何度言っても片づけられない子に、どう対応したらいいか。精神科医さわさんは「ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠陥多動性障害)の特性を持つ子の中には、整理整頓が苦手な子がいる。
※本稿は、精神科医さわ『児童精神科医が子どもに関わるすべての人に伝えたい「発達ユニークな子」が思っていること』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。
■走り回る子を感情的に怒るのは逆効果
多動性や衝動性の特性が強く、どこでも走り回る子がいます。
クリニックでもドアを開けて入ってくるやいなや、私のほうに駆け寄ってきそうになったり、診察室の机にイスから飛び乗ってきたりする子もいます。
元気のよい活発な子ととらえる方もいるかもしれませんが、「人の言うことが聞けない」「まわりの人に迷惑をかける」と困り果てている親御さんも多いです。たしかに、やみくもに走り回ったり行動したりすると、その子がケガをしてしまうなど危険な目にあう可能性もありますし、人を傷つけてしまうかもしれません。なにかを壊してしまうこともあります。
そのため、ケガをしそうなど危険な場合は、その場ですぐに伝えましょう。ただし、感情的に怒るのではなく、「なぜ、それをしてはいけないのか」を落ち着いたタイミングで、あとから具体的に説明します。
子どもを怒ったとしても、その行動がすぐに変わるわけではありません。
それどころか、怒ることを繰り返すと、子どもがその場しのぎの対応(とりあえず親の怒りを抑えるために謝るなど)を覚えてしまうことがあります。
親が感情的に怒ると、子どもはその場では「わかった」と答え、いったんは行動を止めることがあっても、同じことを繰り返すケースも多いです。
■「ここは騒いでも大丈夫ですよ」と伝えるワケ
診察室でも、騒いでいるお子さんに、親御さんが「やめなさい!」と声を荒げ、子どもが「ごめんなさい」と(とりあえず)謝る場面を見ることがあります。でも、しばらくするとまた同じ行動が繰り返されるのです。一時的に収まっても、解決になっていないことがほとんどです。
そんなとき、私は「ここでは騒いでも大丈夫ですよ」とお伝えしています(ただし、クリニックでも入ってはいけない場所があるので、そこはきちんと伝えます)。
とくに多動や衝動傾向の強い子は、診察室にある長イスに寝転がったり、足で壁を蹴ったり、長イスの上に立ち上がったりすることもありますが、そのときも叱りません。「座れるかな?」「話はできそう?」などと声をかけたり、ときには寝っころがったまま話を聞くこともあります。
なぜなら、「じっと座る」という行為は、その子の特性上、難しいとわかっているからです。この特性を理解していたら、「怒る」という選択肢にはなりません。
■10秒でも座っていられたら思い切りほめる
きっと親御さんは、こちらに失礼だとか、迷惑をかけるとか、騒いで申し訳ないとか、さまざまな思いから「怒る」という行動を選択する方もいるでしょう。
しかし、怒ることでその場しのぎになるだけでなく、子どもが苦しむこともあるのです。
多動や衝動傾向の強い子は、幼少期から叱られる体験や否定される体験が積み重なることが多いので、自分はダメな人間だという自己イメージができ上がってしまいがちです。
これはどんな子どもにも共通して言えることですが、多動や衝動傾向が強いお子さんに対してはなおさら、「できないこと」に目を向けるのではなく、「できたこと」に注目して、その子のがんばった姿勢をしっかりと認めて評価することが大切です。
たとえば、座っていなければいけないときに立ってしまう子が、1分でも、いや10秒でも座っていられたら、「ちゃんと座れているね、すごいね」とほめる。
立ち上がってしまったときに叱るのではなく、立ち上がっていないときに「ちゃんとできているね」としっかり注目してほめると、やはり子どもはうれしそうな顔をします。
■悪いところではなくできたことに注目する
その後に立ってしまうこともあると思いますが、そんなときには「さっきは上手に座れていたから、もう1回ちゃんと座っているところが見たいな」などと言い、それで座れたら「また座れたね。今日は何回も座れたね」というように「座れた」ことに注目し続けて、その行動を肯定するのです。
「じっと座っている」というのは、当たり前のことに思えるかもしれませんが、その子にとっては大きな一歩なのです。そこをしっかり見ていきましょう。
常に子どもの悪いところばかりに注目して叱りつけるという関わり方をしていると、その行動がより強化されてしまうことがあります。一方で、子どもができたところに注目してほめることによって、その子ができている時間が少しずつのばしていくほうが親も子も毎日の生活がぐんと楽になります。遠回りなようで近道です。
