イトーヨーカドーのカジュアルアパレル「FOUND GOOD」が2年足らずで終了することになった。ライターの南充浩さんは「3~5年単位で顧客の若返りを図ろうとしていたが、せっかちな米ファンドは待ってくれなかった。
そもそも、すでにスーパーで衣料品を買う時代は終焉を迎えつつある」という――。
■わずか1年半で「FOUND GOOD」が終了
大手スーパー各社の衣料品部門が苦戦を強いられる中、衝撃のニュースが飛び込んできました。
イトーヨーカドーがアダストリアとの協業ブランド「FOUND GOOD」(ファウンドグッド)の展開をわずか1年半で中止すると発表したのです。この中止はイトーヨーカドーとアダストリアとの2社間だけの問題ではなく、本来、大手スーパーが顧客対象と設定していたマス層の需要の変化について考えさせられる問題だといえます。
■祖業の衣料品の「外注」は衝撃だった
このところ業績が思わしくなかったイトーヨーカドーは昨年2月、自主企画の衣料品売り場を肌着類・靴下類・パジャマ類を除いて原則廃止し、アダストリアが企画・製造するカジュアル新ブランド「ファウンドグッド」に置き換えるという驚きの決断を発表しました。アダストリアが企画・製造したブランドをイトーヨーカドーが仕入れて販売するという異例の体制です。
業界的には非常に衝撃的でした。イトーヨーカドーはその出自から「衣料品のヨーカドー」と呼ばれたほどで、衣料品を得意分野とすることは自他ともに認められてきました。そのヨーカドーが自前の仕入れ・企画を廃止してアダストリアに商品企画を一任するわけですから、業界がざわついたのも無理はありませんでした。
■アダストリア「数年計画」の誤算
2024年2月にスタートしてからヨーカドーはファウンドグッドの展開店舗を徐々に増やしました。この辺りの動きは慎重で好感が持てます。業績について発表はないものの、メディアからは「概して順調」という報道が断続的にありました。
しかし、実際に売り場を定点観測していると、報道されるほど順調には見えず、実質は結構厳しいのではないかと推測する業界人が多かったのも事実です。
25年1月の日経新聞にアダストリアの木村治社長のインタビュー記事が掲載され、その中でファウンドグッドについて「思ったほどの売り上げには達していない」という言葉があり、業界人の推測は正しかったことが判明しました。木村社長はその中で次の二つの理由を挙げていました。
1、 ファウンドグッドは30~40代客の獲得を目指したが、ヨーカドーの客層は60~80代だった

2、 全国のイトーヨーカドーの撤退スピードが当初予測よりも速い
1について、実際の客層と商品がミスマッチしているため売れにくいのは当然です。とはいえ、イトーヨーカドーも現在のシニア層に加えて30~40代も呼び込みたいという思惑があったので、売れにくいことは両社ともに想定内だったと考えられます。
2については、イトーヨーカドーは不採算店を急ピッチで閉店し続けています。このスピードが当初の計画を上回るものだったのでしょう。そのため、ファウンドグッドの展開店舗数が当初計画よりも少なくなってしまい、ブランド全体の売上高が目標値に到達しにくかったのでしょう。
ただ、記事では初年度の実績を踏まえて「修正」して対応したいと答えていたので、アダストリアには修正を重ねて3~5年で形を作るという構想があったのではないかと思われます。ただ、この記事からわずか7カ月後にイトーヨーカドーが中止を決定するとは予想できませんでした。
■米ファンドは「食品での成長」を望んだ
繊研新聞では
ヨーカ堂の持ち株会社であるヨーク・ホールディングスが9月に米ファンドのベインキャピタルの傘下に入ることになっており、「事業ポートフォリオ再構築の中で判断した」という。
と報道されているので、今回の中止の決定に関しては、米ファンドのベインキャピタルの強い意向があるとも考えられます。
実際に、筆者もアダストリアの関係者から「ベインの影響は大きかった」という発言を直接聞きました。ベインからすれば、業績が伸び悩んでいる衣料品事業なんて縮小して、堅調な食品などに特化してもらいたかったのでしょう。
■客層の入れ替えには相当な時間がかかる
そもそも客層を入れ替えるには相当の時間が必要となります。ヨーカドーの主要客層である60~80代を30~40代に入れ替えるには、まず、30~40代への認知度を高めることが求められます。後述しますが、ファストファッションで済ませる今の30~40代はヨーカドーの衣料品売り場なんて関心がないので、まず興味を持ってもらうところから始めなくてはなりません。それはたかだか1年程度でできるものではありません。
本来、アダストリアは初年度の反省を踏まえて「修正」して次年度に臨み、さらに修正を重ねて浸透させたかったと推測できます。
ファウンドグッドは失敗に終わりましたが、今後ヨーカドーが再び自前で衣料品部門を再構築する可能性はあるのでしょうか。
結論から言うと再構築はあり得ないと思われます。
すでにヨーカドーは衣料品チームを大幅に縮小しています。他部署へ異動となった人材も少なくないことでしょう。再び彼らを呼び集めるのも手間がかかりますし、縮小したものを再拡大するには費用も必要になるので、コスト増加につながるようなことをヨーカドーはともかくとしてベインが許すはずもありません。

