『THE MAGARIGAWA CLUB』
そこにはモータースポーツやサーキットなど、競技を連想させるワードは含まれていない。それは2022年末に千葉県南房総市に誕生する、アジア初となる本格的な会員制ドライビングクラブである。
手掛けるのは1861年に創業し、1964年の輸入車取扱い開始から、日本における真のラグジュアリーカーライフを担ってきたコーンズ・アンド・カンパニー・リミテッドである。果たしてそこはどのようなクラブになっていくのか。国内外の様々なコンクールの審査員に招かれ、世界における上質なカーライフを見続けてきたカーデザイナー中村史郎氏に、まずそのコンセプトをお聞きいただき、その後現地で視察をしながらTHE MAGARIGAWA CLUBへの感想を伺った。

【壮大なプロジェクトのジオラマと、今の現地の様子を視察】(写真17点)

成田や羽田といった国際空港から1時間。身一つで行って、すぐに愛車での走行を楽しめる。その日の夜に、銀座でディナーもできる。
そんな車好きが夢見る世界がかなうのも、そう遠い日ではない。2022年に千葉県・南房総市に「THE MAGARIGAWA CLUB」がオープンすると、"エンスーの夢"が現実となるからだ。
 
まずは「マガリガワ・プロジェクト」のコンセプトを俯瞰してみよう。100万㎡もの広大な敷地のうち、38万㎡にあたる部分を開拓し、緑を豊かに残しつつ、800mものロングストレートを擁するロードコースを中心に、和のテイストを生かしたオーナーズ・パドックやクラブハウス、ダイニング、富士山を望むプール、そしてジムや温泉といった施設が設けられている。300台ほどの収容が可能な保管ガレージや、プライベートヴィラとして販売をするオーナーズ・パドックは、A,B,C,Dの4タイプが設定されており、もっとも広いタイプは400㎡もの広さだ。まさに、壮大なプロジェクトである。


「コースが深い山の間の中にあることがスパ・フランコルシャンを、コースの高低差がラグナセカを思いださせますね」とつぶやくのは、日産自動車でチーフ・クリエイティブ・オフィサーを務めた中村史郎氏だ。現在は、東京・代官山とLAハリウッドに構えたスタジオを中心に世界中のネットワークをつないで、独自のデザイン・マネージメントを展開する「SNデザインプラットフォーム」を運営している。クラシックカーへの造詣も深く、世界2大イベント、ペブルビーチとヴィラデステの審査員も務めている。

今回はオクタン日本版として、世界のラグジュアリィカーライフを知る中村史郎氏に、THE MAGARIGAWA CLUBの現地を視察いただき、その意義や価値について忌憚なきご意見をいただくことを企画した。

 
自動車メーカー勤務時代には北米と欧州に長く駐在していて、世界中のサーキットや公道をドライブした経験を持つ中村氏だけに、その言葉には、単なる比喩ではない重みがある。今でも愛車を、アメリカ、イギリス、ベルギーなどに預けていて、海外に赴いた時にドライビングを楽しむのは、日本国内に気持ちよく走れる場所がほとんどないからだ。


「ここはサーキットではなくドライビングコースと呼ぶそうですが、タイムを競うのではなく周囲の自然を楽しみながら、ときには車の性能を引き出して、気持ちよく走ることができるコース設定なのが嬉しい。サーキットだと、タイムを測って躍起になって走るイメージがあって、特に僕の車は古いものが多いから、求める走り方には合わないですね。だからといって、日本の公道では車のパフォーマンスを出して楽しめる環境がない。速度制限が不合理に低すぎるし、運転が上手くないドライバーが多いから、ストレスがたまります。以前は毎月のように海外出張があったので、ロンドンに行った時にはサセックスに預けてある車で郊外のワインディングロードを、ロサンゼルスではガレージのあるラグナビーチから内陸にある山道などを好んでドライブしていました。向こうは制限速度が高いし、みんながいいペースで走っているから存分に楽しめる。
ただ、今はコロナ禍で欧米への渡航もままならない状況なので、長い間行っていません。だから、預けてある車を日本に持ってくるつもりですが、ここを走ったらさぞかし気持ちいいだろうなあと想像します」(中村氏)
 