その子ができた点にまわりの大人が注目してほめて、子どものよい行動を伸ばしていくことは、特性のあるなしにかかわらず、すべての子育てにおいて大切です。
■人目を気にして怒るくらいなら連れて行かない
さらに、「子どもを怒らなければならない環境を避ける」という視点も大事です。
たとえばスーパーでいつも騒いでしまう子なら、できるならスーパーには連れて行かないとか、連れて行かなければならないときは、あらかじめ「今日はお菓子をひとつだけ買うよ」「この前買ったから今日は買わないよ」などとルールを決めて伝えておくのです。
たいていは、なにもルールを決めずに連れて行き(お母さんたちは忙しいですから、いちいちルールを決める時間がないのもよくわかります)、泣かれたらしかたなくお菓子を買うことも多いと思いますが、事前に話をしておくことで子どもも心の準備がしやすくなります。
ときどき、「まわりの目が気になるから、子どもを怒る」というケースも見られますが(私もやりました)、人目を気にして怒るくらいなら、やはり連れて行かないのが望ましいかもしれません。
親は子どもの成長をあせりすぎずに。発達に特性のある子どもは成長がゆっくりであることもありますが、その子なりのペースで成長していきます。
とくに、多動性や衝動性は、成長とともに落ち着いてくることもあります。小学校高学年をすぎるころから、この傾向が著しく軽減するケースも見られます。
「怒らない」「あせらない」を意識しながら、その子のペースで少しずつ成長していく様子を温かく見守る。そのような姿勢を忘れないでください。
■散らかしたくて散らかしているのではない
発達ユニークな子のなかには、優先順位をつけるのが苦手な子がいます。
その結果、片づけや整理整頓ができず、いつも部屋のなかがぐちゃぐちゃで、どこになにがあるのかわからなくなってしまうことがあります。
「こんなにいっぱい片づけなきゃいけないものがある」と感じると、「どこから手をつけていいかわからない」と混乱して、手が止まってしまうのです。
とくに、注意が散漫になりやすいADHDの特性を持つ子は、片づけようと思っていてもほかのことに目が向いて、いつの間にかおもちゃで遊んでいたり、マンガを読んでいたりして、なかなか片づけに集中することができません。
また、ASDの特性を持つ子のなかにも、自分のこだわりが強くて、なかなか物を手放せない子がいます。
■「服を脱いだらかごに入れようね」からでいい
子どもが苦手なことに挑戦するときは、「ちゃんと」を求めるのではなく、「できることから少しずつやってみよう」という気持ちで寄り添いましょう。
だれだって高いハードルを前にすると、「できない」「無理」「やりたくない」と感じてしまうことってありますよね。
だからこそ、ハードルを少し低くして「ここまでできたらすごいね」と導いていくことで、子どもも「これならできるかも」と一歩を踏み出せるようになります。その結果、「できた」の積み重ねが、子どもの自信を育んでいくのです。
片づけも、1人で完ぺきにではなく、子どもが片づけやすい工夫をしてハードルを下げてみてください。
たとえば、学校で使う物を部屋の1か所にまとめるだけでいいとか、学校の物と遊びの物を分ける、本やマンガをまとめる、大きな物から片づける、いらない物をゴミ箱に捨てる……など、とにかくできそうなことからはじめてみる。
「服を脱いだら、このかごに入れようね」からでもいいですし、「今日はこのゾーンを片づけようか」と部屋をブロックに分けて1か所ずつ片づけていくのもいいでしょう。
また、ここでも子どもが目で見てすぐにわかる視覚支援も効果的です。透明なケースにするだけでも格段に視覚的に片づけが楽になります。
ほかにも、おもちゃを入れるケースには、おもちゃのイラストや写真を貼っておく、文房具の棚には、文房具のイラストや写真を貼っておくなどの工夫をしている人もいます。
引き出しに靴下などのイラストを貼っておけば、どこにしまえばいいかが一目瞭然です。
言葉よりも、視覚で伝えるのです。
■「片づけなさい」だけでなく親も一緒にやる
「片づけなさい」と口で言うだけではなく、親が一緒に片づけをするのも効果的です。
言葉だけではイメージしにくいことでも、「こうやって片づけるんだよ」と目の前でお手本を見ると、子どもは具体的な行動がイメージしやすくなります。まさに、視覚支援なのです。
それも、一度やって見せて終わりではなく、何度でも繰り返し見せることが大事です。一度で完ぺきにできることを期待するのではなく、何度でも根気よく取り組んでいきます。
「お母さんがこっちの半分をやるから、そっちの半分やってみない?」と交渉してみるのもひとつの方法です。
そして実際に片づける様子を見せながら、「ほら、上手にできたね」とか「わあ、そっちの半分はとってもきれいになったね」などと声をかけることで、子どもも「自分にもできる」という具体的なイメージを持てるようになります。
