PREMIUM BRAND × DAILY STYLE
VISVIM ビズビム
独自の価値観で、誰も真似できないクリエイションを展開するビズビム。5つのキーワードから紐解く、ブランド考現学。
①DENIM
見た目だけの再現なら、もういらない。
「ローティーンの頃、古着屋で見たヴィンテージが僕のデニムの原点です」。ビズビムのクリエイティブディレクター、中村ヒロキさんはこう話す。
西海岸の日差しをたっぷり浴び、アメリカの強力な洗濯機で洗い込んで初めて現れるヤレ感。そのバリッとした独特の風合いにも中村さんは虜になった。そんな当時のすべてを再現すべくたどりついたのが「ドライ・デニム」。岡山県の工場とともに開発した、繊維の油分を抜く新しい加工技術だ。それによって生地には独特のハリが生まれ、ダメージ加工を施すと圧倒的な存在感を放つように。見た目だけでない“あのとき”の魅力が見事に蘇る。
そんなデニムコレクションに今季、紡績から開発に携わった8オンスデニムのダウンジャケットが加わった。数種類の繊維長をブレンドしたセルビッジデニムは、リアルヴィンテージと見紛う不均等なムラをたたえるが、軽く、温かく、優しく体を包む。“古き佳き”をそのままなぞらず手に入れた、新しいデニムの世界がそこにある。
ユーティリティウェアをこよなく愛する中村さんにとって、世界各地でワークウェアとして芽吹いたデニムは素通りできないアイテムだった。「インディゴ特有の色みやタテ落ちに、えもいわれぬ魅力を感じる」。その気持ちの表れとして、アイコンのレザーパッチにはすべて、藍染めが施されている。数多く展開されるジーンズの中でも、リアルなダメージ加工のモデルは特に人気で、リリースするとすぐに店頭から姿を消すほどだ。

さまざまなデニムジャケットがあるが、両胸ポケットを特徴とし、20世紀半ばに誕生したこの「セカンド」タイプには、デニムジャケットがワークウェアだった頃の武骨な薫りが色濃く残る。8オンスのデニムシェルにポーランド産のグースダウンをたっぷり充填した新作は、それ一着で冬を乗り切れる保温性と、抜群の軽量性を持つ。
②CRAFT WORK
無性に惹かれる、不均一の美しさ。

しなやかで、ドライなタッチ。ユニークな手触りが持ち味の超長綿で織ったパーカの全面に施した、オプティカルなパターン。いわゆる流行りのプリントものと思ったあなたは、その事実を知って愕然とするはずだ。なぜならこちらのグラフィックはすべて、職人が手で描いたものだから。
手掛けたのは、数年前に京友禅をコレクションに取り入れたことをきっかけに関係を築いてきた職人である。
③SNEAKERS
デザインしたかったのは「履き心地」。

ビブラムソールを採用したモカシンアッパーのスニーカーはビズビム初のプロダクト。2001年にリリースされた当時、そのハイブリッドな顔つきにファッションシーンは賑わい、ブランドは一気に注目を集めた。しかしユーティリティを至上命題とする彼らにとって最重要事項は“見た目”ではなかった。
「デザインしたかったのは履き心地です。見た目よりも、その良し悪しは誰でも判断できますから」。譲れないのは通気性。現代の靴は化学的な処理で蒸れやすくなっているため、ビズビムでは昔ながらの製法で作られた革を使い、毛穴を活かす構造を取る。今季ラインナップするスニーカーは全10型。
④NATURAL DYE
ファッションを楽しくする天然染めの可能性。

本藍染め、泥染め、コチニール……。ナチュラルダイは古代より続く人間の英知であり、その色合い、風合いは唯一無二。これを現代の技術と組み合わせたらどうなるか。テクノロジーファブリックとの掛け算、2つ以上の天然染料のブレンド。今、ビズビムが積極的に取り組む“実験”で、ファッションが手にする可能性とは?
その成果を体感するのに打ってつけなN-3B型ジャケット。生糸ナイロンを高密度に打ち込んだアーミーナイロンツイルを採用し、奄美大島伝統の泥染めをのせた。水墨画を思わせる繊細な陰影は、この染色の賜物だ。ナチュラルな雰囲気がリアルファーの襟と実によく馴染む。
⑤JAPANESE TRAD
気になりはじめた、自分のルーツ=日本。

「アメリカンカルチャーへの憧憬がものづくりのモチベーションになっているのは間違いありません」。こう話す中村さんも、あるときから己のルーツである日本が気になるようになったという。
「アメリカで暮らし、海外にもプロダクトを提供するようになって、これまで見落としがちだった日本文化の魅力をフラットに感じられるようになった」。そして、昨今のビズビムのコレクションを語るうえで欠かせない、和のテイストの登場となる。
ベースは法被、半纏、……と、その領域は広がるばかりだが、今季の新作では浴衣をモチーフにしたウール・リネンのコートが登場した。つけ襟はシルクサテンに切り替え、浴衣特有の袂の膨らみをあえて排することでモダンなシルエットを具現。気分のオーバーサイジングを思わせる一着に。必然から生まれるデザインと世界的ファッショントレンドの邂逅。これを偶然と片付けるのは早計だ。
清水健吾=写真 勝間亮平(masculin)=ヘアメイク 竹川 圭=文