カツオを見極める漁師町の目、かんきつの酢を文化に昇華させた山間の台所、見知らぬ人を巻き込んで友達にしてしまううたげの技法──。“秘密”のように見えるかもしれないが、高知にとっては当たり前の知恵だ。

■一度会えばもう友達、「おきゃく」文化

 夏の「よさこい祭り」と並ぶ––とまでは言えないかもしれないが、高知には県民性を体感できる特別な祭りがある。毎年春に開催される「土佐の『おきゃく』」だ。2006年に始まり、今年20回目を迎えた。

 「おきゃく」は土佐弁で「宴会」のこと。5代目実行委員長の友田由美さんは「もともと神祭(じんさい)といって、集落の家に近所の人が集まりおきゃくをしていた。宴会のために皿鉢(さわち)料理が生まれ、高知にはそうした古くからの文化が残っている」と説明する。

 この文化をフェスにまで昇華させたのが、2代目実行委員長の木村祐二さん。「当初は土佐フード祭を考えていましたが、全国どこにでもありそうで。おきゃくという言葉にピンと来た」と振り返る。

 期間中、高知市内の東洋電化中央公園やはりまや橋商店街には畳やこたつが設置され、まち全体が宴会場と化す。来場者は酒好きな土佐人をかたどった「べろべろの神様」にお参りし、自由に飲み食いしながら会話を楽しむ。こたつの前ではよさこいチームが踊り、座敷遊びの「菊の花」や「べく杯」で初対面同士もすぐに打ち解ける。

近年は、県外からのリピート客も増えている。

 おきゃくの醍醐味(だいごみ)とは。「知らない人と飲む。一度会えばもう友達」(木村さん)。「高知の食・酒・会話の三つが皿鉢料理のように載っているのがおきゃく。知り合いだけでなく周りを巻き込む」(6代目実行委員長の土佐かつおさん)

 23年には来場者が10万人を超え、経済波及効果も10億円を突破した。「僕はGKH(グロス・コウチ・ハピネス)と呼んでいる。本当の幸福度とは、お金だけじゃなくて、すぐ近くに友達がいるとか、一緒に酒が飲める仲間がいるとか、そういうこと」(木村さん)

 真の幸せとは何か。混沌(こんとん)とした時代に、宴文化の知恵が問いかけている。

編集部おすすめ