ヨーカドーは残されたフロアについて「テナント誘致などで対応する」と発表しており、外部からの誘致で売り場を埋めるのが現実的施策だといえます。
■スーパーは「衣料品を買う場所」ではなくなった
さて、ベインという外資の圧力も影響したとはいえ、イトーヨーカドーの衣料品新ブランド導入が「思ったほどの売り上げに届かなかった」要因はなんだったのでしょうか。
以前にも書きましたが、最大の理由はスーパーマーケットが衣料品の買い場として認識されなくなったことにあると考えられます。
ヨーカドーの最大の競合であるイオンは、自社ブランド「トップバリュ」の衣料品を「トップバリュコレクション」に集約して拡大を目指しましたが、公告による決算報告では最終赤字となっていて、順調でないことは明らかです。また、滋賀を拠点とする平和堂も食品と住環境商品の売上高は前年超えとなっている一方で、衣料品だけが前年割れに終わっています。
これらは、スーパーマーケットを利用するマス層が、スーパーでは衣料品を積極的に買わなくなったということを示しています。スーパーは食品がメインで、サブ的に住商品を買う場との認識が強まっていると考えられます。
■百貨店ですら衣料品の売り上げは下がっている
意外に思われるかもしれませんが、スーパーだけでなく、百貨店も衣料品の売り上げ構成比が全体的に低下しています。ファッションのイメージが高い百貨店ですら、衣料品の構成比が下がっているのが現実です。大雑把に言うと、全国百貨店売上高で衣料品の売り上げ構成比はだいたい25~29%で、30%に届かなくなってしまっています。代わりに構成比が高まっているのが食品で、衣料品とほぼ同等またはそれ以上で推移しています。
例えば、8月25日に発表された全国百貨店の今年7月の月次売上速報を見てみましょう。

衣料品売上高は1150億2570万円(前年同月比6.7%減)で売り上げ構成比24.6%となっていますが、食料品は売上高1318億3786万円(同2.4%減)で売り上げ構成比は28.2%となっており、完全に食料品が衣料品の売上高を上回っています。月次によっては衣料品が上回ることもありますが、だいたい衣料品と食料品は同等の売上高で推移しています。百貨店=ファッション衣料というイメージが根強いですが、実質は違います。
フロア構成を考えると、衣料品は平均5フロアくらいを占めているのに対して、食料品は「デパ地下」と呼ばれるように地下1階のみ、もしくは2フロアという場合がほとんどですから、売り場の坪効率からみても食料品のほうが衣料品よりもはるかに効率的で優秀だといえます。
さらに、商品単価で比べると衣料品は最低でも食品の10倍くらいはあるので、いかに食料品の回転率が高いかがわかります。
あれほどファッション衣料に力を入れているにもかかわらず、百貨店は衣料品の買い場ではなくなりつつあるということになります。
ライターの不破雷蔵氏が2024年にまとめた記事でも、百貨店とスーパーを合算した売り上げ構成比について、衣料品がどんどんその比率を下げていき、代わりに食料品が伸びていることが明らかになっています。
1980年には42.0%あった衣料品は2023年にはわずか15.8%に落ち込む一方で、食料品は30.8%から65.4%へと比率を高めています。
■衣料品は「専門店」で買う時代
では、百貨店で服を買っていた人たちは今どこで服を買っているのでしょうか。
結論から言うと、おそらくマス層は、衣料品を「専門店」で買うものと考えているのではないかと思われます。
ただ、その専門店も大手とそれ以外の中小零細とで格差が広がっているのが現状です。東京商工リサーチによると、2023年は、ユニクロしまむらだけで国内アパレル小売業の30%強を占めていると報じられています

ただし、このまとめにはジーユーは含まれていないので、ジーユーを含むと占有率はさらに数%は上昇するものと思われます。
このように見ると、スーパー、百貨店へのマス層からの衣料品需要は低下し、専門店に移っているものの、その専門店も大手の寡占化が進んでいるということがわかります。
■趣味の多様化でアパレルにかけるお金が減った
専門店合計の売上高は伸びていますが、百貨店とスーパーの衣料品売上高は低下しているので、全体としての国内衣料品需要は低下傾向にあると考えるのが適切でしょう。
では、その原因はなんでしょうか。
社会保障費の増加や増税による可処分所得の伸び悩みという背景はあるものの、直接的原因は価値観が多様化し、人々がアパレル以外に多くの趣味を持つようになったことだと個人的には考えています。
2000年代終盤までは、趣味において衣料品の占める割合が高く、支出が優先されやすかったように思われますが、2010年代以降はアウトドア、音楽、グルメ、SNS、アニメ、スポーツなど多種多様な娯楽が社会的に公認されました。そのため、そちらに支出を優先する人が増えたと考えられます。
今回、ヨーカドーは「ファウンドグッド」による衣料品売り場の再構築を外的要因があったとはいえ、短期間で諦めてしまいましたが、短期間でスーパーの衣料品売り場に30代、40代顧客を呼び込むことは難しい取り組みだったと言わざるを得ません。
今回の急激な方向転換によって、ヨーカドーは継続している肌着・靴下類を除いた衣料品売り場の存在感と影響力をさらに低下させることになるでしょう。
大手スーパー各社が本気で衣料品売上高を回復したいのであれば、相当に長い時間が必要になります。今回の一件は大手スーパー各社にとっても、衣料品売り場の巻き返しは難問だという事実を突きつけたのではないでしょうか。

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南 充浩(みなみ・みつひろ)

ライター

繊維業界新聞記者として、ジーンズ業界を担当。
紡績、産地、アパレルメーカー、小売店と川上から川下までを取材してきた。 同時にレディースアパレル、子供服、生地商も兼務。退職後、量販店アパレル広報、雑誌編集を経験し、雑貨総合展示会の運営に携わる。その後、ファッション専門学校広報を経て独立。 現在、記者・ライターのほか、広報代行業、広報アドバイザーを請け負う。

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(ライター 南 充浩)
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