俳優の竹内涼真と町田啓太がダブル主演を務めるNetflix映画『10DANCE(テンダンス)』が12月18日より世界独占配信。社交ダンスの世界を舞台に、対照的な2人のダンサーが全10種目を踊る「10ダンス」のパートナーとして頂点を目指す物語。「絶望からのスタート」と口をそろえるほどのプロダンサー役に挑んだ2人だが、信頼と努力を積み重ねた先に起きた“奇跡”があったという。そんなダンスシーンについて練習や撮影で感じたこと、互いの役の“推し”シーン、約8年ぶりの共演で再発見した互いの魅力などを聞いた。(取材・文:遠藤政樹)

 原作は、井上佐藤による同名漫画(講談社「ヤングマガジン」連載)。竹内が演じるのは、ラテンダンス日本チャンピオンでありながらある理由から国内の大会にこだわる男・鈴木信也。町田が演じるのは、スタンダード(ボールルームダンス)部門で世界2位の実力を誇る杉木信也。異なるジャンルで頂点を極めた「2人の信也」が、〈10ダンス〉でチャンピオンを目指す。

■竹内、町田への厚い信頼「互いを信じきって乗り越えられる」

――約8年ぶりの共演となりましたが、この作品で再会すると決まった時のお気持ちはいかがでしたか?

【竹内】 「ありがとう」という気持ちしかなかったです。正直、ある種の覚悟が必要な大変な撮影だということは認識していました。特に(ダンスは)パートナーが誰か大切になってくるところ。町田君が「やりたい」と言ってくれたことに感謝しています。8年ぶりではありましたが、町田君だったら、お互いを信じきって乗り越えられるのでは、という気持ちになれました。

【町田】 僕も久々に共演できることがめちゃめちゃうれしかったです。役者としても人としても大好きな人なので、「一緒にやったら絶対に面白いことになるだろうな」という感じがひしひしとして、期待しかなかったです。

――撮影はどのような雰囲気でしたか?

【竹内】 お互いに練習を詰め込んで、そこを見守ってくれていた大友(啓史)監督に、どこか操られていたような感覚がありました。ダンスに夢中、お互いに夢中という感じで正直、カメラがいつ回っているのかもわからなくなるくらい集中していました。

【町田】 練習なのか本番なのかわからなくなるほど、ある時期から境界線が曖昧になっていって。もう勝手に撮ってくださいみたいな感じでしたね(笑)。逆に踊らず芝居だけのシーンが久しぶりにあると、「芝居ってどうやるんだっけ? セリフってどうやって言うんだっけ?」みたいにも(苦笑)。それくらい追い込んで、突き詰めてやっていました。

【竹内】 それが結果的に生々しい反応につながったのかもしれません。

■ダンスレッスンは「絶望」からのスタート

――圧巻のダンスシーンでしたが、練習はいつ頃から、どのくらいされたのでしょうか?

【竹内】 僕が始めたのはクランクアップの1年前なのですが、その間に違う作品もやっていたので、期間が空いてしまうこともあって。本当に詰め込んだのは半年あるかな……実質4ヶ月くらいかも。そういう状況なので本番も練習の一部のような感覚はありました。

【町田】 ダンス練習をしているシーンもあったからね。

【竹内】 そうしたなかで、超えられない壁みたいなものを超えていると思います。おそらく普通ならこの期間でこのくらいできるようになる、そういう次元というか時間というものを超越したことをいつの間にかしていたなって。そこは自分たちを褒めてもいいのかも。いろいろ“奇跡”が起こっていました。

――“奇跡”に関して何か具体的なエピソードがあれば聞かせてください。

【竹内】 もちろんありますけど、これ全部なんです。ラストの10ダンスに関しては本当にほぼ奇跡でした。いまだにどうしてできたのだろうと思います(笑)。

【町田】 わからないね(笑)。時間の関係で数回しか練習ができなかったのもあって、もうどうにかするしかないといった、ある種のゾーンみたいなものに入っていたのかもしれないです。

【竹内】 クランクイン前、大友監督が「アクターズダンスを撮りたい」とおっしゃっていたのですが、そうは言っても(自分たちが演じた)役は設定がプロダンサー。町田君はいち早く「やるしかない!」と腹をくくっていたのですが、僕はなかなかくくれなくて(苦笑)。そんな葛藤を経て、結果的にアクターズダンスの表現というものができたのかなと思っています。

【町田】 そういうふうになれたのが奇跡というか。組み合わせの奇跡でもあるし、今回のメンバーでなければできなかったことが多かったと思います。

■見せ場となる2人でのダンスに苦戦

――ダンスはいろいろ大変だったと思いますが、なかでも苦労したことは?

