同作は、2023年3月に逝去した坂本さんが、ガンに罹患して亡くなるまでの3年半にわたる闘病生活と、そのなかで行われた創作活動を記録したドキュメンタリー。本人がつづった日記を軸に、遺族の全面協力のもと提供されたプライベート映像やポートレート、未完成の音楽や未発表の制作過程映像を交えて構成されている。
晩年の日記には、「死刑宣告だ」「どんな運命も受け入れる準備がある」といった苦悩や覚悟、「残す音楽、残さない音楽」といった音楽に対する深い思索、そして日々の何気ないつぶやきが記されていた。また、雨の音、雲の流れ、月の満ち欠けなど、坂本さんが晩年に見つめ、魅せられた自然の風景や音が映像に収められ、時間を超えて観る者の心を揺さぶる内容となっている。
坂本さんが過ごしたニューヨークの自宅や治療のための東京の仮住まい、病室、そして最後のライブとなったスタジオでの日々が、日記をもとに丹念に紡がれる。YMOでともに活動した盟友・高橋幸宏さんとの知られざる交流や、最後の作品となった未発表曲の制作過程も記録されており、朗読は坂本さんと親交のあったダンサーで俳優の田中泯が務めている。
同作は、2024年にNHKで放送され大きな反響を呼んだ『Last Days 坂本龍一 最期の日々』をベースに、未完成の音楽や映像など映画オリジナルとなる新たな要素を加えて制作されたもの。映画館ならではの音響と空間で体感すべき作品として誕生した。
解禁された予告編では、「俺の人生終わった」という告知直後の心情から、「生きてるうちはね、音楽を作り続けて」という本人の言葉、「Aqua」を演奏する姿、YMOや東北ユースオーケストラのメンバーとの写真などが映し出され、親密な表情や眼差しを通して、坂本さんが音楽と生きた姿が鮮やかに立ち上がる。あわせて公開されたビジュアルには、「残さない音楽」という坂本さんの言葉がコピーとして記され、深い思索の一端を垣間見ることができる。
昨年に東京都現代美術館で開催された展覧会『坂本龍一|音を視る 時を聴く』は、同館の企画展史上最多となる34万人超の来場者を記録し、社会現象となった。今なお国も世代も超えて人々の心を動かす坂本さんが、命の終わりとどう向き合い、何を残そうとしたのか──その問いが、スクリーンを通して強く突きつけられる。