そう、「THE MAGARIGAWA CLUB」の中心的存在であるドライビングコースは、速さを競うサーキットではなく、あくまでドライビングを楽しむロードコースなのだ。ロングストレートと高低差の大きなハンドリング・セクションを組み合わせたコースの設計を担当したのは、世界中のF1サーキットを手掛けた名門設計事務所である「ティルケ・エンジニアーズ&アーキテクツ」である。富士スピードウェイの改修プロジェクトが記憶にある読者も多いはずだが、スパ・フランコルシャン、モンツァといった名門F1サーキットの改修やシンガポールGPのような公道サーキットの設計も手掛けている。
 
森の中を走り抜けるように設計された全長3.5kmのロードコースには、2本のストレートと合計22のコーナーが組み合わされている。パドックから走り出し、コークスクリュー風の下り坂コーナーを抜けたあと、クリッピングポイントに付いたら、メインストレートに入ってアクセルを全開フルスロットルが可能だ。
折り返して、再び、ストレートを走り抜けると、今度はオールージュ風の上り坂のコーナーが待っている。高低差も含めて、変化に富むコースは、さらに四季によって変化する自然の景色に囲まれている。
 
実は、このプロジェクトを発案したコーンズ・アンド・カンパニー・リミテッドがティルケ率いる設計事務所にこのプロジェクトを依頼した際、ティルケ自身も「クレイジーだ!」と思ったという。通常、サーキットの設計の依頼を受けるときは、たいていが平坦な敷地が用意されているのだが、マガリガワ・プロジェクトでは山間の豊かな自然、つまり、かなりの高低差がある土地にコースを一筆書きで設計することになる。実は、ティルケ氏といえども難関だった。さらに、ロードコースであるがゆえに、クリティカルな領域や高速域を堪能できると同時に、サーキット以上に安全に走れることを意識して設計した。
路面についても、従来のサーキットを研究した上で、快適かつ安全に走れる配合を独自に開発している。また、プロ・ドライバーによる習熟走行などのプログラムも用意する方針だ。

「ジオラマで見たよりも、はるかに壮大ですね。コースのアップダウンもすごいし、コース幅も想像していたより広い。現地に来てみないと分からなかった。クラブハウスからは富士山や東京湾を望めるようですが、眺めの良さは必須条件ですよね。この場所なら、朝に思い立って車で来てパドックで車を乗り換えて、午前中にゆっくり何周か走ったあと、景色を眺めながらランチ。また午後に少しペースを上げて...なんて使い方ができそうです。つまり、ここは自動車の役割が二極化する時代の乗馬クラブですね。車は保管しておくだけではなく、すぐに走れるように維持管理をしてもらえるのはありがたい」(中村氏)

当然のことだが、マガリガワ・プロジェクトを企画するコーンズ・アンド・カンパニー・リミテッドの傘下に、ロールス・ロイス、ベントレー、フェラーリ、ランボルギーニ、ポルシェなどのラグジュアリー・カーの販売を行うコーンズ・モータースや株式会社C.P.Sを擁するだけに、スーパーカーからクラシックカーまで車両の維持管理を任せても心配はない。

「『とにかくスケールが大きい』の一言に尽きる。よくもこの構想を実現したものだと感心します。これほどの規模でありながら、完全に会員制というのがユニークですね。会員になれるような恵まれた人たちにとって、素晴らしい環境でのドライブを楽しむことはもちろん、会員の交流の機会も生まれるのだと思います。世界中を見ても、このような会員システムのコースは、私は知りません。将来的には、走ることだけでなくここでコンクールデレガンスなども開催して、豊かな自動車文化を育てて欲しいですね」(中村氏)

クラブ・メンバーが自然を楽しんで走るだけではなく、地元の方がアクセスできる公園エリアを設定したり、元々、この地に存在した祠やみかん畑をコース内に活かしたり、水源にビオトープを設けたり、造成のために削った丘の土をコースの盛土に使ったり、コース周辺の自然に生きる動物の安全に配慮するなど、地域の環境や自然にも十分な配慮をし、地元に密着した施設として持続可能性も重視している。

