1994年『漫画ゴラク』にて連載を開始、最新55巻が絶賛発売中! 累計発行部数800万部を記録するラズウェル細木の長寿グルメマンガ『酒のほそ道』。主人公のとある企業の営業担当サラリーマン・岩間宗達が何よりも楽しみにしている仕事帰りのひとり酒や仕事仲間との一杯。
「今年もいい酒飲めますよーに」

大晦日、今年はおじさんおばさんと3人、温泉旅館で過ごすという豪華な年越しのようだ。しかし宗達の顔は浮かず、「できればもう少し落ち着いてしっとりやりたいんだけど やっぱ温泉の年越しなんてこんなもんなのかね」と天邪鬼っぷりを発揮。
そこでひとり旅館を抜けて初詣へ。帰り道、大雪の降る山道を歩いていると、なんと足を滑らせて川に落ちてしまう。大あわてで宿に戻り、露天風呂に入って命拾い。さらには酒まで飲んで、「やっぱ年越しは温泉に限るっ!!」と180度態度を変える、いつもどおりの宗達なのだった。
というのが本編なんだけど、僕が特に感動したのは何気ない初詣の1シーン。柏手を打ったあと、実にさらりと「今年もいい酒飲めますよーに」とお願いをしている。いくら酒飲みといったって、こんなときばかりは「家内安全」「商売繁盛」などを願ってしまいそうなものだが、宗達の頭の中は「そんなことより酒!」なのだ。とてもかなわない……。
「飲みたいものを飲み食べたいものを食べる それが人生だよ」
『酒のほそ道』第18巻第24話「きのこでやせよう」©ラズウェル細木/日本文芸社課長、かすみと、カウンター酒場で飲んでいる宗達。この日のママのおすすめは秋の幸。シメジ、マイタケ、ナメコ、ヤマブシタケ、エリンギ、ヒラタケ、そして輸入ものながら松茸まであるという充実ぶりの、きのこたちだ。
がぜんテンションの上がる面々だが、宗達の様子だけがなにやらおかしい。ママが白マイタケの天ぷらを提案すると、「課長 白マイタケなら網焼きにしてスダチと塩で食べる方がうまいですよ」。シメジとベーコンのバター炒めなら、「いやっ シメジはダシ醤油で煮て玉子でとじるのが一番ですよ」。終始こんな調子。
ただしかすみは最初からお見通しで、最終的に「課長 岩間さんのダイエットにおつき合いする必要はないですよっ」とぴしゃり。宗達が夏のあいだに増えた体重を気にし、なるべくヘルシーな調理法で食べようとあがいていただけだったというオチだ。
観念した宗達はついに松茸の天ぷらをほおばり、満面の笑みを見せる。そこで課長のこのひと言。『酒ほそ』のキャラクターのなかでも、実は課長の名言率は高い。
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次回「小さなシアワセの見つけかた『酒のほそ道』の名言」(漫画:ラズウェル細木/選・文:スズキナオ)は10月18日(金)公開予定。
Credit: 漫画=ラズウェル細木/選・文=パリッコ