若さを保つ秘訣はあるか。「日本発酵文化協会」上席講師の藤本倫子さんは「“究極の若返りが叶う”と注目されている成分がある。
サプリも販売されているが、実はスーパーで簡単に手に入れることができる」という。ライターの笹間聖子さんが聞いた――。
■夏の疲れが蓄積した「秋バテ」にはこの一杯
やっと涼しくなってきた昨今だが、体のだるさや疲れやすさ、「1日中眠い」などの不調を感じていないだろうか。それ、「秋バテ」かもしれない。秋は気温差が大きく、その変化に身体が順応しにくいため、自律神経が乱れがちになる。
「特に今年は夏の暑さが厳しく、疲労が蓄積している人が多いんです。そこに急激な気温低下が重なって、免疫力も下がりやすい。体調を崩しやすくなるのは当たり前です」
そう教えてくれるのは、発酵食品の正しい知識や楽しみ方を普及している「日本発酵文化協会」上席講師の藤本倫子先生だ。発酵への知見が深く、辛口なユーモアを交えて軽やかに話す「発酵の伝道師」としても知られている。
秋の不調には、夏に冷たいものを摂りすぎたことによる「内臓冷え」も影響しているという。内臓が冷えると、下痢や便秘、食欲不振だけでなく、集中力低下や慢性疲労につながりやすいのだ。
この「秋バテ」の今こそ藤本先生が勧めるのが、「米麹」を発酵させてつくる「麹甘酒」だ。
ちなみに、甘酒は「酒」とつくもののノンアルコール飲料である。サラリとした喉越しだが米の粒々が入っていて、果実のジュースくらい甘い。江戸時代、酒屋が作った甘い飲み物だから、「甘酒」と呼ばれるようになったそうだ。
■江戸時代は「エナジードリンク」「砂糖代わり」だった
「麹甘酒は江戸時代から『夏の滋養』として用いられてきましたが、私は“秋バテ”の今こそ飲むべきだと思いますね」と藤本先生は続ける。
あれ? 甘酒って冬に温めて飲むものでは?
そう思った人もいるかもしれない。しかし麹甘酒は江戸時代、おもに夏に売られていた。酒蔵が酒造りに忙しい秋~春を避け、閑散期の夏、酒造りに使用する米麹をそのまま使って造っていたからだ。
江戸の町には、「甘酒~い」と声を張り上げる行商人がいたそうだ。値段は一杯4~8文、現代の100~250円ほど。常温で茶碗に注がれ、庶民の間で「エナジードリンク」として親しまれていたという。
「麹甘酒に含まれるブドウ糖は砂糖よりも脳のエネルギー源になりやすく、疲れを解消し、集中力の低下を防いでくれます。ビタミンB1、B2、B6、ナイアシン、葉酸などの『ビタミンB群』も豊富で、炭水化物やタンパク質、脂質を効率的にエネルギーに変換する力が強い。
だから体温が上がり、元気が湧いてくるんです」
実際、複数の麹甘酒を製造する酒造メーカーの臨床実験で、心身の疲労感、無気力感の改善などの結果が報告されている。加えて、便通改善や大腸炎予防、関節痛緩和、中性脂肪の低下などの研究結果も……。
さらには、食後の血糖値及びインスリン量の上昇を抑制する成分が含まれることも分かっている。マルチに効く「パーフェクトドリンク」なのだ。
また、江戸時代は砂糖が貴重だったため、麹甘酒は「甘味」としても楽しまれていた。レシピが簡単な「麹甘酒づくり」は一般家庭にも広がり、明治、大正、昭和初期までは、各家庭で仕込み、料理や菓子づくりにも使われていたという。
しかし、第二次世界大戦で状況が激変する。米不足となり、米麹が作れなくなったからだ。追い打ちをかけるように、大戦後はアメリカからコーラやオレンジジュースが流入。甘味としての役割もなくなり、麹甘酒は日本人の記憶から消えていった。
■登場した“甘くない甘酒”
すると、入れ替わるように「酒粕甘酒」が台頭する。
酒粕に水と砂糖を合わせてつくる甘酒だ。
1970年代の高度経済成長期、よく働き、よく酒を飲む「モーレツサラリーマン」が登場し、日本酒消費量が急増したことが要因である。
その副産物として大量の酒粕が生まれ、神社に奉納されるように。この酒粕から神社は「酒粕甘酒」を作り、参拝者に温めた酒粕甘酒を振るまうようになった。
筆者も子供時代、神社で「酒粕甘酒」を飲んだ経験がある。そして、「甘酒=まずい」というイメージを抱いていた。酒の風味が強く、子供にとっては到底おいしいと思えるものではなかったからだ。そこから長い間、「甘い甘酒」の存在を知らなかった。
「酒粕甘酒は揮発が不十分だとアルコールが残っていることもあるので、子どもには向きませんね。私も子どもの頃は“甘酒ってまずい”と思っていました(笑)」
ちなみに、酒粕甘酒も古くから日本にあったそうだが、麹甘酒とどちらが先だったかは分かっていない。「甘酒」が最初に登場する記録は、奈良時代、720年に書かれた最古の歴史書『日本書紀』である。同書の中に、「289年頃、吉野の民である国栖人(くずびと)が、応神天皇に醴酒(たむざけ)を捧げて国栖奏を奏で、酒宴を行った」と記載がある。
