Z世代とはどのような若者なのか。博報堂生活総合研究所の調査によると「親世代と『分かり合える感覚』をベースに強い信頼関係を築いている。
そのため反抗期は減少し、家族は『一緒にいたい存在』である」という。『Z家族 データが示す「若者と親」の近すぎる関係』(光文社新書)から、その実像を紹介する――。
■母親の存在は「ヨロイのような安心感」
「自分の親世代は学校での悩みを話しても、『先生に言われた通りにしろ』だけでした。でも今は、学校や先生も絶対的な存在ではなくなっています。常に子ども側の立場に寄り添ってアドバイスしたり必要ならサポートしたりしているから、信頼して何でも話してくれるんだと思います」
私たち生活総研の親子インタビューに応じてくれたあるお母さんが語ってくれました。
このお母さんについて、娘さんは「身近で安心できる、強い存在。ヨロイのような安心感」と表現していました。かたい信頼で結ばれていることが伝わってきます。
子どもの反抗期がなくなってきた要因として、Z世代とその親は社会の価値観や通ってきたカルチャーが似通っており、ベースとなる「分かり合える感覚」があることは確かです。反発の機会は減り、親子間の距離感もぐっと近いものになっていると分析できます。
さらに反抗期が減ってきている理由に踏み込むと、コアZ世代である19~22歳が幼少期のころには、子ども本人の意思や気持ちを尊重する「自己肯定感を育む子育て」が広まりつつあったことも無視できません。実際に、私たち生活総研が実施した「子ども調査」では、1997年から2017年の20年間で、「お父さん、お母さんは自分の話をよく聞いてくれる」という項目の値が上昇しています。

■「反抗すべき親が減った」という実態
反抗期は、本来「上からの支配」に対する反発として生じる、いわば作用・反作用の関係にあります。
親が頭ごなしに叩いたり叱ったりしてこないうえに、同じ興味・関心を共有できる「理解ある存在」となり、さらに子どもを尊重して肯定の姿勢で話をじっくり聞いてくれる。そんな親であれば、そもそもの「作用」が生まれません。
これらの背景を踏まえると、反抗期の減少を若者の気骨がなくなったから、軟弱になったからだと考えるのは、正しい捉え方ではなさそうです。「子どもたちが反抗しなくなった」というよりも、実態としては「反抗すべき親が減った」のです。
もちろんこれも、気骨のない親が増えてけしからんな、というような話ではありません。教育方針も含めた個人を尊重する価値観や、親子が共有できる文脈やカルチャーが大幅に増加した結果として起こっていることなのです。
■「生きがいを感じるのは家族といる時だ」
では、反抗期以外の観点では、現代の親子関係はどのように変化しているのでしょうか。
具体的な家族間のコミュニケーションについてのデータを見ていきます。
「若者調査」の結果を見ると、まず「家でひとところに集まって家族とよくおしゃべりする」が1994年から2024年の30年間で57.8%→72.3%に、「生きがいや充実感を感じるのは家族といる時だ」は28.6%→47.7%に大きく割合を増やしています。
反対に「家族関係がわずらわしいと思うことがある」は46.4%→36.0%に減少。コアZ世代の若者にとって、家族は「一緒にいたい、心地よい存在」になりつつあるようです。

また、プレゼントのあり方も変化しています。小さいころは親から誕生日にプレゼントをもらっていた人が多いと思いますが、20歳前後だとどうでしょう。そのころにはもう親からプレゼントなんてもらわなくなってたよ、という方も多いのではないでしょうか。しかし、今の若者の実態は大きく異なります。
「最近、誕生日プレゼントをくれた人」という設問に対し、1994年には「父親からもらった」と答えた19~22歳の若者は男女全体で24.6%だったのに対し、2024年には50.2%と倍以上に増えています。「母親からもらった」若者の割合は「父親から」よりさらに高く、37.8%→69.5%と、7割近くに達しています。男女別に見ても、2024年調査で親から誕生日プレゼントをもらった息子は66.6%、娘は79.3%にのぼりました。
■両親へのプレゼントも30年間で倍増
ただし、このデータだけだとプレゼントは父母連名で、基本的には母親主導、父親はいちおう名前を添えただけという可能性も考えられます。そのため、反対に若者が両親に誕生日プレゼントを「贈ったかどうか」も見てみましょう。
すると、父親に誕生日プレゼントを贈った若者は1994年には全体で27.5%だったのが、2024年には37.2%に増加。母親に贈った若者も33.6%→51.8%に増え、こちらは過半数に達しています。
さすがに親からもらった率よりは低いですが、父親へのプレゼント、母親へのプレゼントともに、30年間で大幅アップとなっているのです。

