台湾有事を巡る高市早苗首相の国会答弁に端を発した日中対立が、軍事面にまで広がった格好だ。偶発的な衝突を招きかねず、両国は事態の沈静化を急がなければならない。

 沖縄近くの公海上空で、中国軍の戦闘機が航空自衛隊のF15に対し2回にわたりレーダー照射した。小泉進次郎防衛相が7日午前2時に異例の記者会見を開き公表した。
 防衛省によると、レーダー照射したのは中国の空母「遼寧」から発艦したJ15。6日午後4時32分ごろから3分間と、午後6時37分ごろから約30分間、断続的に照射を行った。
 遼寧は同日、沖縄本島と宮古島の間を通過した後、本島と沖大東島の間を北上。太平洋上でJ15などを発着させる軍事訓練を実施していた。
 そうした中、領空侵犯を警戒し那覇基地から緊急発進(スクランブル)した空自機に対し照射が行われたのである。
 戦闘機のレーダーは、ミサイル発射に向けた準備段階となる火器管制や周囲の捜索目的で使用される。
 断続的に行われた照射は火器管制の目的だった可能性が高い。いわゆる「ロックオン」であり、一触即発の状態にあった。
 中国軍のレーダー照射を巡っては、2013年にも中国海軍艦船が海上自衛隊護衛艦に照射を行ったことがある。この時は尖閣諸島の国有化への反発が背景にあった。

 今回はどうか。高市首相の発言への反発であることは間違いないが、そうだとしても極めて危険な行為であり、度を越している。
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 日本側の抗議に対し中国海軍は「誹謗(ひぼう)中傷」とする報道官談話を発表。「自衛隊機が複数回接近して妨害した」ともしており、両者の言い分は食い違う。
 前回も中国軍は照射を否定していたが、こうした対応には疑問符が付く。
 国家的な意図を持った行為なのか。現場の指揮官レベルの判断なのか。
 中国の習近平体制のようなトップダウンの国では、さまざまな機関が中央に忖度(そんたく)して動く。性急に判断せず冷静に中国側の展開を見極めるべきだ。
 この事態を契機に日中の相互通報体制「海空連絡メカニズム」の運用も確実にしなければならない。
 23年には双方の偶発的衝突を避けるため、防衛当局幹部間のホットラインが開設されたがこれまで実質的な運用はされていない。
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 高市首相は猛省する必要がある。

 くだんの答弁が中国側を刺激するのは自明だった。それなのに首相は答弁の意図について党首討論で「聞かれたので誠実に答えた」と説明。責任を野党の質問者に負わせるかのような釈明をした。
 中国機のレーダー照射について高市首相は「冷静かつ毅然(きぜん)と対応する」と述べた。中国側に厳しく抗議するのは当然だ。
 一方、自らの発言が招いた事態だ。首相は沈静化へ最大限の努力を続ける責任がある。
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