンプルで、そこがまた面白い。今では朝起きると、走りたいってウズウズするんですよ。走らないほうが調子悪いくらいです」。
平日は特に何もなければ毎日必ず、朝の出勤前に走っている。
「大体1時間くらい、駒沢公園か林試の森公園へ足を伸ばすことが多いですね。駒沢公園は2kmの周回コースが設けられていて走りやすく、ランナーのメッカになっています。
林試の森はかつて林業試験場として使われていた時代からの巨木が残されていて、緑に囲まれた中を走るトレイルラン気分を味わえます」。

フィジカルの変化だけなく、メンタル面でも充実を感じている。
「走ることによって、仕事モードへの切り替えが圧倒的に上手になりました。なんせ毎日、毎朝リフレッシュできていて、ストレスを感じることがほとんどなくなりましたからね」。
曲作りのアイデアはランニング中に
一柳さんは大の音楽好きで、バンド活動をするミュージシャンとしての顔もある。
走るときはどんな曲を聴いているのだろうか。

「意外に思われるかもしれませんが、走るときはあえて音楽は聴かないんですよね。というのも、無音の状態で走っているほうが、ふっとフレーズが浮かんでくるんですよ。
新しい曲のアイデアが生まれるんです。それこそ、今日走った林試の森公園を駆け抜けていると、頭の中のクリエイティブなところがどんどん刺激されるような気がしています。
同じコースでも、日によって気温や光の具合、自分の体調も違うので、そのときどきでさまざまなアイデアが出てきますし、仕事に関してもそう。
自社のアパレルブランドの企画が思い付くこともあります。だから走るときはなるべくひとりで、イヤホンはせずに走るようにしています」。
ちなみに走ることを習慣化する前は、自転車通勤の時間がアイデアの源泉になっていたのだそう。
適度な有酸素運動がクリエイティビティを刺激するというのは、実はそれを裏付ける研究論文が発表されているほど。確かな根拠が、ちゃんとあるのだ。

「ゆくゆくはトライアスロンをやってみたいんですよね。メッセンジャーをしていたので自転車には乗れますし、昔から海で泳ぐのが好きなんですよ。
コロナが落ち着いて大会が開催されるようになったら、マラソンより、そっちに興味があります」。
病は気からというように、フィジカルが整い、上向けば、メンタル面にも間違いなく好影響がある。
ストレスフリーな日常とインスピレーションを刺激するためなら、走ってみてもいいのでは? ただし、そのときはくれぐれもケア&リカバリーまでをセットで。
そのうえで余裕があれば、その道のプロに定期的にケアしてもらうこともご検討あれ。

氏名:一柳 聡
年齢:40歳(1980年生まれ)
仕事:アパレルメーカー プレス
走る頻度:週5日(平日の朝)、約10km
記録:レースへの参加はとくになし
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「Running Up-Date」
ランニングブームもひと昔まえ。体づくりのためと漫然と続けているランニングをアップデートすべく、ワンランク上のスタイルを持つ “人”と“モノ”をご紹介。街ランからロードレース、トレイルランまで、走ることは日常でできる冒険だ。 上に戻る
礒村真介(100miler)=取材・文 小澤達也=写真