メルセデス・ベンツのオフローダーといえばGクラスの名が挙がるだろう。しかしGクラスより約30年前。
「ウニモグ」である。
このウニモグこそ、最強のオフローダーの称号がふさわしいかもしれない。何しろ、高度6000m超の高地や人類未踏の地、はたまた線路の上まで走ることができるのだから。
車というより「多目的動力装置」
もともとは戦争が終わった1945年に農業用の多目的工作車として発想されたウニモグ。
どんな凸凹道でも柔軟に対応できる優れたサスペンション構造、一輪だけでも地面と接していれば進めるディファレンシャルロック機構、さまざまな作業機を車体の前や中央、後ろへ装着できる工夫などを備え、もとは1948年にドイツの工作機械メーカー、ボーリンガー社によって販売がスタートした。
その際に与えられた名前がUniversal Motor Gerät(多目的動力装置)。その頭文字をとって、UNIMOG(ウニモグ)と呼ばれたのだ。

1950年に同社からウニモグを引き継いだのがダイムラー・ベンツ社(現ダイムラー社)だ。
そのグリルに「スリーポインテドスター」が掲げられると、森林や資源開発、軍用、鉄道も含めたインフラの整備、災害対策など、さまざまな分野でウニモグが活躍するようになる。
また用途の多様化に合わせて小型から大型までバリエーションも増えていった。
「車では行けない場所」へ行く車
ウニグモを唯一無二の存在にしている大きなポイントが、アタッチメントを変えることで、さまざまな場面に対応する可変性。
現行型では1000種類以上の作業用アタッチメントを、4カ所の装着ポイントに装着することができる。つまり変幻自在なのだ。
また、ウニモグが作業をする場所は険しい山林や高地、火山など、普通の車では到底走れないところばかり。それだけオフロードの走破性に長けているということだ。
さらに作業時に求められる超低速から、作業現場へ急ぐための高速まで、速度域が幅広い点もウニモグがあらゆる現場から求められている理由。

そんな天下無双の車が注目されないわけはない。
例えば幾度も探検隊の足に使われていて、2020年にはチリの遠征チームがチリ最高峰のオホス・デル・サラド活火山にウニモグで向かい、自動車走行の最高度記録である高度6694mに到達したとされる。
世界のキャンピングカー・ビルダーの憧れ
そんな最強のオフローダーはもちろん、世界のキャンピングカー・ビルダーからも羨望の眼差しを集めている。
何しろ、誰も行ったことのない未踏の地の景色を楽しむキャンピングカーを作るために、こんな最高のベースカーはないのだから。

例えばジーグラー アドベンチャー社は、各地を点々と旅するにはピッタリな長距離ツアラーとしてウニモグのキャンピングカーを開発。
シャワーやトイレ、キッチン、ベッドなどを備えているのはもちろん、大容量の真水タンクと汚水タンクを備えた。
また探検専用車も手掛けるBimobil社は、U字型のシートユニットと、その上に電動昇降型ベッドを備えた“探検用”ウニモグを販売している。

オーストラリアのアースクルーザー社は「冒険好きの家族やプロの探検チーム向けに」と、ツーリングマシンを作った。

ベッドやキッチンといった食住機能はもちろん、ライブ映像を全世界に発信する機能や、タイヤやホイールを交換するための油圧リフトアップシステムまで備えることができる。
さらに氷点下40℃までの極寒の北極圏や、砂漠や熱帯の猛暑に対応するための耐候性オプションまで用意されている。

ここまで凄いと、もはやこの地上にウニモグがたどり着けない場所などないと思えてくる。
愛車とともに、世界を股にかけ大冒険。なんて夢みたいな話を、夢じゃなくしてくれる1台なのである。
籠島康弘=文