先行するヴァンキッシュSを走らせているのは、私をはるかに凌ぐ凄腕のミーデンだ。DB11で追いかける私がなんとか離されずについていけるのは、履いているオールシーズンタイヤによるところが大きい。それに加えて、しなやかな足周りのおかげでタイヤの接地面がしっかり路面に押しつけられているからだ。
これほどまでに強大なパワーをちゃんと推進力に転換できていること自体、驚きに値する。この滑りやすい路面コンディションでグリップを得ていることすら奇跡に感じられる。もちろん路面状況を利用する手だってある。
しゃくに障ることに、彼はたとえ横滑りの状態であっても、私が直線を走るときと同じくらい速い。とはいえ、腕の立つドライバーがパワフルなスポーツカーを踊らせている様は、いくら見ても飽きることがない。私だって空港の滑走路やランオフエリアが何エーカーもあるようなサーキットなら、試す気にもなるだろう。
だが、ここでは無理だ。
アストンマーティンは親切にも、車をそれぞれの自宅へ届けると申し出てくれた。荒野の素晴らしい道へ自宅から直行できるようにとの配慮だ。ミーデンも私も、どちらが届くかを知らされていなかった。届く車は2台の性能と魅力を比較する上での最初の基準になるが、どちらが来ても同じくらい面白い旅になることは予想できていたから、どちらでもよかった。
いよいよDB11が現れる。素晴らしい車であることはひと目で分かった。紛れもなくアストンなのだが、これまでとは明らかに異質で、堂々たる貫禄もある。その印象には車幅も影響しているだろう。DB9よりひと回り大きく感じられ、最初はスピードを出せなかった。もうひとつ、車体の剛性が上がっていることもすぐに感じられた。
高速道路でノースヨークシャーまで行く長い道のりで、DB11はグランドツアラーとしての役割を完璧にこなした。80mphでもエンジンは1750rpmに届くかどうかで回っているのだが、交通量が減ったときなどにスロットルペダルを踏み込むと、ターボで増強されたパワーが一気に溢れ出すのだ。恐ろしく速い車なのは間違いない。V12のエンジン音も失われておらず、回転を上げたり"スポーツ" モードにしたりすると、以前と同じような美しい咆吼を響かせる。
私は"スポーツ" モードを選ぶことが多かった。
待ち合わせ場所に向かって田舎道を走ると、DB11に秘められた能力の奥深さにどんどん魅了されていく。ツインターボエンジンの強烈なパンチはいうまでもない。シャシーのしなやかさやコントロール性ももちろん。
ところがヴァンキッシュSに乗り換えると、DB11にも少したりないものがあることに気づいた。それは路面とダイレクトにつながる感覚、特にステアリングを介しての感覚だ。エンジンにも同じことがいえる。DB11はターボエンジンとは思えない抜群のスロットルレスポンスを見せるが、ヴァンキッシュSはさらに少し歯切れがよいのである。
そしてサウンドも。トランペッターがミュートを外したかのごとく、自然吸気のV12エンジンは神々しいサウンドを奏でる。トップエンドの力強さも秀逸だ。空気をバリバリと震わせながら、回転が上がれば上がるほどパワーが沸々と湧き出てくる感覚は、最高に気持ちがいい。ヴァンキッシュSの方が何もかも少しずつ強烈なのだ。
コクピットにはアナログなハンドビルドの雰囲気が漂い、より親しみやすい印象を受ける。対するDB11にはデザイナーズブランドのような高級感がある。操作系の品質も高く、最新の装置が揃い、すべてが機能的だ。全体的な完成度の高さも抜群で、ドイツ的な雰囲気すら感じられる。
どちらも見事なできばえで、両方ともたまらなく魅力的だ。DB11の方が、角が取れていて、より洗練されている。どんな道、どんなコンディションでも楽しむことができ、攻めれば攻めるほどその優秀さに感服させられる。オールラウンドな能力では、アストン史上最高といえるだろう。ただ、ヴァンキッシュSには最高のアストン"らしさ" がある。個性が強く、強烈。そしてダイレクトにつながる感覚が"本物" のドライバーになった気分を味わわせてくれる。"普通" のドライバーである私が言うのだから間違いない。