共働きや時短志向が広がり、家庭でごはんを食べる景色も変わってきた。毎回炊きたてを食べるのではなく、まとめて炊いて冷凍する、お弁当にする、保温したまま後で食べる。
そんな“炊きたてではないごはん”をどうおいしく食べるかが、今の家庭の新たな悩みにもなっている。新生活の慌ただしさのなかで、その悩みを“炊飯”で解決する商品が再注目されている。ミツカンから登場した炊飯調味液『ごはんをふっくらおいしく』は「これまでプロの料理人と向き合ってきたミツカンならではの独自技術」を家庭向けに応用し、昨年の米騒動をきっかけに最短レベルで商品化されたという。なぜ今、「炊飯時に加える」という発想が生まれたのか。変わるごはん事情とともに、その背景を聞いた。

■「冷凍すると風味や食感が悪くなる」家庭に広がる保存米への悩み

 昨年10月27日に発売された炊飯調味液『ごはんをふっくらおいしく』。その開発が本格的に動き出したのは昨年6月、米不足や価格高騰で大きな話題となった“令和の米騒動”のさなかだった。

 ミツカンのマーケティング本部・吉田達矢さんは、「白いごはんにも、おいしいものとそうでないものがあると意識する場面が増えていった」と当時を振り返る。

「おいしいものとそうでないものという意識は備蓄米や輸入米だけに向けられたものではなく、普段食べているお米においても強まっていきました。冷凍したり、お弁当にしたりすると“なんだかちょっとおいしくない”と感じている方が、思っていた以上に多かったんです」

 背景にあったのは、食生活そのものの変化だ。専業主婦が毎食炊きたてのごはんを用意する時代から、単身世帯や共働きが増え、まとめて炊いて冷凍する生活へ。ごはんもまた、「炊いてすぐ食べるもの」から「時間が経ってから食べるもの」へと位置づけが変わってきた。


 それを裏づけるように、ミツカンが行ったアンケートやインタビューでも、ごはんに関する悩みとして多く挙がったのは、炊きたてそのものではなく“その後”に関するものだった。最も多かったのは「冷凍すると風味や食感が悪くなる」という声。その他に多かった項目として、冷めたときに風味や食感が悪くなる」「保温中にごはんが黄ばんだり、風味が悪くなる」といった悩みも目立ったという。

 今の家庭では、ごはんは“炊きたての瞬間”だけで完結する食べ物ではない。朝炊いたごはんを夜に食べる、家族の帰宅時間が違うので保温しておく、子どものお弁当に入れる、おにぎりにして持っていく。そんな日常の中で、ごはんに求められるおいしさの基準も変わってきた。

「“炊きたてをどうおいしく食べるか”というより、その先にある困りごとが大きくなっていたんです。だからこそ、炊きたての先にある悩みを1本でまとめて解決できる商品があれば、新しい提案になるのではないかと考えました」

 さらに冷凍ごはんを食べているのは単身世帯だけではないことも明らかになった。調査では単身者の利用率は高かったものの、それ以外の家庭でもかなりの割合で冷凍ごはんが日常化していたという。

「当初想定していた、備蓄米や安価なお米をどうおいしく食べるかというニーズだけではなく、実際には“冷凍ごはんをどうにかしたい”という声も多いことが分かったんです」

 今の家庭に共通する悩みは、まさに“炊きたての先”にあったのである。

■業務用で磨いた“おいしく保つ技術”を家庭へ、3ヵ月で進んだスピード開発

 ただ、今回の商品はゼロから突然生まれたわけではない。出発点は、酢を卸していた寿司店からの「シャリをおいしくしたい」という声だったという。
そんなニーズに応える中で磨いてきた独自の技術を今回の家庭用向け商品である「ごはんをふっくらおいしく」に応用したという。

