ヴィンテージTシャツのプロフェッショナルによる好事家対談。
後編では次に来るジャンルは何か? 狙い目のジャンルは? そもそも、その魅力とは? など、気になるアレコレを聞いてみた!
前編はこちら
古着屋「髭」店主山口 駿さん Age 28
1992年、青森県生まれ。

高橋 龍さん Age 非公表
オンラインとユニークなポップアップの形態でヴィンテージTシャツの新たな提案を続ける気鋭ショップ「エニティー」を主宰。instagram@anyteeshop
ヴィンテージTシャツの偽物問題

高橋 今の古着のTシャツで不安要素があるとすれば、偽物問題かな。
山口 偽物は本当に厄介ですよね。
──偽物っていうのはいわゆるリプリントというヤツですか?
山口 そうですね。例えば『アキラ』の偽物のTシャツとか、僕も持ってるんですよ。当時モノに似せたボディをタグから作っていたりしてて、逆にすごいなと思っちゃう。あそこまでやられちゃうと。
高橋 デッドストックのボディにいい感じのプリントをされたら、素人はわからないと思う。洗いをかけられたら余計に。だから、有名なモチーフはデッドストックが出てきても、怖くて手が出せない。
山口 怖いっす、ホント。
高橋 有名じゃないモチーフはわざわざリプリントしたって売れないから、そういうちょっとズレたものぐらいのほうが安心して買えるよね。
──コピーライトが入っていても安心なんてできなそうですね……。
高橋 さっき「髭」でソニック・ユースのTシャツを買わせてもらったんですけど、それが良かったのは全然有名じゃなくて、たぶん人気もそんなにないグラフィックだったんですよ。でも、個人的にグッとくるヤツだったから決めたんですけど。
山口 ソニック・ユースは本当に偽物増えましたよ。特にここ1年で。
高橋 『パルプ・フィクション』ものとかも偽物を見かける。
──でも、現役感のないバンドのTシャツが急に脚光を浴びることがある気がしますけど、何かきっかけがあったりするものですか?
高橋 やっぱり有名人の影響は顕著にあるよね。それこそ野村訓市さんが着用したTシャツはみんなチェックしてるなって感じる。あとはシュプリームでフックアップされたヴィンテージは値段が上がるよね。

山口 シュプリームの本国のスタッフたちが日本に来てヴィンテージを探したりしてるのは結構有名ですしね。最初は古着屋さんたちも彼らが誰なのかわかってなかったけど。
高橋 そうなんだ(笑)。あとはTシャツがこんなに盛り上がるようになったのはやっぱりインスタグラムの影響もあるのかな。バストアップの画角に入るものにみんなお金を使うようになったから。
それぞれのお宝Tシャツは?
──前編では高橋さんが裏原の話をされていましたけど、それこそインスタグラムで当時のTシャツが話題になっているのは面白い現象です。
高橋 なぜ藤原ヒロシさんがますます注目されているかというと、やっぱりきっかけはヴァージル・アブローなんですよね。
その文脈で言うと去年パレス・スケートボードともコラボしてましたけど、これ。アナーキック・アジャストメント。このブランドを初めて日本に紹介したのも藤原ヒロシさんらしくて。

山口 そう言えばアナーキックってどういう出自なんですか?
高橋 ’80年代半ばにロンドンのカルチャー誌の編集長が立ち上げたんだよ。日本だと吉祥寺のサーティースリーでちょこっと扱ってたなぁ。

──アナーキック以外にもお持ちいただいた私物について、いくつかご紹介いただけますか?
高橋 僕は一点モノっていう意味で、これは自分で持ってて手が震えるんですけど、昔、山口くんのところで買ったパウエル・ペラルタのもの。
山口 トミー・ゲレロのですね。

高橋 うん。
山口 本人ってコレ見てどんな反応するんですか?
高橋 懐かしいって言ってた。「よく持ってるな、お前」って(笑)。
山口 あはは(笑)。僕はこのRUN DMCとかかなぁ。
高橋 これ、タグ付いてんじゃん!

山口 そうです。アディダスの。これってなぜか小さいのばっかりしか出てこないんですよね。やっぱり’80年代後半の人たちのサイジングだからですかね。あとはシャーデーとか。
高橋 ヤバい。
山口 デッドですね。ブートですが。

なくなることのない、Tシャツの楽しさ
──いくらでも出てきそうですね(笑)。おふたりがこうやってヴィンテージTを掘り続けるうえで、最高の瞬間っていつですか?
山口 僕はいいものを仕入れて店に並べたときですね。遊びに来た友達に「ヤバいでしょ?」って(笑)。
高橋 (笑)。僕は去年、写真展を企画したときにそれを感じました。フォトTを作ったんですけど、すごいうれしかったなぁ。体験とセットで安くTシャツを提案したいとずっと思っていたから、それができたのは Tシャツ屋冥利に尽きるなって。
山口 確かにそうですね。
高橋 あと、『永遠に僕のもの』というアルゼンチン映画の公式Tを作らせてもらえたのもうれしかった。

──それが何年後かには実際に古着屋に並ぶかもしれませんね。
高橋 そうなんですよ。俺自身も別に古いものだけがいいとも思わないから、今もギャラリーとか美術館に行って、良さそうなTシャツがあったら買うようにしてます。
──今も具体的に探しているジャンルってあるんですか?
高橋 そこまでないかなぁ。好きな映画のものが適正価格で出てきたら買おうかなってくらい。
山口 僕はずっと欲しいのがあって。ビースティ・ボーイズのロンTですね。袖にカタカナでビースティ・ボーイズって入って、後ろに飛行機がプリントされたヤツ。でも、着られるサイズは出ないなぁ(笑)。今着るとしたらXXLとかだろうから。

高橋 難しいね、それは(笑)。
山口 まぁ、マイサイズじゃないからこそ心置きなく店に出せるっていうのはありますけどね。
高橋 名残惜しくなっちゃうもんね、マイサイズだと(笑)。

古着屋「髭」
住所:東京都足立区千住1-32-4 江森ビル1F
電話番号:03-5284-7292
営業:18:00~24:00 日曜定休
instagram@hige_senju
※本記事に掲載されているTシャツは基本的に一点モノになります。お問い合わせしていただいた時点で在庫がない場合がございますのでご了承ください
Taichi=写真 今野 壘=文