戦後80年の「慰霊の日」の23日、沖縄戦の激戦地だった糸満市米須の「魂魄(こんぱく)の塔」には、早朝から祈りをささげる人たちの姿があった。肉親の遺骨がなく遺影を持参した高齢者。
魂魄の塔 終戦翌年の1946年2月に建てられた、県内で最初の慰霊塔。生き残った住民たちが、焦土に散らばった遺骨を手作業で集め、遺骨約3万5千柱を納めた。遺骨の大半は国立沖縄戦没者墓苑に移された。
午前5時15分 この日、最初に塔を訪れたのは沖縄市の仲村光子さん(80)。27歳で亡くなったという父の知念牛(うし)さんの生前の写真を持参した。沖縄本島南部のどこで亡くなったか分からないといい、「ここにいるんじゃないかと思って。毎年朝に来るんです」。
亡くなった父の知念牛さんの生前の写真を手にする仲村光子さん=23日午前5時29分、糸満市米須・魂魄の塔(吉田光撮影)
午前6時10分 嘉手納町の真榮城玄信さん(92)は2人の兄を失った。2人の遺骨はなく、魂魄の塔の周辺で拾った小石三つを遺骨の代わりに墓に納めている。兄の遺影や召集令状を塔に置いて線香を手向けた。
2人の兄をしのぶ真榮城玄信さん(中央)=23日午前6時9分(吉田光撮影)
午前6時50分 祖父が沖縄戦で犠牲になり、伯父らと氷やお茶を手向けた眞壁采花さん(首里中3年)は「学校でも、民間人を巻き込んだ戦争だったと学んだ。祖父の話も家族から聞いて、沖縄戦のことをもっと知りたい」と力を込めた。
午前7時20分 八重瀬町出身で防衛隊にとられた父・直明さんを亡くした金城忠清さん(81)=糸満市=は「父の記憶はない。糸満市与座辺りで爆撃に遭って亡くなったと聞いた。歩けるうちは『安らかにお休みください』と伝えに来たい」。
午前7時40分 妻と娘3人、孫6人らと訪れた宜野湾市の伊是名薫さん(81)は、糸満市山城で亡くなった伊是名村出身の父安剛さんを悼んだ。「父の遺骨はない。子や孫の時代にはいいことがあるようにと祈った」。娘の具志堅みおりさん(49)も「子どもたちとはひいおじいの話をして、戦争を起こさない、平和な時代にしようと話している」と語った。
塔に供えられた氷のブロックと花=23日午前6時57分(吉田光撮影)
午前8時過ぎ 慰霊の日のために帰省した大城光さん(23)=東京都=は、西原町で暮らす祖母久子さん(87)らと塔を訪れた。久子さんが沖縄戦の体験を話してくれるようになったのはここ数年前から。
今年5月、自民党の西田昌司参院議員がひめゆりの塔の展示を「歴史の書き換え」などと発言した。大城さんは「歴史を学ぶ必要性を改めて感じた。将来的に、沖縄や本土の子どもたちに語り継いでいく取り組みもしたい」と話した。
祖母の久子さんと魂魄の塔を訪れた大城光さん=23日午前8時25分(豊島鉄博撮影)
午前9時 父親を糸満市の壕で亡くした比嘉徹さん(81)=豊見城市=は「戦争は人を大きく変えてしまう」と話す。戦後、父がいないという理由で小学校でいじめられ、「父がいたら」と思ったこともある。戦争でつらい思いをするのは子どもや弱者なんだと痛感した。
中東情勢の緊迫で、武力衝突の拡大が懸念される。「沖縄戦後のような過酷な世界をもう二度と見たくない」
午前10時 手持ちの扇風機を持ち、タオルを首に巻いた7人がやって来た。中央大学法学部のゼミ研修で沖縄を訪れていた学生たちだ。
3年の須郷裕梨さん(20)は初めての沖縄。
沖縄戦体験者の大屋初子さん(前列中央)を囲む中央大の学生ら=23日午前10時5分(城間陽介撮影)
午後1時 うるま市の山城栄二さん(87)は10歳近く上の兄正雄さん(享年17)を亡くした。栄養失調で目が悪くなり、軍に置いていかれ南部で亡くなったと聞いた。
家族で毎年塔に足を運ぶ。「ここ50年近くきょうだいと一緒に来ています」と妹の宇地原英子さん(76)=八重瀬町。塔にいなりずしやかまぼこなどを供えた後、近くの木陰にブルーシートを敷いて、兄の山城稔さん(89)らと共に食事をした。その後、いつものように「平和の礎」に向かった。
魂魄の塔近くにブルーシートを敷いて、兄の山城稔さん(左端)や妹の宇地原英子さん(右から2人目)らと食事をする山城栄二さん(右端)=23日午後1時36分(豊島鉄博撮影)
