■「ジブリ美術館ライブラリー」誕生の背景
三鷹の森ジブリ美術館では20年前より、高畑勲監督、宮崎駿監督(※崎=たつさき)らがすすめる作品を中心に、世界の優れたアニメーションを選び、広く紹介する活動を続けてきた。
西岡氏は、その成り立ちについて次のように説明した。
「ジブリ美術館では、アニメーションがどのように作られるのかを紹介したり、ここでしか観られない短編アニメーションを上映したり、企画展示でさまざまな作家を取り上げてきました。ただ、美術館という性質上、映画そのものを“劇場体験”として楽しんでもらうことには限界がありました。当時ジブリ美術館の館長を務めていた中島清文氏(現スタジオジブリ副社長)の発案で、世界の名作アニメーションをシリーズ化し、劇場で上映する取り組みが始まりました」
■ フランス発の名作『キリクと魔女』を上映
今回のトークイベントとあわせて上映されたのは、フランスのミシェル・オスロ監督によるアニメーション映画『キリクと魔女』(1998年)。主人公キリクの声を神木隆之介、魔女(カラバ)役を浅野温子が務めている。
工藤氏は、短編の自主制作を重ねてきたオスロ監督が40代後半になってようやく、『キクリと魔女』で長編デビューを果たした点に触れ、「子ども時代を過ごしたアフリカの記憶が物語の原点となっている」と説明。物語と絵の両方を愛してきた監督の原体験が、影絵を用いた独特の表現をはじめ、現在まで続く作風の核になっていると語った。
■ 高畑勲が惹かれた知性と演出
西岡氏は、『キリクと魔女』がフランスで社会現象的ヒットを記録したことにも触れた。「ちょうど『千と千尋の神隠し』がフランスで公開される頃と重なり、どちらがよりヒットしたかが話題になるほどでした」。こうした背景もあり、高畑監督が日本語版翻訳と演出を手がけ、日本上映が実現したという。
さらに、高畑監督とオスロ監督の共通点にも注目した。
「キリクが穴の中を進む場面を、主人公の主観ではなく、横から俯瞰的に描く。登場人物と距離を保ちながら物語を紡ぐその視点は、高畑監督自身の演出とも非常に通じるものがあります。宮崎監督の主観的なカメラとは対照的で、オスロ監督とは感覚的にも近い存在だったのだと思います」
■ 「アニメーションだからこそ描ける」重いテーマ
今回の映画祭では『キリクと魔女』のほか、『バッタ君 町に行く』(1941年/アメリカ)、フレデリック・バック監督による『木を植えた男』(1987年/カナダ)ほか短編全4本、『しわ』(2011年、スペイン)など、全4プログラムが上映される(29日までの期間限定)。
『しわ』は、パコ・ロカが描いた漫画『皺』が原作。老いや認知症という重いテーマを、温かな手描きアニメーションで描いた。工藤氏は「実写でも作れた作品だと思う」と前置きしつつ、アニメーションで映像化した意義を問いかけた。これに対し西岡氏は、高畑監督の言葉を紹介する。
「実写だと生々しすぎて、観るのがつらくなる場面も、アニメーションにすることで緩和される。ユーモアや誇張も取り入れやすく、幼少期の記憶を描く美しいシーンなどは、実写ではなかなか再現できない。
■ 世界に広がるアニメーション表現
西岡氏の話を受けて、工藤氏は、アイルランドのアニメーションスタジオ、カートゥーン・サルーンによる『ブレッドウィナー』(2017年)に言及。「アフガニスタンの少女を描いた作品ですが、アニメーションであることで、特定の国や顔立ちを超えた普遍性を持ち、小学生から大人まで幅広く観やすい作品なっている。人権や社会問題を伝える力が、アニメーションにはあると思います」と話した。
西岡氏も、ドキュメンタリー的アニメーションの重要性を強調する。「実写では個人が特定されてしまうような戦争や政治批判も、アニメーションなら描ける。『戦場でワルツを』(2009年)など、世界にはそうした作品が数多くあります」
一方で、最近はロシアのアニメーション作品を上映できない状況にも触れ、「優れた作品がたくさんあるので、平和を取り戻してほしい」と語った。
最後に工藤氏は、「アニメーションは子どものもの」という固定観念を超えた魅力を強調した。「実写以上に多様な手法と表現があり、今も新しい挑戦が次々と生まれています。ぜひ多くの方に、新しい作品と出会ってほしいです」。
西岡氏も、「日本のアニメだけでなく、世界には多様なアニメーションが存在する。戦って勝利するだけではない物語が、世界中で作られている。それを日本で紹介し、観てもらう機会を増やしたい」と来場者に呼びかけた。
上映はBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下にて29日まで。世界の名作アニメーションを劇場で体験できる貴重な機会だ。
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