俳優の倍賞千恵子、木村拓哉が出演する山田洋次監督の最新映画『TOKYOタクシー』(21日公開)において本編映像が解禁された。実写作品では初共演となるが、ジブリ映画『ハウルの動く城』でソフィー役とハウル役として共演経験のある倍賞と木村が21年ぶりの共演を果たす今作で、そんな“ハウルコンビ”の親密な関係性を思い起こさせる、すみれ(倍賞)と浩二(木村)の旅路を映し出している。


 本作は、フランスで初登場新作1位を獲得、2022年に日本でも公開されヒットしたフランス映画『パリタクシー』が原作。昭和から平成、令和と、日本に生きる人々を長年描き続けてきた山田洋次監督が、刻々と変化する大都市<東京>を舞台に、人生の喜びを謳いあげる、感動のヒューマンドラマ。

 映像では、最初はギクシャクしていたすみれと浩二が、“たった1日の旅”の終盤で、特別な絆へと結びつく瞬間が描かれる。華やかな横浜の繁華街を歩く中、すみれが「ねえ、浩二さん。腕を組んでもいいかしら、あなたと」とうれしそうにお願いすると、「どうぞ」と腕を差し出す浩二とのやりとりは、壮絶な人生を歩んできたすみれの孤独と、それを受け止める浩二のやさしさが交差し、穏やかな表情で歩く2人の姿からはあたたかい余韻を感じさせる。

 浩二と出会えたことへの感謝と、旅の終わりが近づく切なさを感じさせ、長年にわたり人々の機微を描き続けてきた山田監督ならではの繊細で心温まる人間ドラマが凝縮された場面となっている。

 2004年公開のスタジオジブリ映画『ハウルの動く城』でソフィーとハウルとして出会った当時を振り返り、倍賞は「あの時はひとりずつアフレコする予定で、木村さんとはいろいろなお話ができなかったです。鈴木敏夫プロデューサーにお願いして、1日だけ一緒の場面でアフレコしました」と、木村と顔を合わせてコミュニケーションを取るためにスケジュールの調整をプロデューサーに直談判していたことを告白。

 そんな倍賞の粋な計らいにより“たった一日”の倍賞と木村の同日収録が実現したが、このことを事前に知らされていなかった木村は「目の前にエプロンをしている宮崎駿監督がいて、下駄を履いた鈴木敏夫さんというプロデューサーがいて、ついに現れた倍賞千恵子さんとなったら、そりゃ話せないですよね」と当時を回顧。

 どんなにプレッシャーのかかる仕事でもクールかつ真摯にこなし、“緊張とは無縁”と思わせる木村。すべてのセリフを暗記し、台本を持ち込まずに収録に臨むなど、声優初挑戦でジブリ作品の主人公を演じるというプレッシャーさえも原動力に変えてしまう完璧ぶり。そんな木村でさえ、大女優・倍賞千恵子、巨匠・宮崎駿、そしてヒットメーカー・鈴木敏夫という超大御所たちが集結した現場では、さすがに緊張で頭が真っ白になっていたという。


 まるでソフィーとハウルが時を越えて現実の世界で再会したかのような、2人にしか生み出せない特別な雰囲気に包まれた『TOKYOタクシー』にも注目だ。

 なお、今作は第55回ロッテルダム国際映画祭「Limelight」部門(現地時間2026年1月29日~2月8日)にて正式出品されることが決定。「Limelight」部門は観客賞・NETPAC賞(Network for the Promotion of Asian Cinema=最優秀アジア映画賞)が対象となり、その年の映画界で注目を集めるハイライト作品で構成される部門。

 選考理由についてディレクターのVanja Kaludjercicは「東京の街を縫うように走る一台のタクシー。その車内で交わされる、他愛もない、けれどどこか胸に残る会話が、運転手と乗客それぞれの人生をそっと記録していく――本作は、そんな“移動する時間の箱”のような映画です。窓の外に流れる光景には、東京の今と、変わりゆく日本の気配が淡く重なります。 そしてなにより、この小さな物語を豊かに立ち上げているのは、山田洋次監督の静かな語り口と、倍賞千恵子、木村拓哉という二人の俳優の確かな存在感です。山田作品に受け継がれる、日常に宿るおかしさと儚(はかな)さ。その“日本的なやわらかさ”が、ふとした仕草や間合いの中に息づいています。物語が静かに幕を下ろしたあとも、どこか心の奥にやわらかい温度が残り続ける作品。その余韻は、観客一人ひとりの“TOKYO”の記憶と静かに重なっていくはずです」とコメントを寄せた。
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