「ランニング効果をアゲるギア」とは……
ここ最近、SNS上のランニングインフルエンサーを中心に、やたらと“映える”ウェアに身を包むランナーを目にする機会が増えた。
今までのランニングウェアではあまり見ない色柄やグラフィックを用い、まるで古着で見つけたかのような独自性とアメカジ感を備えている。
心当たりがあるとしたら、それはきっと「エルドレッソ」というブランドに違いない。
ストリートファッション好きなら刺さるデザイン
「Running Up-date」でもたびたび愛用者が登場しているエルドレッソ。昔ながらの陸上ウェアとは一味も二味も違うデザインは、ストリートファッションのような雰囲気を醸し出している。

代々木上原にてアルゼンチンのソウルフード、チョリパンの専門店を営むランナーの中尾さんはエルドレッソ党の一人だ。
「デザイナー阿久澤さんの作る世界観にハマっています。ヒョウ柄の小物なんて、ほかのランニングブランドではちょっと考えられません。本気で走っているのに、本気っぽく見えないウェアを着ているってなんか良いじゃないですか。派手なのに、実は速くて強い!というのを目指しています」。

「ドレッドなのでヘッドバンドは地味なものを選んでいますが、ウェアは目立つアイテムに手が伸びますね。ファッションとしても成立するものが理想なので、阿久澤さんが生み出すエルドレッソの世界観は好みにドンピシャなんです。
極端な話、走り終わったあとこのままで呑みに行けますから。今は社会情勢的に厳しいですけどね」(藤川さん)。

「エルドレッソのトップスはかれこれ5枚くらい所有していていて、ロックTシャツを着るようなノリで着ていますね。
……ここまでラブコールが集中すると、気になるのが“エルドレッソの阿久澤さん”だ。いったいどんな人なのだろう。
エルドレッソ・阿久澤 隆さんに話を聞いてきた
2016年からエルドレッソをスタートさせている阿久澤 隆さんは、それとは別にアールディーズというファッションブランドで人気を収めている。
インパクトのある色柄を得意としていて、サイケ、ヒッピー、ラブ&ジョークといったキーワードで語られることが多い。

「もともとは群馬の田舎で陸上競技をやっていて、髪型は坊主、ファッションには興味がなかったんです。大学にもスポーツ推薦で、箱根を目指して駅伝の準強豪校に進学しました。でも途中で限界を感じ、その道はスッパリと諦めることになったんですけど」。
転機となったのは、寮生活で隣の部屋だった友人が裏原宿系のストリートファッションにハマっていたこと。都心へ繰り出すうちに、下北沢界隈の古着カルチャーに没頭していく。
「それまである意味抑圧されていた分、一気にハマッて濃い時間を過ごしました。セレクトショップでアルバイトをして、先に挙げた友人と一緒にブランドを立ち上げて……。

デザイナーの個人的な趣味が全開のアールディーズは、フェスやストリートを中心に火が付き、今では海外にも販路を広げている。
「再び走りはじめたのはここ数年のことで、山梨県のセレクトショップの方にトレイルランの大会に誘われたことがきっかけです。それから少しして、そのオーナーがランニングの専門店を出すと。そこでショップのスペシャルアイテムとしてキャップをオーダーしてくださったんです」。

そのショップは「道がまっすぐ」という店で、阿久澤さんは忘れがたい店名にちなんだ「ミチガマ」というレタードのキャップをデザインした。
「それが有難いことに大好評で(笑)。山梨のランニングイベントに参加していると、『あのキャップを作った人ですよね』と声を掛けられるようになったんですよ。
トレイルランやランニングのコミュニティには着る人と作る人が一体となって作り上げるカルチャーがある。それが新鮮というか面白くて、スポーツシーンで使えるアイテムにも本腰になろうとエルドレッソを立ち上げることになりました」。
楽しくハッピーに走るために優先するデザイン
「デザインに関してはアールディーズと同じで、基本的に自分の好きな世界観を表現しているだけです。ただアールディーズでは使えなかった柄やモチーフがあって、例えばボーンマンのようなハードなデザインとかを使用しています」。

スポーツ向きの機能素材は生地の扱いが難しく、縫製に慣れが必要だったり、プリントを定着させるための乾燥のノウハウも違う。つまり、比較的小ロットの生産に対応できる工場からは嫌がられる傾向にある。

スポーツウェアにファッションの味付けをしようとするブランドがレアケースである一因はそこにあるが、阿久澤さんの場合は、アールディーズで海外の製造工場と太いパイプを築いていたことが奏功。
機能素材を扱えるようにトレーニングしてもらい、メジャースポーツブランドとは桁の違う数量でも生産することが可能になった。
「生地に関しては速乾の機能素材ですが、ロット数や価格設定面での都合もあって、ハイレベルなものの一歩手前にしています。一秒を争うようなシチュエーションではきっと本気のスポーツメーカーのウェアを着る人が多いと思いますので、それでいいんです」。

「部活や競技じゃない場合は、自分も含めて、それが楽しいから勝手に走っているわけじゃないですか。誰に頼まれるでもなく。
陸上競技の世界を経験してきたからこそ、そういったランニングとの向き合い方って本当に面白いよなと感じています。エルドレッソもそのカルチャーに乗っかって、ランニングがもっと面白くなればいいなと勝手にやらせてもらっているんです」。
走ることを深く難しく考えるのでなく、とにかく楽しくハッピーに。
この阿久澤さんの気負いのないスタンスがよ~く表れたエルドレッソに熱烈なファンが引きも切らずなのは、ランニングカルチャーの盛り上がりとシアワセな相関関係にあるからなのだろう。
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総勢40名のランニングライフを追いかけてきた連載「Running Up-date」。そこで取材をしたリアルランナーが履いていたシューズは? 着ていた服は? 時計は? 何かとアガるランニングギアまとめ。
上に戻る礒村真介(100miler)=取材・文