明日10月4日に迫った自民党総裁選の争点は何か。社会学者の西田亮介氏は「『解党的出直し』を誓ったはずの自民党の候補者の論戦から、今のところそうした風潮はまったく認められない。
全員が言及を避けている“大きな問題”がある」という――。
■裏金問題で受けたダメージを忘れた自民党
2023年末に発覚した自民党派閥の政治資金パーティー券問題は、数億円規模の裏金が作られていた実態を明らかにし、国民の政治不信を決定的なものとした。検察の捜査で複数の議員や関係者らが起訴され、自民党は麻生派を除いて派閥解散という事態に追い込まれた。これを受け自民党は「解党的出直し」を誓ったはずだ。
だがここまでの候補者間の論戦ではそうした風潮はまったく認められない。そもそも「解党的出直し」というフレーズ自体、2009年に政権を明け渡した時など幾度も使われてきたお決まりの陳腐な言葉であった。
今回の自民党総裁選で問われているのは、総裁選候補者らが口にする人事刷新や世代交代といった前向きな話でも、「未来の話」などでもない。次々にネットの番組に出演し、人気インフルエンサーと共演したところで、かつての裏金問題が取り繕われることにならないし、なるべきでもない。
自民党は参院選総括の報告書でいったい何を述べたのか。
党自体も常に時代に適した変革を遂げていかなければならない。今回、国民から突きつけられた「現状からの脱却」という至上命題を真摯に受け止め、わが党は党を一から作り直す覚悟で解党的出直しに取り組み、再び国民に信頼され負託に応えられる真の国民政党に生まれ変わることをここに誓う。(自民党「第27回参議院議員通常選挙総括委員会 報告書」p.12から引用)
ここでいうところの「国民から突きつけられた『現状からの脱却』」の含意が「政治とカネ」にあることを、自民党とその支持層はひたすら無視し続けている。