親御さんが「一緒にやってみようか」とやさしく声をかけてくれるだけで、子どももきっと安心してやってみようと思うはずです。
そして、少しでも片づけができたときには、「片づけできたね。よくがんばったね」とほめてくださいね。
■「できた」経験が「できる」自信を育む
なかには、「親がいつまでも手を貸していたら、自立できないのでは?」と心配する親御さんもいます。
でも、最初のうちはとくにていねいにやり方を教えて、子どもに「できた」という体験を積み重ねていくことが大切です。そうすることで、少しずつ親の手を離れて自分でできる力と自信が育まれていくのです。
そのうえで、その子の「できること」と「できないこと」を見極め、「できないこと」がわかったら、「手伝って」「助けて」と周囲に言える力が育まれていきます。
いくつになっても、生きていくうえで、人に頼ることは必要なことです。“手を貸さない”ことをめざすのではなく、“求められたとき手を貸せる関係性をつくる”ことも大事です。
だれにでも得意なことと不得意なことがありますから、家庭でもお互いの苦手な部分をカバーし合うというコミュニケーションがあってもいい、と私は考えています。
家庭というのは社会の縮図のような場所です。
家庭で助け合うことを経験しながら育った子は、社会でも「困ったときはお互いに助け合えばいい」と自然に感じられるようになっていくのです。
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精神科医さわ(せいしんかいさわ)
精神科専門医/精神保健指定医/公認心理師
医療法人「霜月之会」理事長。藤田医科大学医学部を卒業後、精神科の勤務医として、アルコール依存症をはじめ多くの患者と向き合う。発達障害の娘の育児に苦労しながらも、シングルマザーとして2人の娘を育てる。長女が不登校となり、発達障害と診断されたことで「自分と同じような子どもの発達特性や不登校に悩む親御さんの支えになりたい」と勤務していた精神病院を辞め、2021年3月名古屋市に「塩釜口こころクリニック」を開業。これまで延べ3万人以上の診察に携わっている。著書に『子どもが本当に思っていること』(日本実業出版社)がある。
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(精神科専門医/精神保健指定医/公認心理師 精神科医さわ)
『ちゃんと片づけなさい』と口で言うだけでなく、親が一緒にやってみせることが効果的だ」という――。
※本稿は、精神科医さわ『児童精神科医が子どもに関わるすべての人に伝えたい「発達ユニークな子」が思っていること』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。
■走り回る子を感情的に怒るのは逆効果
多動性や衝動性の特性が強く、どこでも走り回る子がいます。
クリニックでもドアを開けて入ってくるやいなや、私のほうに駆け寄ってきそうになったり、診察室の机にイスから飛び乗ってきたりする子もいます。
元気のよい活発な子ととらえる方もいるかもしれませんが、「人の言うことが聞けない」「まわりの人に迷惑をかける」と困り果てている親御さんも多いです。たしかに、やみくもに走り回ったり行動したりすると、その子がケガをしてしまうなど危険な目にあう可能性もありますし、人を傷つけてしまうかもしれません。なにかを壊してしまうこともあります。
そのため、ケガをしそうなど危険な場合は、その場ですぐに伝えましょう。ただし、感情的に怒るのではなく、「なぜ、それをしてはいけないのか」を落ち着いたタイミングで、あとから具体的に説明します。
子どもを怒ったとしても、その行動がすぐに変わるわけではありません。
それどころか、怒ることを繰り返すと、子どもがその場しのぎの対応(とりあえず親の怒りを抑えるために謝るなど)を覚えてしまうことがあります。
親が感情的に怒ると、子どもはその場では「わかった」と答え、いったんは行動を止めることがあっても、同じことを繰り返すケースも多いです。
■「ここは騒いでも大丈夫ですよ」と伝えるワケ
診察室でも、騒いでいるお子さんに、親御さんが「やめなさい!」と声を荒げ、子どもが「ごめんなさい」と(とりあえず)謝る場面を見ることがあります。でも、しばらくするとまた同じ行動が繰り返されるのです。一時的に収まっても、解決になっていないことがほとんどです。
そんなとき、私は「ここでは騒いでも大丈夫ですよ」とお伝えしています(ただし、クリニックでも入ってはいけない場所があるので、そこはきちんと伝えます)。
とくに多動や衝動傾向の強い子は、診察室にある長イスに寝転がったり、足で壁を蹴ったり、長イスの上に立ち上がったりすることもありますが、そのときも叱りません。「座れるかな?」「話はできそう?」などと声をかけたり、ときには寝っころがったまま話を聞くこともあります。