午後1時半 魂魄の塔の後ろ側でプラスチックのコップにお酒を注いでいたのはうるま市から来た仲村タキ子さん(80)。自身は母に連れられ北部に疎開していたが、沖縄戦で祖父、父、おばを失った。おばは南部のどこで亡くなったか分かっていない。
平和を願い、今の世界情勢を憂う。
午後3時 沖縄市の琉球舞踊研究所による、反戦の願いを込めた舞踊が披露された。当時の学徒隊の服装を再現した門下生5人が、ユリの花を手に踊った。「全学徒隊の碑」や「白梅之塔」「梯梧(でいご)之塔」も訪れたという。
主宰する平良須賀子さん(68)は「犠牲者に天国で安らかに過ごしてもらいたい。反戦の願いを込めた」と話した。参加した沖縄市の中学3年の女子生徒(14)は「80年前の戦争で、自分と同じ年代の子たちがつらい思いをした。平和な世界をつくっていきたい」。
ユリの花を手にして、反戦の願いを込めた舞踊を披露する中学生ら=23日午後2時55分(豊島鉄博撮影)
午後も、魂魄の塔を訪れる人の姿は途切れることがなかった。塔の前で涙を拭う人も多かった=23日午後3時36分(吉田光撮影)
亡くなった父の知念牛さんの生前の写真を手にする仲村光子さん=23日午前5時29分、糸満市米須・魂魄の塔(吉田光撮影)">
2人の兄をしのぶ真榮城玄信さん(中央)=23日午前6時9分(吉田光撮影)">
塔に供えられた氷のブロックと花=23日午前6時57分(吉田光撮影)">
祖母の久子さんと魂魄の塔を訪れた大城光さん=23日午前8時25分(豊島鉄博撮影)">
沖縄戦体験者の大屋初子さん(前列中央)を囲む中央大の学生ら=23日午前10時5分(城間陽介撮影)">
魂魄の塔近くにブルーシートを敷いて、兄の山城稔さん(左端)や妹の宇地原英子さん(右から2人目)らと食事をする山城栄二さん(右端)=23日午後1時36分(豊島鉄博撮影)">
ユリの花を手にして、反戦の願いを込めた舞踊を披露する中学生ら=23日午後2時55分(豊島鉄博撮影)">
午後も、魂魄の塔を訪れる人の姿は途切れることがなかった。塔の前で涙を拭う人も多かった=23日午後3時36分(吉田光撮影)">
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戦争体験者の祖母と訪れた若者。それぞれの思いを聞いた。(社会部・豊島鉄博、吉田光、南部報道部・新崎哲史)
魂魄の塔 終戦翌年の1946年2月に建てられた、県内で最初の慰霊塔。生き残った住民たちが、焦土に散らばった遺骨を手作業で集め、遺骨約3万5千柱を納めた。遺骨の大半は国立沖縄戦没者墓苑に移された。
午前5時15分 この日、最初に塔を訪れたのは沖縄市の仲村光子さん(80)。27歳で亡くなったという父の知念牛(うし)さんの生前の写真を持参した。沖縄本島南部のどこで亡くなったか分からないといい、「ここにいるんじゃないかと思って。毎年朝に来るんです」。
亡くなった父の知念牛さんの生前の写真を手にする仲村光子さん=23日午前5時29分、糸満市米須・魂魄の塔(吉田光撮影)
午前6時10分 嘉手納町の真榮城玄信さん(92)は2人の兄を失った。2人の遺骨はなく、魂魄の塔の周辺で拾った小石三つを遺骨の代わりに墓に納めている。兄の遺影や召集令状を塔に置いて線香を手向けた。
「いい天気に恵まれて、兄貴たちが見守っていると実感する。今後も日本や沖縄で戦争が起こらないよう、われわれは毎年祈らなければならない」
2人の兄をしのぶ真榮城玄信さん(中央)=23日午前6時9分(吉田光撮影)
午前6時50分 祖父が沖縄戦で犠牲になり、伯父らと氷やお茶を手向けた眞壁采花さん(首里中3年)は「学校でも、民間人を巻き込んだ戦争だったと学んだ。祖父の話も家族から聞いて、沖縄戦のことをもっと知りたい」と力を込めた。
午前7時20分 八重瀬町出身で防衛隊にとられた父・直明さんを亡くした金城忠清さん(81)=糸満市=は「父の記憶はない。糸満市与座辺りで爆撃に遭って亡くなったと聞いた。歩けるうちは『安らかにお休みください』と伝えに来たい」。
午前7時40分 妻と娘3人、孫6人らと訪れた宜野湾市の伊是名薫さん(81)は、糸満市山城で亡くなった伊是名村出身の父安剛さんを悼んだ。「父の遺骨はない。子や孫の時代にはいいことがあるようにと祈った」。娘の具志堅みおりさん(49)も「子どもたちとはひいおじいの話をして、戦争を起こさない、平和な時代にしようと話している」と語った。