この「醴酒」が甘酒の先祖だ。
しかし、それが麹甘酒と酒粕甘酒、どちらだったかが分からないのだ。とにかく、その頃天皇に「甘酒」が献上されていたことは間違いない。
■ビタミンCよりも強い抗酸化成分が含まれている
再び麹甘酒にスポットが当たったのは2011年頃。塩麹ブームをきっかけに「麹が体にいい」という認識が広まり、麹甘酒が再評価されたのだ。
「2012年から甘酒市場はどんどん伸びはじめ、食品新聞の推定によると、2015年に95億円だった市場が、2017年には215億円に。2年で2倍以上に成長しました」
急成長の要因は科学的裏付けだ。
ブドウ糖やビタミンB群、必須アミノ酸、食物繊維、オリゴ糖など、350種類以上の栄養素が解明され、「飲む点滴」と呼ばれるようになった。麹甘酒の健康効果が「飲む点滴」として注目され、ブームが到来したのである。
さらに2016年には、「エルゴチオネイン」という強力な抗酸化成分が一部の麹甘酒に含まれることも判明した。エルゴチオネインは、ビタミンCやEよりも強い抗酸化作用を持っている。肌の酸化を防ぎ、シワやたるみの予防に寄与する“究極の若返り成分”として注目されている成分だ。
「アメリカではきのこ類から抽出してサプリにし、アルツハイマー患者の治療に使う研究も進んでいます。
脳の認知機能改善や抗うつ機能も期待されています」
その1年後、2017年の研究では、麹甘酒に含まれる「麹由来グルコシルセラミド」という成分に、肌の潤いを助ける機能があることも解明された。甘酒摂取により、目の下のクマが明るくなり、髪のツヤが改善したというデータもある。
この頃から麹甘酒は、女優やモデルなど、美と健康に敏感な層からも支持を集めるようになった。藤本先生によると、「ゴルフの途中で甘酒を飲んでいるマダムも多かった」そうだ。
疲労回復、代謝アップ、体温調節、整腸、美肌、美髪――まさに現代人が求める効果のオンパレードだ。「まあ、究極のアンチエイジングですよね」という藤本先生の軽快な語りを聞いていると、“古い飲み物”という印象は微塵もない。
今、甘酒は海外でも認知度が急上昇しており、アメリカ、フランス、タイなどのスーパーや日本食レストランで、健康志向の高い層に人気を博している。オーガニック食品と同じコーナーに置かれることも多いという。
■「麹甘酒」か「酒粕甘酒」か、飲むならどっち
入れ替わり歴史に登場してきた、2つの甘酒。しかし、両方に手が届く現代、麹甘酒と酒粕甘酒はどう飲み分ければいいのか。
「これまでお伝えした通り、疲労回復や集中力アップ、美肌には麹甘酒が。そして、脂質代謝には酒粕甘酒がおすすめです」
酒粕甘酒にも、麹甘酒と同じくビタミンB群が豊富だ。
また食物繊維も多い。しかし、特に酒粕甘酒に多く含まれる「レジスタントプロテイン」という成分があるという。
レジスタントプロテインには脂質を流す成分が含まれており、揚げ物やグラタンなど脂質の多い食事と一緒に摂るのがおすすめだそうだ。
どちらも、コストパフォーマンスはいい。125~200mlで200円前後。大き目のパックで買えば、1杯あたり(藤本先生のおすすめは、1日100mlだ)、80円ほどとさらにお得だ。サプリで同じ栄養をすべて摂ろうとすれば、数千円はかかるだろう。
「しかも原料は米と米麹、水だけ。添加物もありません。総合的に栄養を取りたいなら、サプリより甘酒の方が効率的ですね」
それにしても、289年から歴史に登場し、1700年以上も受け継がれてきた甘酒に、こんなに効果があったとは――。350種類もの栄養素を秘める飲み物が、現代人の相棒になるのは自然な流れだろう。
「だから私は“究極のパフォーマンス向上ドリンク”と呼んでいるんです」と藤本先生はニヤリ。
秋バテの季節、甘酒を試してみる価値は十分にありそうだ。

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笹間 聖子(ささま・せいこ)

フリーライター、編集者

おもなジャンルは「ホテル」「ビジネス」「発酵」「幼児教育」。編集プロダクション2社を経て2019年に独立。ホテル業界専門誌で17年執筆を続けており、ホテルと経営者の取材経験多数。編集者としては、発酵食品メーカーの会員誌を10年以上担当し、多彩な発酵食品を取材した経験を持つ。「東洋経済オンライン」「月刊ホテレス」「ダイヤモンド・チェーンストアオンライン」「FQ Kids」などで執筆中。大阪在住。

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(フリーライター、編集者 笹間 聖子)
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