なぜなら、「じっと座る」という行為は、その子の特性上、難しいとわかっているからです。この特性を理解していたら、「怒る」という選択肢にはなりません。
■10秒でも座っていられたら思い切りほめる
きっと親御さんは、こちらに失礼だとか、迷惑をかけるとか、騒いで申し訳ないとか、さまざまな思いから「怒る」という行動を選択する方もいるでしょう。
しかし、怒ることでその場しのぎになるだけでなく、子どもが苦しむこともあるのです。
多動や衝動傾向の強い子は、幼少期から叱られる体験や否定される体験が積み重なることが多いので、自分はダメな人間だという自己イメージができ上がってしまいがちです。
これはどんな子どもにも共通して言えることですが、多動や衝動傾向が強いお子さんに対してはなおさら、「できないこと」に目を向けるのではなく、「できたこと」に注目して、その子のがんばった姿勢をしっかりと認めて評価することが大切です。
たとえば、座っていなければいけないときに立ってしまう子が、1分でも、いや10秒でも座っていられたら、「ちゃんと座れているね、すごいね」とほめる。
立ち上がってしまったときに叱るのではなく、立ち上がっていないときに「ちゃんとできているね」としっかり注目してほめると、やはり子どもはうれしそうな顔をします。
■悪いところではなくできたことに注目する
その後に立ってしまうこともあると思いますが、そんなときには「さっきは上手に座れていたから、もう1回ちゃんと座っているところが見たいな」などと言い、それで座れたら「また座れたね。今日は何回も座れたね」というように「座れた」ことに注目し続けて、その行動を肯定するのです。
「じっと座っている」というのは、当たり前のことに思えるかもしれませんが、その子にとっては大きな一歩なのです。そこをしっかり見ていきましょう。
常に子どもの悪いところばかりに注目して叱りつけるという関わり方をしていると、その行動がより強化されてしまうことがあります。一方で、子どもができたところに注目してほめることによって、その子ができている時間が少しずつのばしていくほうが親も子も毎日の生活がぐんと楽になります。遠回りなようで近道です。
その子ができた点にまわりの大人が注目してほめて、子どものよい行動を伸ばしていくことは、特性のあるなしにかかわらず、すべての子育てにおいて大切です。
■人目を気にして怒るくらいなら連れて行かない
さらに、「子どもを怒らなければならない環境を避ける」という視点も大事です。
たとえばスーパーでいつも騒いでしまう子なら、できるならスーパーには連れて行かないとか、連れて行かなければならないときは、あらかじめ「今日はお菓子をひとつだけ買うよ」「この前買ったから今日は買わないよ」などとルールを決めて伝えておくのです。
たいていは、なにもルールを決めずに連れて行き(お母さんたちは忙しいですから、いちいちルールを決める時間がないのもよくわかります)、泣かれたらしかたなくお菓子を買うことも多いと思いますが、事前に話をしておくことで子どもも心の準備がしやすくなります。
ときどき、「まわりの目が気になるから、子どもを怒る」というケースも見られますが(私もやりました)、人目を気にして怒るくらいなら、やはり連れて行かないのが望ましいかもしれません。
親は子どもの成長をあせりすぎずに。発達に特性のある子どもは成長がゆっくりであることもありますが、その子なりのペースで成長していきます。
とくに、多動性や衝動性は、成長とともに落ち着いてくることもあります。小学校高学年をすぎるころから、この傾向が著しく軽減するケースも見られます。
「怒らない」「あせらない」を意識しながら、その子のペースで少しずつ成長していく様子を温かく見守る。そのような姿勢を忘れないでください。
■散らかしたくて散らかしているのではない
発達ユニークな子のなかには、優先順位をつけるのが苦手な子がいます。
その結果、片づけや整理整頓ができず、いつも部屋のなかがぐちゃぐちゃで、どこになにがあるのかわからなくなってしまうことがあります。
「こんなにいっぱい片づけなきゃいけないものがある」と感じると、「どこから手をつけていいかわからない」と混乱して、手が止まってしまうのです。
とくに、注意が散漫になりやすいADHDの特性を持つ子は、片づけようと思っていてもほかのことに目が向いて、いつの間にかおもちゃで遊んでいたり、マンガを読んでいたりして、なかなか片づけに集中することができません。
また、ASDの特性を持つ子のなかにも、自分のこだわりが強くて、なかなか物を手放せない子がいます。
■「服を脱いだらかごに入れようね」からでいい
子どもが苦手なことに挑戦するときは、「ちゃんと」を求めるのではなく、「できることから少しずつやってみよう」という気持ちで寄り添いましょう。
だれだって高いハードルを前にすると、「できない」「無理」「やりたくない」と感じてしまうことってありますよね。