2022年のオープン予定を前に、すでに会員権の販売は始まっている。現在の販売価格は2850万円、300台のストレージの月額は6万円(予定)という設定だが、世界的に見てもユニークなエクスカーションであり、クラブ・メンバーとの交流の場となるだけに、グッド・バリュー・フォー・マネーな選択になり得るだろう。

文:川端由美 監修:中村史郎(株式会社 SN DESIGN PLATFORM) 写真:尾形和美 
Words:Yumi KAWABATA Supervisor:Shiro NAKAMURA Photography:Kazumi OGATA

THE MAGARIGAWA CLUB

所在地:千葉県南房総市 
敷地面積:約 100万㎡
コース設計:全長 3.5km、上り20%、
下り16%勾配、ストレート800m、
コーナー22、標高差 80m
アクセス:車で東京都心
および羽田空港から約 1時間
2021年後期会員権価格:2850万円(税込)
URL:www.magarigawa.com

THE MAGARIGAWA CLUBを育む様々なイベント

オフロード試乗 SUVトレイル
2020年11月。造成中のTHE MAGARIGAWA CLUB現地にて、巨大な6輪走行車やショベルカーが行き交う造成地を、ラグジュアリーSUVでドライブできる体験会「MAGARIGAWA SUV Trail Drive」が開催された。この日のためにコーンズ・モータースが用意したモデルは、ロールス・ロイス「カリナン」、ベントレー「ベンテイガ」、ランボルギーニ「ウルス」、ポルシェ「カイエン」といったラグジュアリー・ブランドのSUVばかりだ。クラブ・メンバーにとっては、初めてのコース体験となるだけに、造成中の土けむりが舞う中、オフローダーならではの力強さで走り抜けていくシーンはまさに壮観だ。クラブハウス予定地からメインストレートに向かう下り坂や反対にクラブハウスのアンダーパスになる予定地の坂道など、THE MAGARIGAWA CLUB のロードコース特有の高低差を味わえるシーンが用意されていた。工事が完了してしまうと決して味わえない、「今だけの体験」となったことは間違いない。

ヴァーチャル・ドライブ
百聞は一見にしかず、とはよく言ったもので、正直なところ、いくら言葉で「THE MAGARIGAWA CLUB」のロードコースのユニークさを書き連ねても、その魅力の一部しか伝わらない。しかしながら、ル・マンウィナーである小林可夢偉選手によるヴァーチャル・ドライブなら、彼の視点で一周を体験するだけで、ロードコースの醍醐味が理解できる。パドックを出てすぐに差しかかる急な坂道のコーナーのあと、最高速に達するメインストレートでアクセルを全開に踏んで、さらにフルブレーキからヘアピンに進入する。 再度、アクセルペダルに載せた右足を踏み込み、一転して上り坂のコーナーに入っていき、ツイスティな複合コーナーからブラインド気味の上りコーナーへ駆け上がる...といったシーンを目の当たりにすると、MAGARIGAWAのロードコースの醍醐味が手にとるようにわかるはずだ。可夢偉さんによるヴァーチャル・ドライブの模様は、ホームページからもアクセスできる。

トラックセッション 鈴鹿
「THE MAGARIGAWA CLUB」のオープンは2022年だが、会員向けイベントはすでに回を重ねている。直近では、日本を代表する鈴鹿サーキットの国際レーシングコースにおいて走行 イ ベ ント「MAGARIGAWA Track Session」を開催しており、インストラクター同乗走行、先導走行、スポーツ走行、マンツーマンレッスンといった会員限定のレッスンを堪能できる内容だった。限られた走行台数で鈴鹿の5.8kmにおよぶフルコースを堪能できるのは、クラブ・メンバーにとって、またとない好機となったに違いない。このイベントはコーンズ・モータースが主催した「CORNES DAY2021」と同日に、開催され、会員以外のコーンズ・モータースの顧客も体験できる本格的なシミュレーターによるドライビングコースの走行機会も用意され、まだクラブ・メンバーではない方々にもTHE MAGARIGAWA CLUBのプロジェクトを知ってもらう好機となった。