【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。

今回ピックアップするのは堤真一さんと山田裕貴さんの共演映画『木の上の軍隊』(2025年7月25日公開)です。
Pouchで戦争映画を取り上げるのは珍しいかもしれませんが、とにかく試写で鑑賞した『木の上の軍隊』が衝撃的過ぎて……。

「これが実話って本当なの???」と、見終わったあともまだ信じられないくらいです。では物語からご紹介します。

【物語】
太平洋戦争末期の1945年、沖縄県伊江島に米軍が上陸。戦争機が空から銃撃する中、多くの兵士や沖縄県民が命を落としました。

沖縄出身の新兵・安慶名セイジュン(山田裕貴さん)は、母親の安否をたしかめようとしたときに銃撃戦が始まり、追い詰められて森の中へ。その彼が出会ったのが宮崎から派兵されてきた少尉・山下一雄(堤真一さん)。

ふたりは大きなガジュマルの木の上で身を潜めることになるのですが……。

【戦争の恐ろしさを改めて知る】
前半は、米軍が沖縄に上陸したときの恐怖が描かれるのですがこれが凄まじい!

セイジュンは新兵ゆえに戦時中でもどこかのん気で、先輩に「米軍が来たら、お前は最初にやられるから遺書を書いておけ」と言われたりします。しかし、親友の精神がおかしくなったり、親友の妹が爆撃で倒れたりすると、悲しみと恐怖に打ちのめされ、混乱しながらも逃げまくるのです。

その姿を見ていると、こちらもセイジュンとともに、戦時中の混乱と恐怖を体験しているような気持ちに……。

特に戦闘シーンがリアルで、銃の音が耳元で響くんですよ! 映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』の銃撃シーンにビビりまくった自分が蘇りました。
「また戦場に放り込まれてしまった!」と。本作も身をすくませて見ていました。

【戦場の恐怖は敵と飢え】
山下少尉とセイジュンは、ガジュマルの木の上で攻撃を避けることができたのですが、戦争の恐怖は、敵の攻撃だけではありません。

辛いのは空腹!食べるものがないってこんなにも辛いのかと思いました。しかしある日、米軍が真夜中は攻撃してこないと思ったふたりは、木から降りて、米軍兵士たちが残した缶詰などを拾ってきて食いつなぎます。これで餓死を避けることができたのですが、いつ襲われるかわからない恐怖の日々は続きます……。

本当に戦争は「人間を死に追いやるか、狂わせるか」のどちらかしかなく、決して平和とは結び付かないと思いましたよ!

【生き延びることができた理由】
『木の上の軍隊』はもともと、劇団こまつ座の舞台劇。沖縄出身の制作チームが関わった沖縄戦を描いた映画はなかったことがきっかけで舞台から映画へと生まれ変わりました。

この実話の驚くべきところは、山下少尉とセイジュンは、太平洋戦争が終わったこと知らずに2年間もガジュマルの木の上で援軍を待ち続けていたことです。

本作の後半は、ガジュマルの木の上でふたりが会話を重ね、ときにはぶつかり合いながらも生き延びる姿を描いています。

自分にも他人にも厳しい山下、天然で可愛げあるセイジュン……そんなふたりが過酷な状況でも生き延びることができたのは相性がよかったからではないか、と。

特にセイジュンは過酷な状況でもどこかユーモラスなキャラクターで、それが救いになっていたと思います。
どんな状況でも思い詰めてしまうと冷静さを欠いてしまいますから。

堤真一さんと山田裕貴さんの演技も素晴らしく、物語にグイッと引き込まれたのはおふたりの芝居のパワーがあったから。太平洋戦争終結から80年、やっぱり戦争は忘れてはいけないこと。ぜひ映画館で、この実話に向き合っていただきたいです。

執筆:斎藤 香(c)Pouch
Photo:©2025「⽊の上の軍隊」製作委員会

『木の上の軍隊』
2025年7月25日(金)より、新宿ピカデリーほか全国ロードショー
監督・脚本:平 一紘
原作:「木の上の軍隊」(株式会社こまつ座・原案井上ひさし)
出演:堤 真一 山田裕貴
津波竜斗 玉代㔟圭司 尚玄 岸本尚泰 城間やよい 川田広樹(ガレッジセール)
玉城 凛(子役) 西平寿久 花城清長 吉田大駕(子役) 大湾文子 小橋川建 蓬莱つくし 新垣李珠 真栄城美鈴/山西 惇

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