仕事と家事育児の両立は大変だ。少しでも楽にできないのか。
スウェーデンに住むデータサイエンティストの佐藤吉宗さんは「スウェーデンの共働き世帯は、食事の準備には時間と労力を極力かけない。パスタとミートソースのような一品料理が典型的だ」という――。
※本稿は、佐藤吉宗『子育ても仕事もうまくいく 無理しすぎないスウェーデン人』(日経BP)の一部を再編集したものです。
■子育てと仕事の両立における日本との違い
スウェーデンにこれまで暮らしてきて、子育てと仕事の両立を実現している同僚たちを見ながら、日本と何が決定的に違うかを考えてみると、それは、性別に関係なく働きやすい労働環境が整備されていること、そして、男性も積極的に家事・育児をしていることだと感じる。
わが家では平日は私が息子を学校に送り迎えし、夕ご飯の準備をしているが、他のスウェーデンの家庭でも男性が当然のように積極的に家事・育児をする。
わが家は家の近くに家庭菜園を借りている。40ほどの世帯で協同組合をつくり、自治体が用意した4000平方メートルほどの土地を分割して、それぞれが自家消費用に野菜や花を育てている。私はその組合の役員をしており、ある平日の夕方に役員の仕事が入ったことがあった。
■隣人の夕食は「ホットドッグ」だけ
私のパートナーは18時半頃にならないと仕事から帰宅しないため、当時保育所に通っていた息子を、彼のクラスメートの家に2時間ほど預けることになった。クラスメートの家族が住むアパートと私たちのアパートの建物とは隣同士で、互いのバルコニーから手を振って挨拶できるほど近い距離にある。
私が保育所帰りの息子を預けに行くと、その家の父親は2人の子どもと電車のおもちゃで遊んでいる真っ最中だった。チャーター旅行を企画する会社で働く彼はその日の在宅勤務を終えた後に子どもを保育所に迎えに行き、パートナーが仕事から帰ってくるまでの間、子どもの面倒を見ていたのだ。

私が役員の仕事を終えて息子を迎えに行くと、ちょうどこれから夕ご飯を食べようというところだった。その日の夕食はいたってシンプルでホットドッグ。お言葉に甘えて私も一緒にごちそうになった後、子どもたちと遊びながら世間話をしているうちに彼のパートナーが仕事から帰宅した。
このように、男性が育児や家事をしている光景というのは、実はスウェーデンではあまりに当たり前すぎるので、あえて特筆しようとすると私自身は滑稽に感じてしまう。
■男性は日本の3倍以上、家事と育児に時間をかける
私の職場の男性の同僚も、家では当然のように家事や育児を分担しており、子どもと遊んでいるときの出来事や子育ての悩みなどが、職場のランチのときに話題になったりする。
スウェーデン統計中央庁は10年ごとにスウェーデンに住む人々が家事に費やす時間を調査している。性別、年齢、家族構成、就業状態、所得、勤務先の規模などに細かく分けながら、人々が炊事や掃除・洗濯、買い物、子どもの世話などの無償家事労働にどれだけの時間を日々費やしているかを調べたものだ。最新の調査である2021年の結果を見てみると、子育て夫婦の男性、女性それぞれの家事・育児に費やす時間(1日あたり、週7日間の平均)は図表1の通りとなっている。
合計すると女性は8時間40分、男性は6時間43分となり(週末も含んだ平均であることに注意)、男性もかなりの時間を家事・育児に費やしていることが分かる。
ちなみに、21年の社会生活基本調査によると、日本で6歳未満の子どもを持つ共働き家庭の育児を含む家事関連時間は女性が6時間33分、男性が1時間55分(夫のみが働いている世帯は女性9時間24分、男性1時間47分)。
日本の方にとって、スウェーデンの数字は驚きかもしれない。しかし、スウェーデンで調査結果が発表されると、メディアの報道や世論は常に「いまだに家事・育児の多くの割合を女性が担っており、さらなる改善が求められる」という厳しい反応をする。