だからこそ、ハードルを少し低くして「ここまでできたらすごいね」と導いていくことで、子どもも「これならできるかも」と一歩を踏み出せるようになります。その結果、「できた」の積み重ねが、子どもの自信を育んでいくのです。
片づけも、1人で完ぺきにではなく、子どもが片づけやすい工夫をしてハードルを下げてみてください。
たとえば、学校で使う物を部屋の1か所にまとめるだけでいいとか、学校の物と遊びの物を分ける、本やマンガをまとめる、大きな物から片づける、いらない物をゴミ箱に捨てる……など、とにかくできそうなことからはじめてみる。
「服を脱いだら、このかごに入れようね」からでもいいですし、「今日はこのゾーンを片づけようか」と部屋をブロックに分けて1か所ずつ片づけていくのもいいでしょう。
また、ここでも子どもが目で見てすぐにわかる視覚支援も効果的です。透明なケースにするだけでも格段に視覚的に片づけが楽になります。
ほかにも、おもちゃを入れるケースには、おもちゃのイラストや写真を貼っておく、文房具の棚には、文房具のイラストや写真を貼っておくなどの工夫をしている人もいます。
引き出しに靴下などのイラストを貼っておけば、どこにしまえばいいかが一目瞭然です。
「引き出しから物を出す→使う→引き出しに戻す」という一連の流れをイラストにして、目につく場所に貼っておくのもひとつの方法です。
言葉よりも、視覚で伝えるのです。
■「片づけなさい」だけでなく親も一緒にやる
「片づけなさい」と口で言うだけではなく、親が一緒に片づけをするのも効果的です。
言葉だけではイメージしにくいことでも、「こうやって片づけるんだよ」と目の前でお手本を見ると、子どもは具体的な行動がイメージしやすくなります。まさに、視覚支援なのです。
それも、一度やって見せて終わりではなく、何度でも繰り返し見せることが大事です。一度で完ぺきにできることを期待するのではなく、何度でも根気よく取り組んでいきます。
「お母さんがこっちの半分をやるから、そっちの半分やってみない?」と交渉してみるのもひとつの方法です。
そして実際に片づける様子を見せながら、「ほら、上手にできたね」とか「わあ、そっちの半分はとってもきれいになったね」などと声をかけることで、子どもも「自分にもできる」という具体的なイメージを持てるようになります。
親御さんが「一緒にやってみようか」とやさしく声をかけてくれるだけで、子どももきっと安心してやってみようと思うはずです。
そして、少しでも片づけができたときには、「片づけできたね。よくがんばったね」とほめてくださいね。
■「できた」経験が「できる」自信を育む
なかには、「親がいつまでも手を貸していたら、自立できないのでは?」と心配する親御さんもいます。
でも、最初のうちはとくにていねいにやり方を教えて、子どもに「できた」という体験を積み重ねていくことが大切です。そうすることで、少しずつ親の手を離れて自分でできる力と自信が育まれていくのです。
そのうえで、その子の「できること」と「できないこと」を見極め、「できないこと」がわかったら、「手伝って」「助けて」と周囲に言える力が育まれていきます。
いくつになっても、生きていくうえで、人に頼ることは必要なことです。“手を貸さない”ことをめざすのではなく、“求められたとき手を貸せる関係性をつくる”ことも大事です。
だれにでも得意なことと不得意なことがありますから、家庭でもお互いの苦手な部分をカバーし合うというコミュニケーションがあってもいい、と私は考えています。
家庭というのは社会の縮図のような場所です。
家庭で助け合うことを経験しながら育った子は、社会でも「困ったときはお互いに助け合えばいい」と自然に感じられるようになっていくのです。
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精神科医さわ(せいしんかいさわ)
精神科専門医/精神保健指定医/公認心理師
医療法人「霜月之会」理事長。藤田医科大学医学部を卒業後、精神科の勤務医として、アルコール依存症をはじめ多くの患者と向き合う。発達障害の娘の育児に苦労しながらも、シングルマザーとして2人の娘を育てる。長女が不登校となり、発達障害と診断されたことで「自分と同じような子どもの発達特性や不登校に悩む親御さんの支えになりたい」と勤務していた精神病院を辞め、2021年3月名古屋市に「塩釜口こころクリニック」を開業。これまで延べ3万人以上の診察に携わっている。著書に『子どもが本当に思っていること』(日本実業出版社)がある。
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(精神科専門医/精神保健指定医/公認心理師 精神科医さわ)
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