■「#変われ自民党」というフレーズの虚しさ
自民党に今求められているのは、「政治とカネ」の問題に正面から取り組む覚悟と、国民の信頼を回復する具体策を示せるか、という後ろ向きの反省だったはずだ。
そのような覚悟がなければ、いくら「#変われ自民党」(総裁選の公式キャッチフレーズ)などと叫んでも、国民にはただただ空虚に響き、他人事に聞こえるだけである。直近の大型選挙3連敗という結果を見てもそのことは明らかなはずだが、自民党は未だに学習できていないか、どうしても認めたくないようだ。
「党の一致団結」など、幅広い国民が今求めていることだろうか?
無党派層のみならず、自民党の支持率が低下している現状において、そんなことに関心が向いているとは考え難い。
「政治とカネ」の問題は日本政治の宿痾であり、「世代交代が最大の改革」などということはありえないはずだ。メディアも最近は「起きたこと」を伝えるのに手一杯で、追及の手は緩みがちだ。
■「内輪の論理」から抜け出す気はあるのか
「政治とカネ」の問題は30年以上も根本解決されてこなかった。そのことがなによりも永田町、そして自民党内の世代交代などだけでは解決できなかったことを端的に物語っている。リクルート事件など大規模なスキャンダルが繰り返されるたびに政治資金規正法は改正されてきたわけだが、その場しのぎの対症療法に終始している。
今回の一連の法改正で、ようやく旧文通費の透明化は達成されることになったが、政策活動費の透明化や企業・団体献金の廃止といった抜本改革には至らず、実効性のある再発防止策は不十分なままだ。
にもかかわらず、党改革を掲げた小泉進次郎氏をはじめ、裏金問題に関与した議員を「適材適所」と述べるなど、自民党は内輪の論理から抜け出せていないといえる。
国民はもはや空疎な改革論議に騙されず、2024年10月の衆議院選挙でその意思を明確に示した。
自民党は公示前の247議席から191議席へと激減し、公明党と合わせても過半数割れという歴史的大敗を喫したのである。
世論調査でも多くの有権者が投票の際に政治資金問題を考慮したと回答している。国民からの明確な「NO」の意思表示というほかあるまい。
しかし、石破政権はこの民意を前にしても権力の座にしがみつき続けた。過半数割れのリスクから衆議院を解散して国民に信を問うことすらせず、立憲民主党の一部や日本維新の会などとの部分的な協力関係を模索。ポスト石破政権の候補者らは、早くも野党の目玉政策に言及することでリップサービスし、数合わせの論理で政権維持を図ろうとしている。これはまさに「国民不在の政治」の極致と言える。
■総裁選に関与する国民はわずか1%
自民党員はピーク時の500万人前後から100万人近くにまで減少し、両院においては少数与党だ。これは、国民の1%程度以下しか自民党総裁選に参加できないことを意味する。
「副首都」だなんだと、自民党との連立や協力に前のめりの野党もあるようだが、抜本的改革の提示されないままの自民党との連立は、諸刃の剣どころかその切っ先は自らにも向けられることになるのではないか。大阪以外の地域では、いよいよ党勢の「致命傷」になるのではないか。
■「政策本位の政治」が実現されなかった30年
1990年代のかつての改革派は(当の石破総理本人もそうだったわけだが)、自ら自民党を飛び出した。
しかし「改革」から30年の歳月が流れた今では、そんな気配は自民党内から微塵も感じられない。
この問題の根底には、30年前の政治改革が目指した「政策本位の政治」が実現されず、「派閥政治」が形を変えて存続してきたという事実がある。
また地方政治は、国政よりも政治資金に関する規制が緩いまま放置されてきた。そのことが政治資金の透明性を損ない、国政と連続する不正の温床となっている可能性がある。
今求められる政治改革とは、政治資金の透明化の徹底、企業・団体献金規制、地方政治とカネの問題の政策競争にあるのではないか。
第三者機関の具体像や地方政治とカネの問題の規制強化など、こうした点こそ野党と議論してはどうか。
これももうすっかり忘れられてしまっているが、議会に設置された政治倫理審査会が機能しなかったという問題もある。これは議会に設けられているので、改革に際しては議員自ら主導していかなければならないのだが、そんな声もとんときかない。
■解散した派閥をアテにする候補者たち
「政治とカネ」についても、「解党的出直し」というフレーズに値するプランを各候補者が提示し、論点の掘り下げを行うべきだ。政治資金の透明化をどこまで進めるのか、企業・団体献金についてどう考えるのか、違反者への処分をどう厳格化するのか、こうした具体的な論点について明確な方針を示すべきだ。
今のところ、そのような政策論争は総裁選候補者の間で全くと言ってよいほど起きていないという認識だがどうだろうか。
それどころか、各候補者は、解散した派閥の「領袖詣」を続け、実際のところは、前回総裁選で多くの議員票(3位)、党員票(2位)を集めた石破総理の票が欲しいのか、その顔色をうかがい続けている。

小泉陣営はネット上の世論工作を指示し、それが漏れて謝罪に追い込まれるなど、緊張感を欠いている。陣営の広報班長はデジタル大臣も務めた牧島かれん氏だ。
しかも、どうも同種のキャンペーンが常態化している節さえある。自民党は早くからネット上で支持層を組織化した歴史もあるだけに注視すべきではあるのだが、書いているだけで辟易としてきてしまう。
メディアも、各候補者の政治改革への具体的なビジョンを厳しく検証し、国民に伝える責任があるのではないか。
各候補の政策案は、すでに政府が具体化に向けて走り出している政策や、教育などあまりに記述が手薄な政策が多数ある。
■自民党、日本政治に「明日」はあるのか
自民党は今、岐路に立っている。このまま内輪の論理に固執し、形だけの改革でお茶を濁し続けるのか、それとも本当の意味での「解党的出直し」を断行するのか。相変わらずの数合わせと国民不在の論理が続く限り、政治不信はいっそう深まってしまいかねない。
この悪循環を断ち切り、「政治とカネ」の問題に真正面から向き合う抜本的な改革ができなければ、自民党、ひいては日本政治の明日はない。そのことを、政治家も、メディアも、そして我々国民も、今一度深く認識すべき時が来ている。

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西田 亮介(にしだ・りょうすけ)

日本大学危機管理学部教授/東京科学大学特任教授

1983年京都生まれ。
博士(政策・メディア)。専門は社会学。著書に『メディアと自民党』(角川新書、2016年度社会情報学会優秀文献賞)、『コロナ危機の社会学』(朝日新聞出版)、『ぶっちゃけ、誰が国を動かしているのか教えてください 17歳からの民主主義とメディアの授業』(日本実業出版社)ほか多数。

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(日本大学危機管理学部教授/東京科学大学特任教授 西田 亮介)
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