【町田】 どうにかなるだろうという気持ちで入ったのですが、最初の練習のときに絶望しました。思っている以上にできなくて。「2人で組んで踊るだけでしょう」とか思われるかもしれませんが、そんな次元じゃないです。まず形が取れないし、すべてが決まらない状態でした。

――作品を拝見した限り、およそ想像できません。

【町田】 人それぞれ身長や手足の長さ、筋肉の付き方も骨格も違うから、その人なりの美しさや決まるポイントがあって。何もわからないから、それを1個でも見つけていくことが最初でした。そこからさらに、2人でやらなきゃいけないという試練に。対になって踊ることの難しさたるや。プロのダンサーとして見せなきゃいけないから力が拮抗しなきゃいけないし、相乗効果にならなければいけない。2人で踊るところは本当に難しかったです。

――どうやって合わせていったのでしょうか。

【竹内】 ダンスの先生たちと監督、あとダンスパートナーなど全員で、「お互いに最後までやりきれる」と信じることが大変でした。ただ信じているだけでは無理で、信じ切らないと、お互いの力を受け入れ合ってできない。そういう難しさは、本番の最後の最後までありました。

【町田】 信じ切らないと遠慮するし、その遠慮が出てしまうと120%にならない。難しかったですね。あと試練としてよく覚えているのは、試合でプロのダンサーと踊るシーンです。世界ランカーたちと踊るなんて、「無理だろう。(素人だって)バレる!」と思いました(笑)。

【竹内】 何かを捨てて挑まなければいけない意味では大変でした。

■クライマックスは「ほぼ奇跡」 積み重ねが生んだ圧巻のシーン

――クライマックスの10ダンスは、まさに集大成といえるシーンですが、撮影の舞台裏を教えてください。

【竹内】 まさに奇跡が起きていました。どうしてできたのか、まだお互いにしっかり答え合わせはしてないのですが、そういうものもふっ飛ばして、「いけちゃった」みたいな感覚があります(笑)。

【町田】 それまでの積み重ねがあったからこそだと思います。お互いに信頼していたし、10ダンスも含め、2人でめちゃくちゃ練習もしました。その積み重ねがあったから、お互いを信頼しきっていたからこそ、できたのだろうなと。

【竹内】 優雅に美しく見えている裏側では、壮絶なドラマが繰り広げられていました(笑)。もし、あと数テイク多かったら、心が折れてしまっていたかもしれません。

【町田】 そもそも10ダンスのシーンは、時間の関係で1、2回しか踊れない状況だったので、かなり集中していたのも大きかったのかな。

【竹内】 瞬間的に、今まで積み上げてきた何かが出たというか。直前までそれが出るかどうかわからないけど、体って面白くて、土壇場まで追い込まれると思いも寄らない動きをしてくれることもあって。

【町田】 火事場の馬鹿力的なね。あとはステージに立って、スポットライトを浴びて、衣装もばっちり決めて、観客役のエキストラの方たちもいて生の反応をくださる。そういう現場のすべてのエネルギーに後押しされてノっていけた感じはあります。いろんなことが合致して、あの奇跡的なシーンになったのだと思います。

■互いに“見えない”表情を絶賛

――お互いの「ここが良かった!」というおすすめのシーンを教えてください。

【町田】 冗談抜きで全部良かったです。

【竹内】 本当にそうだよね。

【町田】 最初に観たとき、いろいろ反省があったりして、今回はいつも以上に自分のシーンをまともに観られませんでした。竹内君が演じた鈴木に関しては、僕が演じた杉木からは見えていない場面もたくさんあるのでは、ここはこうやっていたのか、ダンスのシーンも素敵だなとか、全部が素晴らしかったです。冒頭のダンスは本当に最高で鳥肌が立ちました。その中でも特にいいなと思うのは、姫ワルツのシーンでの(竹内の)表情です。

【竹内】 それは踊っているとき?

【町田】 踊っているあの一連が好き。(鈴木が)女性側のポジションで踊らされ、だんだん受け入れ始める。本当は受け入れたくないけど、「あれ?」みたいな絶妙な感じがめちゃめちゃ好きで、ちょっとかわいいです(笑)。

【竹内】 逆に言ったら、そのときの杉木先生の顔もね。ボールルームダンスはダンス中、お互いの顔が見えないから、完成した映像で初めて「すっげえ支配してやった」みたいな表情は最高でした(笑)。

――竹内さんとしては町田さんのシーンで特におすすめは?

