ノンネイティブが初めて「ゴアテックス」を採用したのは2008年のこと。そこから時間は経ち、藤井さんの洋服観に転機が訪れる。
家族とともに長年暮らした都内から神奈川県葉山町の高台へと移り住んだことで、生活様式はもちろん、洋服との付き合い方にも変化が表れたのだ。
ノンネイティブ デザイナー藤井隆行さん
1976年生まれ。2001年にデザイナーとしてノンネイティブに参加し、着る人の個性が引き立つ洗練されたリアルクローズを提案している。今年の夏前からはランニングに目覚め、現在は冬場のランスタイルを模索中。
「庭の草むしりをしたり散歩をしたり、海や山に行ったりすることが多くなりました。そうなってくると今日はこういうことをするからこの服を着ようと、仕分けるのがすごく面倒になってしまって。すべて同じ服で行動できないかな……と考えるようになりました。
もともと僕は寝るときも普段と同じ格好でいたくて、パジャマすら持っていない。翌朝起きたら、そのまま外出できるのが理想なんです」。

作業で汗をかくときも、居間でくつろぐひとときも。さらには仕事で都内へ出るときまでも、できれば同じ服装で通したい。そんな視点でワードローブを選ぶようになってくると、自然とイージーケアの重要性も実感するようになってくる。

そのまま寝てもシワになりにくく、汗をかいたらすぐに洗えること。曰く、「ノンネイティブの服で気軽に洗えないのは一部のウールとデニムくらいで、それ以外はほとんどが洗濯できるようになっています」とのこと。
藤井さん個人でいえば、レザーブーツさえも容赦なく洗濯機にかけている。そのため藤井家の洗濯にややこしいルールはなし。
余談だが、先頃高校生になった娘さんは藤井さんや奥さんの洗いたての洋服をよく借りて着ているそうで、そこでも境界線が取り払われているのが微笑ましい。

葉山暮らしに慣れ、冒頭で触れた「ゴアテックス」の有用性もさらに増した。しかし、藤井さんがそこに感じるいちばんの恩恵は防水でも撥水でもなく、防風に尽きるという。
「とにかく葉山は風が強い。聞いた話だと、都内のビルの20階くらいの強さの風が吹いているそうです。現代の大人が日常で雨に打たれる機会はほぼないと思いますが、風はすごく厄介。冬場はそれで一気に体温が下がってしまう。ではどうしのげばいいのか。

この日、藤井さんが着ていたベストも「ポーラテック」を使ったノンネイティブの新作。フリースに付きものの風による体温低下が劇的に解消されている。
自他ともに認める服好きとして、これまでに老舗からデザイナーズブランドまで、膨大な数の洋服を着てきた藤井さん。その大半が淘汰されて最終的に自身のクローゼットに残ったのは、こんなふうに機能的だが自然体で心地良く、あらゆる場面でファッションとして成立するデイリーウェアばかりだ。

「服を作っている身であんまり『これは着ない、あれは着ない』って言うのも気が引けますが(笑)、自分が着たいと思えるものを作りたいといつも思っています。僕にとってはストレスがないことがいちばんの機能性。たくさん失敗もしてきて、ようやく正解が見えてきた気がします」と藤井さんは話す。
本当にシームレスな洋服を作るために、今日もノンネイティブはゴアテックスにシームを入れるのだ。
芹澤信次=写真(人物) 永瀬 歩=写真(取材) 菊池陽之介=スタイリング 竹井 温(&’s management)=ヘアメイク 今野 壘=文