■パスタとミートソースのような一品料理が定番
日本で男性の家事が話題になると、どちらかというと「男性が女性の家事労働をサポートする(手伝う)」という話になりがちだ。しかし、スウェーデンでは家事労働は分担するのが当然で、どちらかがどちらかを「サポート」するものだとは考えられていない。これまで例を挙げてきたように、基本的にお互いの都合に合わせてどちらかがメインとなって食事を用意したり、子どもの面倒を見たりしている。
ちなみに夕食の準備をする、といっても、手の込んだ品数の多い食事を時間をかけて作っているというイメージは当てはまらない。共働き世帯では、その日の仕事を終え、2人とも疲れている。だから、食事の準備には時間と労力を極力かけない。パスタとミートソースを作ってそれを皿に盛るだけのような一品料理が典型的だ(余力があればキュウリやトマトを切ってサラダを作る)。
ある日に多めに作って、それを冷蔵庫や冷凍庫で保存しながら、数日にわたってレンジで加熱しながら食べることも一般的だ。先ほど挙げた息子のクラスメートの家族のように、ホットドッグのような軽食で済ませ、寝る前にオープンサンドイッチのような夜食を食べることも珍しくない。ピザやすしなどをテイクアウトして自宅で食べることもある。昼食は職場や学校、保育所でしっかり食べているのだから、夕食は軽くても良いという考えだ。
■宅配サービスや家事代行サービスも活用
スウェーデンの子育て世帯の暮らしを見ていると、必ずしも自分たちの時間や労力を割いて家事を完璧にする必要はないのだと感じる。
日本の感覚ではそれは手抜きをしていると捉えられるかもしれないが、スウェーデンではそう考えられていない。
スーパーの宅配サービスや、家の掃除のような家事代行サービスの利用も増えている。わが家でもほぼ毎週スーパーの宅配サービスを通じて食材や日用品を購入している。そして、余裕ができた時間や週末を使って、子どもや家族との団らん、自分の趣味に時間を費やす。
かといって、スウェーデン人が怠け者というわけではない。DIYに熱心で、家のリノベーションは自分でやるという人も多い。平均的な所得の家庭でも夏休みに過ごすコテージやレジャーボートを所有し、その活用やメンテナンスにはお金と時間をふんだんに費やす人もいる。
■「冷凍食品ばかり」でも幸せを感じる価値観
10年以上前に、日本の大手日刊紙に掲載された、スウェーデン在住の日本人による投書を思い出す。「スウェーデンではみんなが共働きで、家では冷凍食品ばかり。これがほんとに幸せな社会なのか」と嘆く内容の投書だった。しかし、日常生活の中で何を幸せと感じるかはその人の価値観次第だと私は思う。
日本のように手の込んだ手料理を作ろうと思えば時間と労力を要する。
専業主婦家庭であれば可能かもしれない。しかし、そのために日本の社会はスウェーデン以上に男女不平等という大きな犠牲を払っている。1日24時間という限られた時間の中で仕事と家庭の両立を実現しようと思えば、何かを優先して何かを削らなければならない。
今のスウェーデン人にとって、家事に極力時間をかけないという選択は、自分たちの選んだ選択肢なのだ。冷凍食品ばかり、夕食が手抜きと一部の日本人の目には映るかもしれないが、だからといってスウェーデン人自身がそれを嘆いているわけではない。
■たくさん作ってもついついおかわり…
さて、わが家では私とパートナーで、平日と週末の夕ご飯の準備をそれぞれ担当している。私はこれまで25年間のスウェーデン生活の中で、基本的に食べたい物は自炊してきたので、和食、中華、洋食などたいていのものは自分でおいしく調理する自信はある。
ただし、私も楽をしたいので、一度にたくさんの量を調理して作り置きしたいと思うものの、多くの場合、失敗する。一つ問題なのは、夫婦2人分を調理するときはおいしくできるのに、その倍の量を作ろうとすると調理がいい加減になるのか、火の通り方が異なってくるのか分からないが、味が劣ってしまうこと。
もう一つの問題は、たくさん作ってもついついおかわりして、結局食べきってしまうこと。さらに言えば、前日に作り置きしたことを忘れて、うっかり新たな夕食を作ってしまうことも多い。そんなわけで、平日の夕方はほぼ毎日、台所に立って料理をしている。


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佐藤 吉宗(さとう・よしひろ)

データサイエンティスト

1978年、鳥取県米子市に生まれる。京都大学経済学部に在籍中の2000年、交換留学生としてスウェーデンにわたりウプサラ大学で学ぶ。その後、同国ヨンショーピン大学にて経済学修士号、ヨーテボリ大学にて博士号を取得。さらに、ストックホルム商科大学・欧州日本研究所においてポスドク研究員を務める。18年より、スウェーデンのAIコンサルティング企業Combient MIXにデータサイエンティストとして勤務(同社は後にフィンランドのSilo AIに買収され、さらに米国半導体大手AMDの傘下となる)。在職中は、スカンディナヴィア航空(SAS)やスウェーデンの大手民間銀行SEBにおいて、外部コンサルタントとしてAIモデルの開発および実用化に従事した。25年6月、SEBに移籍し、シニア・データサイエンティストとして現在に至る。スウェーデンで知り合った日本人のパートナーとともに共働きで2人の子どもを育てている。共著に『スウェーデン・パラドックス』(日本経済新聞出版)、訳書に『沈黙の海』(新評論)、『スウェーデンは放射能汚染からどう社会を守っているのか』(合同出版)がある。

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(データサイエンティスト 佐藤 吉宗)
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