【竹内】 好きなシーンを挙げると切りがないけど、タンゴの練習後に「1回休もう」って言った瞬間の杉木先生の表情は、めちゃくちゃいいです。あとはブラックプールで大会の準備をしているときの杉木のナレーションと、鏡で自分を見ているところ。あのシーンはちょっと泣きそうになった。自分を追い込んでいるのにクールだから見せない。見えていなかったものが見えて、より愛おしくなりました。リアナと踊っているときは美しすぎて嫉妬しました(笑)。

【町田】 怒っている鈴木も相当良かったけどね。屋上で踊っているシーンもよかったし、本当に美しいシーンばかりだね。

■「真摯」「待ってくれる」―再発見した、互いの魅力

――再共演してみて、改めて気づいたお互いの魅力を教えてください。

【町田】 それはいっぱいありますよ。絞るのが大変。

【竹内】 まず腹のくくり方。あれはちょっと天晴れでした。(クランク)イン前のグループセッションでどちらかが腹をくくっていなかったら、もしかしたら……という状況になっていたかもしれません。あれは感謝ですね。僕は撮影当日まで、心の奥底で“ごねて”いた部分もありました(笑)。

【町田】 実は僕も心の奥底では似たような感じだったよ(笑)。それで言うと(竹内の)現場での居方が素敵だなと思いました。(竹内が)いると、みんなが楽しくなるんですよね。熱量を人にも与えてあげる感じは、すごくいいなって。良いものは良いというのをみんなでシェアしようみたいなスタンスがいいと感じたし、助けられました。

――お互いに別角度から支え合っていたと。続けてお願いします。

【竹内】 練習でしんどくなったとき、待ってくれるんですよ。意識してのことではないかもしれないけど、言葉で「待つよ」ではなくて、こちらの状況を察知して自然と個人練習に移っていく。スッと2歩3歩下がったところで見てくれているのには助けられました。言葉にするのは難しいですけど、絶妙な距離感で生まれたものだと思います。

【町田】 それはすっごい気持ちがわかるからだと思う。(相手を)待たせたくもないけど、待ってくれているなというのがわかると、それもプレッシャーになるよね。

【竹内】 ちょっとした心づかいに本当に助けられました。もうお互いに心配になるぐらいに練習を詰めこんだよね。

【町田】 たしかにやりすぎではというほど突き詰めるから、それこそラテンダンサーとしての体つきに近づくほど、だんだん軽くなっていって。そこまでするのがプロだなと思うし、カッコいいなと思います。

【竹内】 軽くなったおかげで、めちゃくちゃ運びやすくなったでしょう?

【町田】 連れていきやすくなった(笑)。(竹内は)日頃から体を作っているから大きくて、僕も今回のために少し上げてはいたのですが、最初一緒にやったときに「連れていけないな」って感じていました。

【竹内】 どこかでリードする側とされる側に、パンって逆転した瞬間があったよね。

【町田】 あったね。こういうふうに作品と芝居とキャラクターに真摯なんですよ。その真摯さは素敵だなと思います。しかもそれを楽しんでいるし、好きなことが伝わってくる。そういう人と一緒にやれるのはうれしいし、楽しかったです。

■鈴木と杉木、どちらにも共感 配役には「これ以上のマッチはない」

――鈴木と杉木という対象的なキャラクターをそれぞれ演じられましたが、直感的に共感できる方はどちらですか?

【竹内】 どっちもかも。

【町田】 そうだね。しっかり演じた後なので、自分のキャラクターに寄っちゃう部分はありますけど、どっちもわかります。これが演じられるかと聞かれたら、または話は別だよね。

【竹内】 そうだね。だって絶対お互いに(それぞれ演じた)この役だったよね。

【町田】 絶対そうだと思う。

【竹内】 替えてみるみたいなことを想像できないぐらい、お互いしっくりきていたので。万が一逆だった場合もあったかもしれないけど、これ以上のマッチはなかったと思います。

【町田】 お互いに持っている性質がうまいことマッチしたなって。いい意味で一緒にやっていて別ベクトルの感じがしたので、いい作用が生まれたのかなと思います。

【竹内】 性質って大事なのだなって思いましたね。

――最後に、映画の見どころと、視聴者へのメッセージをお願いします。

【町田】 たくさんの“美学”が詰まっています。ダンスはもちろん人間関係、さらにセットや衣装、音楽など、さまざまな美しさを体感してもらえたら。完成した作品を初めて観たとき、「匂い」すら感じました。それくらい五感を刺激する作品なので、皆さんにもそのすべてを“浴びて”もらいたいです。

【竹内】 いろんな愛情の伝え方があって、登場人物たちがそれぞれの自分のほしいものとか与えたいものを全力でぶつけ合う生き様が描かれています。そのぶつかり合っている何かが、もしかしたら町田君には匂いとして伝わったのかもしれないなって。本気の愛って美しいしきれいなもの。ピュアな2人のぶつかり合いを体感してほしいなと思います。

編集部おすすめ