ようやく涼しくなり夏に減退していた食欲も復活する時期。糖尿病専門医の矢野宏行さんは「秋はとにかく食べる量に注意。
イモやカボチャなど糖質を多く含む野菜も食べ過ぎないほうがいいが、食事のメインとなりがちな糖質の高い秋のメニューがある」という――。
■秋の味覚、甘い野菜やフルーツは糖質が高い
夏の暑さも少しずつ和らぎ、いよいよ食欲の秋。秋の味覚といえば「芋・栗・南京(なんきん)(カボチャ)」をはじめ、柿・梨・ブドウといった果物類が代表的です。この時期、せっかくおいしい季節が来たのだからと、つい食べ過ぎてしまう人も多いのではないでしょうか。
しかし、私が専門とする血糖値の面から言うと、これらの食材の中には要注意のものもあります。まずイモ(芋)類。サツマイモやジャガイモは糖質を多く含んでおり、特に焼きイモは100gあたりの糖質が約34.5~37.8gと高めになっています。
クリ(栗)の糖質も多く、これが甘栗となるとさらに高くなります。カボチャの糖質の割合はサツマイモや栗に比べれば低いものの、それでも野菜の中では比較的高い部類に入ります。
糖質が高い野菜の代表格はイモ、カボチャ、トウモロコシ。私は、患者さんにはこの3つはなるべく控えるようお伝えしています。野菜=低糖質というイメージを持っている人も多いかもしれませんが、実はそうとも限らないのです。
「今日はサラダを食べた」と言っても、それがポテトサラダやカボチャサラダだったら、栄養面はともかく糖質面では好ましいとは言えません。
今は血糖値に問題がない方も、これらを食べる際はちょっと糖質を意識して、量を半分にする、葉物野菜と一緒に摂るなど工夫しましょう。葉物野菜に含まれる食物繊維には、糖質の吸収を遅らせ、血糖値が急に上昇するのを抑える作用があります。
■糖度の高いフルーツ、柿やブドウより梨がベター
果物にもちょっと注意が必要です。秋の果物で糖質が高めなのは柿とブドウ。梨は比較的低めですが、最近の果物は甘くないと売れないということで、全般的に糖度が高くなるように品種改良されています。
甘い果物に多く含まれる「果糖」は、それ自体はさほど血糖値を上げはしないものの、内臓脂肪の原因になりやすく、そこから脂肪肝になると血糖値も上がってしまいます。
フルーツは体にいい、だからたくさん食べたほうがいいと思っている人も多いのではないでしょうか。しかし、糖質の面では1日のうち3食すべてで食べるのは摂り過ぎで、1日1回が適量と言えます。
■要注意、炊き込みご飯を何杯も食べると…
秋は炊き込みご飯もおいしい季節ですが、そもそも白ご飯自体がお茶碗小盛1杯(100g)で37gほどと糖質の高い食べ物。「栗おこわ」(100gの糖質53.4g)や「さつま芋ご飯」(同・糖質57.2g)などの炊き込みご飯であれば、「高糖質×高糖質」の掛け合わせなので、これもやはり食べる量を減らすなどの工夫が必要です。ただ、秋は炊き込みご飯が食事のメインになったり、市販のお弁当に入っていたりしますよね。

ちなみに、ご飯の糖質は古米も新米もほとんど変わりません。玄米は糖質がやや低いとはいえ、血糖値への影響はほぼ同じ。玄米ならたくさん食べても大丈夫というわけではないということも知っておいてもらえたらと思います。
■コンビニ弁当は炭水化物の量をチェックして
この時期に多く登場する炊き込みご飯系のコンビニ弁当も、糖質の面では要注意です。成分表示を見ればわかりますが、コンビニ弁当はもともと炭水化物が多め。炭水化物とは糖質と食物繊維を合わせた総称ですが、近年はこれらを分けて表示するコンビニも増えています。それを見れば事前に糖質量がわかって安心かと思いきや、困ったことにそうは言い切れない場合も。
私は、家で調理した栗ご飯とコンビニ弁当の栗ご飯とで、食後の患者さんの血糖値を測って比べてみたことがあります。すると、摂取した糖質量は同じぐらいなのに、なぜか後者のほうが血糖値が高くなっていました。コンビニ弁当の成分表示はプラスマイナス20%ほどの誤差が認められているそうなので、もしかしたらその誤差が血糖値の差となって表れたのかもしれません。
ここまでの話を読むと、気をつけなきゃいけないものばかりじゃないかと思われるでしょう。でも、もちろんおすすめしたい食材もあります。