塔に供えられた氷のブロックと花=23日午前6時57分(吉田光撮影)
午前8時過ぎ 慰霊の日のために帰省した大城光さん(23)=東京都=は、西原町で暮らす祖母久子さん(87)らと塔を訪れた。久子さんが沖縄戦の体験を話してくれるようになったのはここ数年前から。
両親やきょうだいなど8人を亡くし、地面に多くの人が倒れ、大量の血が流れるのを見たという。10年前まで全く戦争の話はしなかった久子さんを、大城さんは「残酷すぎて伝えられなかったんだと思う」とおもんぱかった。
今年5月、自民党の西田昌司参院議員がひめゆりの塔の展示を「歴史の書き換え」などと発言した。大城さんは「歴史を学ぶ必要性を改めて感じた。将来的に、沖縄や本土の子どもたちに語り継いでいく取り組みもしたい」と話した。
祖母の久子さんと魂魄の塔を訪れた大城光さん=23日午前8時25分(豊島鉄博撮影)
午前9時 父親を糸満市の壕で亡くした比嘉徹さん(81)=豊見城市=は「戦争は人を大きく変えてしまう」と話す。戦後、父がいないという理由で小学校でいじめられ、「父がいたら」と思ったこともある。戦争でつらい思いをするのは子どもや弱者なんだと痛感した。
中東情勢の緊迫で、武力衝突の拡大が懸念される。「沖縄戦後のような過酷な世界をもう二度と見たくない」
午前10時 手持ちの扇風機を持ち、タオルを首に巻いた7人がやって来た。中央大学法学部のゼミ研修で沖縄を訪れていた学生たちだ。
3年の須郷裕梨さん(20)は初めての沖縄。
魂魄の塔の前で手を合わせ、戦争で亡くなった一人一人に思いをはせた。「当時亡くなった人たちにも私たちのような暮らしがあったはず。これを伝えるのは私たちだ」
沖縄戦体験者の大屋初子さん(前列中央)を囲む中央大の学生ら=23日午前10時5分(城間陽介撮影)
午後1時 うるま市の山城栄二さん(87)は10歳近く上の兄正雄さん(享年17)を亡くした。栄養失調で目が悪くなり、軍に置いていかれ南部で亡くなったと聞いた。
家族で毎年塔に足を運ぶ。「ここ50年近くきょうだいと一緒に来ています」と妹の宇地原英子さん(76)=八重瀬町。塔にいなりずしやかまぼこなどを供えた後、近くの木陰にブルーシートを敷いて、兄の山城稔さん(89)らと共に食事をした。その後、いつものように「平和の礎」に向かった。
魂魄の塔近くにブルーシートを敷いて、兄の山城稔さん(左端)や妹の宇地原英子さん(右から2人目)らと食事をする山城栄二さん(右端)=23日午後1時36分(豊島鉄博撮影)
午後1時半 魂魄の塔の後ろ側でプラスチックのコップにお酒を注いでいたのはうるま市から来た仲村タキ子さん(80)。自身は母に連れられ北部に疎開していたが、沖縄戦で祖父、父、おばを失った。おばは南部のどこで亡くなったか分かっていない。
平和を願い、今の世界情勢を憂う。
「これからは若い人が頑張って、いい世の中をつくっていかないといけないよ」。記者の肩をポンポンとたたいて励ました。
午後3時 沖縄市の琉球舞踊研究所による、反戦の願いを込めた舞踊が披露された。当時の学徒隊の服装を再現した門下生5人が、ユリの花を手に踊った。「全学徒隊の碑」や「白梅之塔」「梯梧(でいご)之塔」も訪れたという。
主宰する平良須賀子さん(68)は「犠牲者に天国で安らかに過ごしてもらいたい。反戦の願いを込めた」と話した。参加した沖縄市の中学3年の女子生徒(14)は「80年前の戦争で、自分と同じ年代の子たちがつらい思いをした。平和な世界をつくっていきたい」。
ユリの花を手にして、反戦の願いを込めた舞踊を披露する中学生ら=23日午後2時55分(豊島鉄博撮影)
午後も、魂魄の塔を訪れる人の姿は途切れることがなかった。塔の前で涙を拭う人も多かった=23日午後3時36分(吉田光撮影)
亡くなった父の知念牛さんの生前の写真を手にする仲村光子さん=23日午前5時29分、糸満市米須・魂魄の塔(吉田光撮影)">







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