かく語る『スラムダンク』とは……
 
小・中学校時代にリアルタイムで夢中になり、「ジャンプの連載を毎週楽しみにしていた」というアルコ&ピースのお二人。

そんな彼らは、『スラムダンク』愛をかく語る。

アルピー平子&酒井が『スラムダンク』木暮たちから学んだ「無個...の画像はこちら >>


「僕らは結局、石井なんですよ」

アルピー平子&酒井が『スラムダンク』木暮たちから学んだ「無個性の自分でも……」

平子 僕が『スラムダンク』に夢中になったのは、やっぱり主人公がゼロからバスケを始めるというところに自分を重ね合わせられたからだと思います。

努力によってポテンシャルを開花させて相手を無双したと思ったら、さらなる強者が大きな壁として立ちはだかる

そのバランスがいいんです。一見ファンタジーな要素を含んでいるようで、非常にリアリティがあるところが魅力でしたね。

アルピー平子&酒井が『スラムダンク』木暮たちから学んだ「無個性の自分でも……」

酒井 当時、プロ野球でいったら松井秀喜がいて、サッカーでいったらキングカズがいた。で、バスケで憧れる選手といえば、この漫画のキャラクターたちだったんですよ。

マイケル・ジョーダンとかだと手が届かないけど、桜木や流川は身近に感じられた。それはやっぱり、物語がリアルに描かれているからこそだと思いますね。

アルピー平子&酒井が『スラムダンク』木暮たちから学んだ「無個性の自分でも……」
『スラムダンク』(21巻)

平子 キャラクターで言えば、僕は木暮くんが好きでした。21巻に「メガネ君」ていう回があるんですよ。

インターハイ出場を決める陵南戦の土壇場に、木暮くんが試合を決定づけるスリーポイントを決めるんです。そして、陵南の田岡監督に「あいつも3年間がんばってきた男なんだ。侮ってはいけなかった」って言わしめるんですよね。

一見おとなしそうで、特に秀でているところもないんだけど、ずっと努力を重ねた上で、最後にパーっと花開いたのが、すごく心地よかった。

木暮くんは個性派揃いのチームの中でも超常識人で、さまざまな局面でまとめ役に徹している。

超個性派集団の中で、無個性の自分に何ができるか思案する毎日だけど、積み重ねたものが、たまにハマるときがあるそんなとき、この木暮くんのスリーポイントの感じが自分と重なるんですよ。僕は木暮くんなんですよね、この芸能界において。

アルピー平子&酒井が『スラムダンク』木暮たちから学んだ「無個性の自分でも……」

酒井 僕は真逆だなぁ。流川が好きでしたね、当時は。めちゃくちゃ憧れましたよ。授業中めっちゃ寝る、でもバスケめちゃくちゃ上手い、みたいな。格好いいですよね。

でも、そういうのに憧れながら、実際の自分には無理だとわかってしまって泥臭い方向に行っちゃうんですよ。サッカーで言えば元イタリア代表のガットゥーゾみたいな。

でも、大人になって思うのは、僕らは石井なんですよ。結局、『スラムダンク』は石井から見た湘北の物語なんじゃないかって

山王戦終盤の「湘北に入ってよかった……」っていうセリフ。あれがすべてですよね。桜木の手を握ったあとの「僕の念も込めといたから!」っていうセリフも、読者みんなが思っていただろうし。

アルピー平子&酒井が『スラムダンク』木暮たちから学んだ「無個性の自分でも……」


「堂本監督は上司にしたい人No.1です」

平子 今、山王戦の話が出ましたけど、土壇場で桜木がルーズボールに飛び込むシーン、あるじゃないですか。

あそこでコートにボールを残した瞬間ゴリの目線になって、晴子さんから最初に桜木を紹介されたシーンが重なるんですよね。

アルピー平子&酒井が『スラムダンク』木暮たちから学んだ「無個性の自分でも……」
『スラムダンク』(30巻)

「桜木君っていうの」っていうセリフが重なった瞬間に、当時の自分が「コレ、もしかして勝つのかな」って思ったのを覚えています。

漫画なんですけど、ドラマ的な演出というか、映像として魅せられている感じ。

酒井 ああいう演出力はスゴいよね。

平子 あと、湘北の面々が勝利に湧いているときに、山王の堂本監督が選手たちに「『負けたことがある』というのが いつか 大きな財産になる」っていうセリフ、いいですよね。

アルピー平子&酒井が『スラムダンク』木暮たちから学んだ「無個性の自分でも……」
『スラムダンク』(31巻)

僕、『男はつらいよ』が大好きで、本当にしんどいときは主題歌の2番の歌詞を思い出すんです。

「ドブに落ちても根のあるやつは、いつかは蓮(はちす)の花と咲く」っていう。それに通ずる言葉だなと。

あの堂本監督の言葉は、失敗したときに何度も救われました。僕の中で上司にしたい人No.1です。

アルピー平子&酒井が『スラムダンク』木暮たちから学んだ「無個性の自分でも……」
『スラムダンク』(21巻)

酒井 僕は陵南戦の最後に、桜井が「戻れっ!! センドーが狙ってくるぞ!!」って言うあのページ、ヤバいですね

『スラムダンク』って桜木花道の成長の物語じゃないですか。それが象徴的に描かれているシーンだと思うんです。前回の練習試合では、同じ状況で仙道に逆転されちゃってるんですよね。だから今度は絶対にさせないぞっていう。

よく考えたら残り1秒で4点差なんで、1ゴールじゃ追いつかれようがない。それでも「仙道にはやらせない!」っていう必死さというか、熱い気持ちが描かれている

敗れた田岡監督も仙道も、いい表情してるし

この1ページ、ヤバいなあ。

アルピー平子&酒井が『スラムダンク』木暮たちから学んだ「無個性の自分でも……」

平子 スラムダンク』って伏線回収が見事な漫画ですよね。

山王戦の最後、無音のラストシーンもそう。シュート合宿から、流川との関係性から何まで、全部がフリで。

アルピー平子&酒井が『スラムダンク』木暮たちから学んだ「無個性の自分でも……」
『スラムダンク』(31巻)

振って振って振りまくって、最後にポッと「左手はそえるだけ…」って言う。シビれますよね。実際に桜木の声として耳に届くような錯覚すら覚える。

あのひと言を生かすために無音にしたのかなってくらい、本当に耳に入ってくるかのようでしたよね。目で読んでるセリフが。

チョイスの視点は違えど、ふたりの人生観がしっかり作品とリンクしているのが、実に興味深い。

この後、群雄割拠の芸能界を生き抜く上で教訓としている名シーンにまで、話は膨らんでいく。続きは次回!

こちらも要チェック!
▶︎サンシャイン池崎が『スラムダンク』から学んだ教訓

「かく語る『スラムダンク』」とは……
映画公開も控えたバスケ漫画の金字塔『スラムダンク』。

作品の持つエネルギーは凄まじく、それは時に人生を左右するほどの影響力を持つ。実際に触発され、全国区へ駆け上がったオーシャンズ世代の同志はこの漫画をどう読んだのか。男たちは、かく語る。
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上樂博之=写真 外山壮一=取材・文

出典:『スラムダンク』井上雄彦著/集英社刊

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