行政を監視する議会の役割を放棄したに等しい。「出来レース」と言われても仕方のない事態だ。
 浦添市議会で、議案に賛成の立場で議員が意見を述べる賛成討論の原稿(討論文)を市側が作成し、与党系会派の市議に提供していたことが明らかになった。 原稿は少なくとも過去10年間に105件作成されていた。最も多く作成していたのは財政課の28件で、国民健康保険課21件、こども政策課13件と続く。 市はあくまでも参考資料とするが、「賛成討論」のタイトルで日付や議案名を記載し「賛成の立場から討論を行います」との文言から始まる。明らかに読まれることを想定した討論原稿であり、資料の範ちゅうを超えている。 原稿のうち、確認できた4件は市議がほぼ文面通りに議場で発言していた。
 20年近く「慣例」として続けてきたという市職員の証言もあり、市が作成した原稿を読み上げた市議はさらに増える可能性が高い。驚きを通り越してあきれるほかない。 通常は自ら用意する討論文を、事前に担当課と原稿の文言調整をしていると話す市議もおり、与党と行政とのなれ合い関係が見て取れる。 こうした慣例が続けば、行政に対するチェック機能はなおざりになり、住民の不利益につながりかねない。 市議会の一部の委員会では最近、賛成討論の原稿使用をやめようと申し合わせたというが、それで済む話ではないだろう。 議会の存在意義も問われる事態と受け止め、今後一切の原稿使用をやめるべきだ。
■    ■ 同じような問題が各地の議会で相次ぎ発覚している。 2021年には埼玉県春日部市で、長年にわたり市が賛成討論の原稿を作成し、議員に提供していたことが報じられた。市職労の広報紙で取り上げられたことで市は前年の12月定例会以降、作成をやめたという。 今年に入っても千葉県袖ケ浦市議会で数十年前から賛成討論の原稿を市執行部が作成して、議員へ提供していたことが判明。市民団体からの指摘を受け、9月の定例会からやめた。 議案を通してもらいたいという行政側の思惑が背景の一つとなっている。
 発覚したどの議会でも数十年にわたって続いてきたことを考えれば、人ごとにせず全ての議会で点検し、その結果を住民へ公表すべきだ。■    ■ 地方議会は、首長と議員がそれぞれ直接選挙で選ばれる「二元代表制」をとる。 共に住民を代表する両者が適度な緊張感とバランスを取りながら、地域の施策を決めていくことが求められている。 5月に改正された地方自治法では地方議会の役割が明確化された。そこには「議員は、住民の負託を受け、誠実にその職務を行わなければならない」とある。 自らの言葉で議論することは、言論の府として当然のことだ。
議員としての原点に立ち返り、あしき慣例と決別すべきだ。