時代を先取り過ぎた「ナイキACG」。
ブランド史上、空前のヒットとなった「エア ジョーダン」や「エア マックス」と並行して彼らが注力したレーベルである。
’90年代に青春を謳歌したオーシャンズ世代には、このロゴを見ただけで「懐かしい!」と思う人も多いはず。
その最大の魅力は時代を先ゆくプロダクト作りにあるけれど、なかでも今回は“名作”と呼ばれるナイキACGのシューズについて触れたいと思う。
アウトドアファッションのブームに乗り、見事に飛躍
まずは少しブランドのおさらいを。’90年代、ナイキACGはカルト的な人気で一世を風靡した。
ここで“カルト”と表現したのは、ナイキACGは発足当時、メインストリームでのセールスが目的ではなく実験的なプロジェクトだったから。

ナイキ初のアウトドアブランドとして1989年に設立したナイキACG。初期メンバーには、のちにナイキを代表するデザイナーになるティンカー・ハットフィールド、現CEOのマーク・パーカーらが名を連ねていた。

当時、アウトドアファッションはストリートカルチャーとクロスオーバーすることで、一大ブームを巻き起こす。ナイキACGもこの流れに乗り、時代の寵児として飛躍していくのだった。
ナイキACGの3つの名作
並み居るライバルの中でも、ナイキACGは唯一無二の存在感を放っていた。それはナイキがパフォーマンスシューズの分野で培ったノウハウと、ほかと一線を画す革新的なコンセプトのおかげだった。

ブランド名のACGとは“オール・コンディションズ・ギア”の略。彼らはあらゆるフィールドに対応できるプロダクト作りを目指していたのだ。
そんなアプローチが結果的に、ストリートでも映えるシューズやアパレルを生み出し、ファッション感度の高い若者たちを魅了していった。
と、少々前置きが長くなったが、今なお名作と語り継がれるシューズの一部を紹介しよう。
① クロストレーニングのために生まれた高性能シューズ

ナイキ ACGの傑作のひとつ「エア モワブ」。モデル名はアウトドアスポーツのメッカ、アメリカ・ユタ州のモアブに由来する。
デザインは、エア ジョーダンやエア マックスシリーズも手掛けたティンカー・ハットフィールド。
独自のクッショニングシステムの「ナイキ エア」、シュータンと一体になったブーティ構造「ハラチ フィットシステム」など最新のテクノロジーが搭載され、ナイキACGのコンセプトを体現する一足として、その名を轟かせた。
② アウトドアファッションの足元を飾った不朽の名作

「エア リバデルチ」は、ナイキACGのデザイナーとしてブランドの発展に貢献したスティーブ・マクドナルドのデサインによる、トレイルシューズ。
リバデルチという名は、イタリア語で「さようなら」を意味する「arrivederci」から着想を得て付けられたという。実際に完成したプロダクトも、従来のアウトドアシューズに別れを告げるが如く、数歩先行く提案を示していた。
既存のハイキングブーツとは一線を隠すビジュアルと最先端テクノロジーは、アウトドア好きのみならず、ストリートでも絶大な支持を獲得。今でも時折発売される復刻モデルが瞬く間に完売することからも、人気の高さが窺えるだろう。
③ ナイキ初のスポサン、圧倒的な支持を得た水陸両用サンダル

ナイキ史上初のスポーツサンダルとして、1992年に登場した「エア デシューツ」。この一足もまたナイキACGから生まれた傑作のひとつだ。
「ナイキ エア」を搭載したハイテクサンダルは、ナイキ本社があるオレゴン州のデシューツ川から名付けられただけあって、水場への対応力もすば抜けている。
多少の悪路をものともせずに走破できる機能性と特徴的なビジュアルは瞬く間に人々を魅了し、記録的なヒットを飛ばした。
このほかにも、日本で大ブレイクを果たした“21世紀のモカシン”と呼ばれる「エア モック」など、多くの名作を残したナイキACG。だが、一時活動休止を余儀なくされる。
それは、ナイキACGのコンセプトが時代の先を行き過ぎていたからかもしれない。その価値が再び認められるようになるのは、十数年後の話になる。
ということで、続きは明日8月22日(日)10時に公開。奇跡の復活を果たしたナイキACGの“今”をお届けします!
戸叶庸之=編集・文 ナイキ=写真