法相の諮問機関である法制審議会の部会で、自動車運転処罰法が定める危険運転致死傷罪の要件のうち、速度超過や飲酒の基準を明示した新制度のたたき台が明らかになった。
法定速度を超過した幅や血中・呼気中のアルコール濃度といった具体的な数値を複数案示した。分かりやすく線引きすることで、捜査や裁判での安定的な運用につなげる目的がある。
法務省は昨年の有識者検討会で法改正の要否を議論した。その結果を受け、鈴木馨祐法相が今年2月に見直しを諮問していた。
現行制度は、速度超過では「進行の制御が困難」、飲酒では「正常な運転が困難」といった表現で危険運転を規定する。抽象的なために、適用範囲が限定される一因となってきた。
裁判でも、専門家の鑑定や運転態様の立証が高いハードルになっている。悪質に見えても、最高刑20年の危険運転ではなく、同7年の「過失運転」が適用されるケースが目立つ。
曖昧さを理由に「故意か」「過失か」を争わなければならない制度は、事故で負傷したり、大切な人を失ったりした被害者側の心身の負担が重い。
悲惨な事故の被害者や遺族の声に耳を傾け、生まれた法律である。だからこそ、国民全体が理解し、納得できるよう改正への議論を尽くしてほしい。
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2021年に起きた大分市の事故では、当時19歳の男が時速194キロで車を運転し、右折車両に衝突、運転手の男性を死亡させた。
一審は危険運転致死罪を適用し、懲役8年を言い渡したが、控訴後の二審で過失か、危険運転かの争いが続いている。
法定速度60キロの3倍を超えるスピードだったにもかかわらず、男が「意図した通りに走行していた」と主張しているからだ。社会常識と著しく乖離(かいり)している。
危険運転の基準となる数値が決まれば、こうした事故でも論点を絞りやすくなるはずだ。
一方で、アルコールの人体への影響には個人差があり、速度超過でも道路状況によって危険の度合いは大きく異なる。
公平で適正な処罰のために、医学的、工学的な裏付けを進め、数値設定の根拠を示し、透明性を確保しなければならない。
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法制審議会の部会では、ドリフト走行やウイリー走行にも危険運転を適用できるよう「殊更にタイヤを滑らせたり、浮かせたりした走行」を対象に加えた。
そのほか、信号無視、スマートフォン操作など、危険運転は多岐にわたる。
法務省は来年の通常国会での法改正を視野に入れており、部会の結論は早ければ年内に出る。
罰則強化だけではなく、アルコール依存症の治療や運転代行サービスの普及など再発防止の支援を充実させる必要もある。
悲劇を繰り返さないために、社会全体で取り組みを進めていきたい。