 開発のスピード感も特徴的だった。ミツカンがアンケートやインタビュー調査を始めたのは、昨年6~7月ごろ。米騒動の渦中で、不安を抱える生活者にできるだけ早く寄り添えるよう、約3ヵ月という異例のスピードで開発を進め、10月27日の発売にこぎつけたという。

「根幹となる技術はありましたが、商品開発自体はミツカンの中でも最短レベルのスケジュールでした。できるだけ早く世の中に届けたい、という思いで社内外で協力して進めました」

 もっとも、家庭用ごはん商品を担当する部署は社内に存在していなかったので、開発を任された吉田さんは、「まず仲間探しからのスタートだった」と笑う。

「本当に仲間探しから始めた感じでした。皆さん通常業務があるので、最初はなかなか難しかったのですが、この商品の意義に共感してくれる人が少しずつ集まってくれて。そうやって集まったメンバーだからこそ、絆も深くて、結果的にいい商品開発ができたと思います」

■“加えて炊く”への抵抗をどう越えた? “家庭で使うもの”として安心感を持てる設計を大切に

 一方で、家庭向けに展開するにあたっては大きなハードルもあった。それが、「ごはんはそのまま炊くもの」という日本ならではの感覚。

「白米は何も入っていないピュアな状態が一番おいしい。そういう“白米主義”は、社内でも当然共有されていました」

 実際、これまでおいしいごはんを炊く方法といえば、研ぎ方や浸水時間、炊飯器の性能など“炊き方”にこだわるのが一般的で、白米に何かを加えるという発想は広く浸透していたとは言いがたい。
しかし、そんな空気にも変化が生まれていた。

「米騒動をきっかけに、料理酒やみりん、はちみつ、油、昆布など、何かを加えてごはんをおいしく炊く工夫がテレビやSNSでかなり広がっていました。実際にインタビューでも“何かを加えてごはんを炊いています”という方が結構多くて、そこは大きな環境変化だったと思います」

 “ごはんはそのまま炊くもの”から、“よりおいしく炊くために工夫するもの”へ。少しずつ価値観が変わり始めていたことが、この商品を家庭向けに出す追い風になった。

 とはいえ、生活者インタビューでは何を加えても良いというわけではなく、どのようなものかはしっかりと見定めている人が多かったという。そのため家庭用では、添加物を極力使わず、水あめ、塩、醸造酢、米発酵調味料、昆布だしといったシンプルな原材料にこだわった。子どもや妊婦でも使いやすいようアルコールも無添加にするなど、“家庭で使うもの”として安心感を持てる設計を目指した。

 ごはんの表面をコーティングして水分を中にため込むことで、時間が経っても崩れにくく、水分が抜けにくい状態をつくるのが、この商品の仕組みだという。

「ごはんの表面をしっかり包み込むことで、中の水分が抜けにくくなります。その結果、冷凍後や保温後でも硬くなりにくく、パサつきも抑えられます。保温時の黄ばみやにおいについても、劣化が抑えられることを確認しています」

 発売後の反響は、ミツカンの想像以上だったという。

「“こんな商品があるなんて”“冷凍ごはんがまずくなるのは当たり前だと思っていた”“欲しいと思っていなかったけれど、あったらすごくいい”といった驚きの声が多かったです。
中には、お弁当のごはんを必ず残して帰ってきていた子どもが完食してくれるようになったという声もありました」

 さらに、開発側が当初そこまで強く意識していなかった「香り」や「見た目」への評価も高かった。炊き上がりのツヤや、ふっくらと粒立った見た目もまた、生活者にとっての“おいしさ”を形づくる大事な要素だったのである。

 おいしいごはんを食べたい。その一方で、タイパもコスパも崩したくない。そんな今の生活者の願いに対し、『ごはんをふっくらおいしく』は、手間を増やさずに応える新しい選択肢として生まれた。炊きたてだけが正解ではない時代、時間が経ったごはんまでおいしく食べたいというニーズは、これからますます広がっていきそうだ。

(取材・文/河上いつ子)
編集部おすすめ