「Running Up-Date」とは……
トライアスロンのプレイングコーチとして活躍する梅田祐輝さんは、前回2020年のトライアスロン日本選手権で9位に入賞したツワモノ。
といっても、フルタイムのプロトライアスリートとしては2019年いっぱいでひと区切りつけ、現在は一般ランナーからプロのトライアスリートまでを対象にしたコーチングに精を出している。
興味深いのは、他人へのコーチングに本腰を入れてから「走るのが上手くなった」という事実だ。
「泳ぐ」「漕ぐ」「走る」を経験してわかった、ランニングの自由さ
ランニングは誰でもできるスポーツだけど、トライアスロンとなるとそのハードルはなかなか高い。
「物心ついたころから水泳をやっていて、高校まで熱心に取り組んでいました。そこでやり切った感があったので、大学ではまた別の、何か新しいことをやりたいなとトライアスロンサークルの門を叩いたんです」。
やがてトライアスロンの舞台で頭角を現し、一旦は就職するものの、プロアスリートとしての道を選び、現在に至る。

「競泳選手だった頃から走るのは嫌いじゃなかったですし、むしろ校内マラソン大会とかでは好成績を残せており、得意にしていました。
結局、泳ぐのも走るのも自分と向き合うスポーツで、それが水中か陸上かの違いがあるだけ。ランニングは性に合っていたんでしょうね。トライアスロンでもランパートは比較的得意なんですよ」。
そしてフルタイムのトライアスリートを退いてから、ランニングのさまざまな面に気づきがあったという。
「去年の春から夏、コロナ禍の起こり始めにかけて、いざ泳ごうと思ってもジムやプールは軒並み休業。泳ぐ場所を確保することもままなりませんでした。
そこで感じたのは、同じエンデュランススポーツの中でも、ランニングって本当に自由だなということ。

水泳に限らず、自転車だって高価なマシンやそれなりの場所が必要。ランニングのような気軽さ、自由さはない。
「トライアスリートならではの気付きかもしれませんが、改めてランニングの可能性と懐の深さを実感しています」。
コーチングしながら自分のランニングもアップデート
現在は新宿区にあるトライアスロンのプロショップ「ハイリッジ」のチームに所属するかたわら、個人でコーチングサービスを立ち上げ、さまざまな年代、走力のアスリートをクライアントに、そのランニングスキルを二人三脚で高めている。
「誰しも学校の体育を通じて走った経験があると思いますが、振り返ってみると、あれは走っていたのではなく走らされていただけ。大人が自発的に、趣味でランニングするのであれば、楽しく、正しく走り続けてもらいたい。
それはもちろんひとりでもできることですが、パフォーマンスを上げるにも、長く続けるにも、コーチとして手伝えることはあると思っています」。

ランニングは誰もができる動作だが、足を置く場所だったり、重心の位置だったり、追求すればするほど奥が深いもの。コーチとして活動する時間が増えるにつれ“教える”という作業を通じて、ランニングをより深く考えられるようになったという。
「面白いんですけど、プレイングコーチになってランのタイムが伸びたんですよ。トラックの5000mでは14分51秒とベストを更新しましたし、トライアスロンの日本選手権でもキャリアハイの順位を残せた。
だからこそ、ランニングは追求しがいがあって面白い。動作自体はごくシンプルなものなのに、だ。

「その人その人にあった正しい走り方、ケガしにくい走り方というのは確実にあるんです。それを一緒に探って、お伝えしていければと思っています」。
ジョグではなるべく不整地の上を走る理由とは
それにしても気になるのは、それなりに走り込んでいたであろう梅田さんが30半ばにして自身のランを具体的にどうアップデートさせたかだ。

「陸上界では“乗り込み”と表現されますが、それがすべてかもしれません。どのように地面に接地して、どのように反発のリターンを得るか、いわゆるフォームに関する意識ですよね。
コーチングするようになってから、人に伝えたことを、自分に対してもよりフィードバックできるようになったのかもしれません。『自分でできる』と『人に伝える』のとはまた別なので、その両方がリンクしてくると面白いんですよ」。
走るときはフォームの感覚を大事にしたいので、音楽などは聴かない。

「最近は朝走ることが多いですね。
夏の炎天下では長時間走ることが難しいので、ピリッと短時間で終えられるインターバル的なトレーニングを多めに行う。
「ジョグペースで走るときは未舗装路の方が好きで、今日のような公園であればなるべく土や芝生の上を走ります。真っ平らなアスファルトの上を走るのに比べて、重心の位置を上手く扱わないとスムーズにスピードに乗れないからです。未舗装路で走る方が、ランニングのスキルも上がると思います」。
プレーヤーからコーチへ、ランニングと向き合う視点を変えたことで、その奥深さや自分に対する気付きを得たというのが何とも興味深い。マンネリを感じているランナーの皆さん、たまには「走ること」をいつもと違った視点から捉えてみてはどうだろうか?

氏名:梅田祐輝
年齢:36歳(1985年生まれ)
仕事:トライアスロン プレイングコーチ
走る頻度:週5回、(1回につき1~1.5時間ほど)
記録: 5000m 14分51秒
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「Running Up-Date」
ランニングブームもひと昔まえ。体づくりのためと漫然と続けているランニングをアップデートすべく、ワンランク上のスタイルを持つ “人”と“モノ”をご紹介。街ランからロードレース、トレイルランまで、走ることは日常でできる冒険だ。 上に戻る
礒村真介(100miler)=取材・文 小澤達也=写真