また、この項目は特に息子の変化が顕著で、父親にプレゼントを贈った割合は17.2%→31.8%、母親へは20.8%→43.3%と、いずれも2倍近くになっています(娘から母親へのプレゼントはもともと47.3%と高い割合だったところから60.7%へとさらに増加しています)。Z家族は、お互いの誕生日を大切な日として扱うようになっていることが分かります。
■家の中で一番多く過ごす場所は
日常的に過ごす場所にも変化が見られました。1997年、2007年、2017年の10歳から14歳を調査した「子ども調査」によると、子どもがリビングで過ごす時間がずいぶん長くなっているようです。
「家の中で一番多くいる場所」として「自分の部屋」と答えた子どもの割合は1997年には32.3%でしたが、2017年には11.5%にまで減少。一方で、「リビング」と答えた割合は56.4%→83.6%に増えています。
この背景には、「子どもはリビングで勉強させた方が教育効果が高い」という考え方(いわゆる「リビング学習」)が広がり、学校から帰ってきた子どもがリビングで過ごすことが習慣になっている傾向に加え、住環境の変化も挙げられるでしょう。15.3%→20.5%と5ポイント程度ではありますが、「自分専用の子ども部屋がない」と答える子どもの割合が増加傾向にあるのです。
大手住宅メーカーの方に伺ったところによると、最近の住宅購入希望者は口をそろえて「リビングなどの共有スペースを広く取りたい」とリクエストされるそうです。子どもにとっても、狭くてさみしい自分の部屋にこもるより、広くて快適なリビング空間(しかも反抗したくなるような親もいない)で過ごしたいと感じるのも自然なことなのでしょう。
■新しいデバイスの影響が見られるZ家族
こうした変化に対して「常に同じスペースにいて息が詰まるのではないか」「そんなに家族で話すことがあるのか」と思った方もいるかもしれません。この疑問に答えるには、スマートフォンやタブレットといったパーソナルなメディアの普及によって「家族の過ごし方」も変化しつつあることがポイントになります。

スマホ等をそれぞれが持つようになったことで、リビングに家族で集っていてもひとりでポッドキャストを聴いたりゲームをしたり、動画や音楽を楽しんだりできるようになりました。
同じ空間にいても、それぞれ別のことをする。これは、ファミレスで若者たちが「同じ場所にいるのに各々(おのおの)スマホを見ている」状況を思い出して頂くと理解しやすいでしょう。
「リビングに集う」といっても膝を突き合わせておしゃべりし続けるわけではなく(そのような家族もいるかもしれませんが)、各々好きなことをしているからこそ気疲れもしないのです。
実際に家族世帯で注目されているのが、「オープンイヤー型イヤホン」と呼ばれるタイプの製品です。耳をふさがない設計で、音楽や音声コンテンツを楽しみながらも周囲の音に気づけるという特徴があります。もともとはランニングなどのスポーツ用途として広まりましたが、最近では「子どもが話しかけてきたときにもすぐに気づくことができる」と、家庭内でも活用されるようになってきました。
新しいデバイスの登場により、物理的に家族と一緒にいながらも、心理的には「ひとりの世界」に入ることもできる。そんな、これまでにはなかった新しいライフスタイルが親子ともに広がりつつあるようです。

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博報堂生活総合研究所(はくほうどうせいかつそうごうけんきゅうじょ)

広告会社博報堂の企業哲学「生活者発想」を具現化するために、1981 年に設立されたシンクタンク。人間を単なる消費者ではなく「生活する主体」として捉え、その意識と行動を継続的に研究している。1992 年からの長期時系列調査「生活定点」のほか、さまざまなテーマで独自の調査を行い、生活者視点に立った提言活動を展開。
本書は、若者研究チーム(酒井崇匡、髙橋真、伊藤耕太、佐藤るみこ、加藤あおい)による調査・分析をもとに構成されている。

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(博報堂生活総合研究所)
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