酷暑に見舞われた今年の蝦夷地にも、待ちかねたフェスが帰ってきた。『RISING SUN ROCK FESTIVAL 2025 in EZO』(以下RSR)。
今年の開催は8月15日、16日。小樽、石狩両市にまたがる石狩湾新港樽川埠頭横の特設会場では、初日から照りつける太陽が、ロッカーたちの頭上に降り注ぐ。

 まず登場したのはSUN STAGEのトップバッターのレキシ。いつものようにトークで笑わせたり、同時刻に丸かぶりとなった朋友RIP SLYMEの「楽園ベイベー」をカバーしたり、とエンタメ色満載のステージで、祝祭感あふれるスタートになった。RED STAR FIELDには、メジャーデビュー25年に当たる今年、オリジナルメンバーで期限付き再結成をしたRIP SLYMEが、こちらもレキシの「きらきら武士」のさわりを聞かせてくれるという一幕もあり、ステージ前は、RSRにRIP SLYMEで踊る夏が帰ってきた幸福と興奮に、のっけからテンション上がる一方で、蝦夷の夏フェスの幕を切って落とした。

 def garageでは、ステージ出演をかけたオーディションRISING★STARにえらばれたでかくてまるい。がこの日のオープニングアクトを務めた後、地元・札幌のTHE BOYS&GIRLS・ワタナベシンゴの声が勢い良く響いている。

 日が暮れたRED STAR FIELDでは佐野元春&THE COYOTE BANDが「君をさがしている」でスタート。「ライジングサン10年ぶりです。一緒にロックしよう!」と佐野元春の呼びかけに観客は大歓声を上げる。なんとゲストにスカパラホーンズが加わり「愛が分母」「サムデイ」「約束の橋」を聞かせてくれ、詰め掛けた観客を大いに喜ばせた。

 夜も深まり、SUN STAGEにはSUPER BEAVERが、登場と同時にどよめきのような歓声を浴びているのがはるか彼方からでも確認できる。
結成20周年を迎えたバンドのアーティスト力がそれだけ大きくなっていることを物語っているようだ。渋谷龍太が喜びを爆発させ、会場中を包み込む大合唱とともに熱いステージを展開した。

 夜に入ってキャンパー向けプログラムが始まる。RED STAR FIELDで行われる今年のFRIDAY NIGHT SESSIONは、奥田民生が、ゲストの岸田繁(くるり)やはっとり(マカロニえんぴつ)、後藤正文、喜多健介(ASIAN KUNG-FU GENERATION)、渡辺シュンスケらを交え、誰と誰とが? 何を?との期待を上回るコラボで楽しませてくれる。

 そして、BOHEMIAN GARDENでは久しぶりに一夜限りのバンド・EZOISTが登場。増子直純(怒髪天)を筆頭にワタナベシンゴ、山中さわお、中野ミホら北海道出身アーティストにより「北酒場」「新宝島」「ファイト!」などの楽曲が次々繰り出され、JIRO(GLAY)がベースを担当するという贅沢な音でも存分に楽しませてくれた。

 2日目。正午、ロッカーの頭上には雲一つない青天井に灼熱の太陽が、どっかり腰を据えた。今日もタフな1日になりそうだ。

 SUN STAGEに、宮本浩次が現れると、エレファント・カシマシの名曲からソロのナンバーまで、ステージ上をくまなく練り歩き、あるいはステージから降りて観客に肉薄し、猛暑の熱気を上回る熱と歓声を立ち昇らせた。ソロとしては初出場となるわけだが、すっかりRSRの空気には馴染んでいるとあって、このあとさらにその雄姿を目撃することになった。

 def garageには地元石狩出身のスリーピースロックバンドKALMAが初出演。
結成10年にしてやっと叶った、記念すべきステージを特別なものにするために、メンバーのうち二人の母校、石狩翔陽高校の吹奏楽局と「夏の奇跡」をコラボし、感動的なシーンを残した。

