リーは中国の功夫(カンフー)を独自に発展させた「截拳道(ジークンドー)」により、アクション映画に革命をもたらしました。極限まで鍛え抜かれた肉体を活かして、誰も見たことがないようなパワフルな格闘をする。世界中の観客がリーの映画を観るなり、「自分もああなりたい!」と思い、モノマネをしたり、実際に格闘技を習ったりする人が続出しました。
ジャッキーは駆け出し時代、リーの『ドラゴン怒りの鉄拳』『燃えよドラゴン』にスタントマンとして出演。リーの仕事ぶりを間近で見て、アクション以上に、映画製作そのものについて多くのことを学びました。
特に影響を受けたのは、映画全体をコントロールしようとする完璧主義です。監督はいるものの、実質的な主導権はリーが握り、アクションの振り付けから、カメラアングルの指定まで、すべて自分で決めていたそうです。だからブルース・リーの映画は、どれもがほかの人には絶対に作れないオンリーワンの美学に貫かれています。
ジャッキーも自身の映画で監督や武術指導を兼任することが多いですが、それはリーを見習ってのこと。しかし、映画の内容についてはリーの対極を選びました。ブルース・リーを「観客があこがれる超人」とするなら、ジャッキー・チェンは「観客が共感できる小市民」を目指したのです。
ブルース・リーの影響力はあまりに大きく、彼の死後には多くのフォロワーが生まれました。しかし同じことをやっている限り、リーを超えることはできない。そう考えたジャッキーは、「次のブルース・リー」ではなく、「最初のジャッキー・チェン」を目指すことで、自分もリーのようなオンリーワンのスターとなったのです。
◆ケトル VOL.40(2017年12月14日発売)