Motorcycle Update▶︎バイクのある人生は素敵だ。お気に入りの一台に跨って、家を出るワクワク感。
■高野 隆さん(48 歳)
タカノタカシ。株式会社エドウインのリテール事業部で小売を担当。日本全国をまわり、各地で新店舗開拓やイベントを指揮する。
妻と高校1年生の娘の3人家族で埼玉県在住。休日はほぼ何かしらのバイクに乗っている根っからのバイク好き。Instagram: @takashi0808
■シェルコ・ST250(2016 年モデル)

シェルコ(SHERCO)は1998年に創業したフランスのモーターサイクルブランド。
今回紹介するトライアル競技用バイク、ST250はスペインのバルセロナ工場で生産されたもので、2003年に設立されたフランスの工場ではエンデューロ競技用バイクを生産する。
日本国内にはシェルコジャパンがあるが、まだまだレアなブランド。しかし、海外のトライアルやエンデューロ競技市場での人気は非常に高い。
ST250は国内では今や珍しい2ストロークの250ccエンジンを搭載し、保安部品をつけて公道も走れる。
■オンロードには少ない“操縦してる感”
18歳でバイク免許をとり、初めて買ったのは黒&赤に塗られたホンダ・VT250。VTでバイク便のアルバイトを始めたが、通常よりもはるかに酷使するため、その後バイクはカワサキのゼファー400に。
「ある日、アルバイト仲間のYさんがオフロードバイクを持ってきたんですよ。『これに乗って、オレとオフロードに行こう!』って。
それに乗り、現在でも関東屈指のダートと言われる林道が続く御荷鉾(みかぼ)スーパー林道をYさんと走り、ハマりました (笑)」。

オンロードバイクには少ない“操縦してる感”を、危なくないスピードで体験したのが本当に楽しかったそうだ。
その後はオフロードの耐久レースであるエンデューロレースに参戦し、公道以外でもオフロードを満喫。

20代の頃からオフロードにハマっている高野さんの現在の愛車は、今いちばんお気に入りの写真中央の青いシェルコ・ST250、赤いホンダ・XR250(1995 年モデル)、黄色いレース用のヤマハ・YZ125X(2017年モデル)に加えてホンダ・スーパーカブ 90(年式不明)。
「このうち、公道を走れるのはXR250とスーパーカブ90です。ともにツーリングや、たまに保安部品を外してレースに出たりしますが、レース専用バイクも持っているのでレースはできるだけそちらでやるようにしています」。

■どんどん挑戦したくなる
「JNCC(ジャパン・ナショナル・クロスカントリー)というレースに、2015年から出場しています。最初は上から3番目のFCクラスに別のバイクで出場していました。
『早くFBクラスに昇格したい』と思って購入したのが、現在のヤマハ・YZ125X。参戦5年目、昨年やっと昇格してFBクラスになれました(笑)」。
ここで言う“クロスカントリーレース”とは、自然の地形を使って山の中を走破し、タイムを競うレースのこと。
耐久レースを総じてエンデューロと呼ぶが、モトクロスコースなど、すでにあるコースを使うものをサーキットエンデューロ、自然の地形を利用するものをクロスカントリーなどと呼ぶ。

「FBクラスに昇格すると、今までのFCクラスのライバルとはまったく違う速さでした……」。
なぜなら、FCクラスからFBクラスに昇格できるのは、全8戦あるシリーズの最終戦終了時点でランキングトップ10以内の選手だけだからだ。
「周りが速すぎて、何かを変えないとダメだな……と思い、トライアルをやり始めたんです」。

ちなみにトライアルとは、岩などで作られた難しいセクションを、バイクに乗ったまま足を地面に着かずに走破する競技で、バイクテクニックの向上には、このトライアルが効果的とはよく聞く話。
「最初は手持ちのバイクでやっていたんですが、トライアル専用バイクじゃないとできないことも多い。専用バイクは車重がとても軽くてバイクを操りやすく、低回転でエンジンがよく粘るからセクションをこなしやすいんです。すぐに専用バイクが欲しくなって、中古で程度のいい、このシェルコ・ST250を買いました」。

「スピード競技ではないのでケガのリスクも少ないし、まわりには結構年配の方も多い。 つまり、“一生付き合えるバイクスポーツ”だな、と感じました。
しかも、遅いスピードでも非常に楽しいし、難しい所を走破できた喜びなどを感じることもできる」。

■経済的でリスクも低いから「いい歳して」ハマれる


「スピードを競うレースは消耗品にお金がかかりますが、トライアルは本当に経済的。
タイヤは年に1回交換するだけでいいし、そもそもスピードが遅いので、チェーンやブレーキパッド、ガソリンもあまり減らない。ちなみにST250は整備性もいいので、練習後の洗車→メンテナンスが1時間くらいで終わります。
新車で買うと100万円くらいですが、トライアル遊びで知り合った方から極上コンディションのものを新車の半分以下で譲っていただきました。
オフロードは遅いスピードで楽しめるのも魅力のひとつですが、トライアルはさらに“遊び”の垣根が低く、すぐに友人ができるのもいいんですよ」。

確かにオンロードバイクだと、そもそも“遊ぶ”という感覚はあまりない。お金を払ってサーキットを走るのは、金銭的に敷居が高く感じてしまうのも事実だ。
シェルコ・ST250を買ってまだ半年ながら、スピードを追求するレースとは、また違った方向の楽しみを知ってしまった高野さん。
「いい歳して……」と言われながらも難しいセクションに挑むおじいちゃんになった高野さんも、きっと今日と同じように、目の前のオフロードを笑顔で見つめているのだろう。
山中基嘉=写真 今坂純也=取材・文