 日がいくらか穏やかになり、あたりの空気が少しやわらぎ始める頃になると、RED STAR FIELDからはBEGINのサウンドが聞こえてきた。「気持ちいいね」と目を細める比嘉栄昇に観客もひとしきり風の心地よさを味わう。「三線の花」「海の声」など、そこだけ沖縄の風が届いているかのように、ひと時暑さを忘れる。

 意外にもこれが初出場のポルノグラフィティがSUN STAGEで盛大な拍手と歓声に迎えられる。岡野昭仁の声が一瞬でその場を染め上げる。恋焦がれたというRSRのステージに爪痕を残すかのようなパフォーマンスは「サウダージ」「アゲハ蝶」「ハネウマライダー」でピークに達し、観客をかっさらっていった。

 そして恒例の花火に続いてSUN STAGEに姿を現したのは和服姿の椎名林檎。「丸の内サディスティック(EXPO Ver.)」で瞬時に会場を丸呑みした感があった。観客はくぎづけになったまま、新曲や「ありあまる富」など掌で転がされるようにその世界観に酔う。そして「獣ゆく細道」でこの日、二度目の宮本浩次が登場すると、舞台上をところ狭しと転げ回り、激しい動きで強烈なインパクトを残した。

 時計の針が天辺に差し掛かろうとするころ、RED STAR FIELDに急ぐ人の群れが次第に膨れ上がってくる。
東京スカパラダイスオーケストラのステージへ、期待に満ちあふれた人々の顔には、疲れよりも高揚感のほうが勝って見える。スカパラが登場する0時にはぎっしりの観客が元気いっぱいに待ち構えるという構図に、メンバー自身が驚くほど。そして次々と登場するゲスト、地元札幌からChevon、10-FEETのTAKUMA、ここでもこの日、三度目の宮本浩次が現れ、全然落ちないテンションでまたしてもひと暴れ。続いてBRAHMANのTOSHI-LOW、そしてこのためだけにやってきたムロツヨシ、と豪華な顔ぶれで、最後はオールスターズによる「Paradise Has No Border」で多幸感一杯に締めくくった。

 今年のオオトリはSHISHAMO。初の女性バンドだ。まだ明けやらぬ空の下、大トリを務める不安が喜びへと変わっていく実感を手に、徐々に白む空へ歌声を届ける。かわいらしさもカッコよさもひっくるめてSHISHAMOらしさを堂々と表現し、最後の「明日も」ではスカパラホーンズも加わり、厚味の増したサウンドがフェスのクロージングアクトの存在を際立たせる幕引きとなった。

 今年は北海道出身のアーティストの出演が多く、北海道色の濃いラインナップになったとのことだったが、地元愛強めのロッカーたちにはそれもこれもうれしい出来事だったに違いない。

 四半世紀、このフェスをほぼ毎年見続けてきた。自然や物理的なトラブルに見舞われたこともあれば、ロッカーたちが鬼籍(きせき)に入ることもある。それでも毎年足を運ぶたびに思うのは、音楽を愛する気持ち一つで、ここに集う大勢の人々が、RSRに足を運ぶことで、より良いフェスを、ひいてはより良い世界を考え、行動する、一つの起点になっているということだ。


 佐野元春が「サムデイ」を「誰かが誰かの権利を侵害して、勝手に支配したりすることのない世界を願って歌いたい」と、観客にも一緒に歌うことを呼びかけたり、ポルノグラフィティが地元広島の被爆80年プロジェクトのテーマソングとして作った「言伝」に込められた思いや祈りについて考えたり、胸の熱くなる瞬間がいくつも見られた今年のフェス。音楽の持つ力を信じ、その力を分かち合い、一緒に育てながら楽しむフェスの続くことを願ってやまない、そんな思いにたどり着いた25回目のRSRだった。

(音楽ジャーナリスト 内記 章)

■RISING SUN ROCK FESTIVAL 2025 in EZO
開催期間:8月15日(金)、16日(土)
総入場者数:6万8000人(15日:3万3000人/16日:3万5000人)
総アクト数:76アクト(15日:31アクト/16日:46アクト)
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