■いくら食べてもいい? 唯一の秋の味覚
秋の味覚の中で、私が特に推したいのはキノコ類。全体的に糖質が低く、中でもマイタケ、エノキ、シメジは低糖質かつ食物繊維が豊富です。ですから、炊き込みご飯ならぜひキノコご飯を選んでいただきたいですね。
また、イモ類ならジャガイモやサツマイモより、比較的糖質の低いサトイモがおすすめです。サンマも、これは魚全般に言えることですが非常に糖質が少なく、血糖値が気になる方も安心して食べられる食材です。
■「新そば」「新米」も…、食事量の増加に注意
ヘルシーなイメージがあるのに結構血糖値を上げてしまう──。そうした食べ物では、他に蕎麦(そば)が挙げられます。血糖値に問題がある人、糖質制限中の人は量を控えめにしていただきたいと思います。
秋は主菜にも副菜にもおいしいものが多いので、1回あたりの食べる量も増えがちです。私のクリニックでは、夏は清涼飲料水やアイスの摂り過ぎで、秋は食事量が増えることで血糖値に問題が起きる患者さんが少なくありません。
ただ、血糖値を気にして食べたいものを我慢するのはつらいもの。糖質面で注意したい食材をあれこれと挙げてきましたが、私は「だから食べてはいけない」と言うつもりはまったくありません。
問題は「摂る量」です。
大切なのは「食べない」ことではなく、どの食材が糖質が高いのかを知っておき、高ければ食べる量を少し抑えること。加えて、食べる時間帯にも意識を向けてみてください。
例えば、夜は1日の中でも食事量が多くなりがちです。そうした食事の後にデザートとして焼きイモや甘栗、柿、ブドウなどを食べれば、当然血糖値は上がります。その後、体を動かすようなこともせずすぐに寝てしまうと、摂った糖質が消費されないため、寝ている間中ずっと血糖値が高い状態が続くことになります。
夜間に血糖値が下がらない人は、夕食の糖質量が多いか夕食の時間が遅いことがほとんど。こうした状態が続くと、徐々に糖尿病に近づいていってしまいます。
■食べるタイミングを考え、食後の運動を心がけ
そんな事態を防ぐためには、糖質が高いものは朝か昼、または日中のおやつとして食べるといいでしょう。眠るまでに十分時間があるので、摂った糖質を消費できる可能性も高くなります。そして、できれば食後には軽い運動を。血糖値の上昇を抑える上では、食後30分以内に行うと効果的です。

私が推奨しているのは、毎食後5分間、1日に合計15分間ほど行うだけでいい「1%ストレッチ」。24時間は1440分なので、その1%ぐらいを運動に割きましょうということですね。やり方は簡単で、立つか座った状態で両腕をバンザイするように斜め上に伸ばしては戻す動作を5分間繰り返すだけ。
これに慣れてきてバリエーションを増やしたくなったら、大股でゆっくり歩く「1%ウォーキング」や、同じくゆっくり腰を落としたり立ち上がったりする「1%スクワット」、台に上ったり下りたりする「1%踏み台昇降」なども取り入れてみてはどうでしょうか。
■痩せていても筋肉がなければ血糖値は上がる
いずれも、血糖値の上昇を抑えると同時に筋肉も鍛えられるのが利点です。実は、血糖値は筋肉の量と質が落ちてきたときも上がりやすくなります。糖尿病は太っている人だけでなく痩(や)せている人も発症する病気ですが、後者は筋肉の質と量が原因の場合も少なくありません。ですから、こうした運動は、体型に関わらず多くの方に実践していただきたいですね。
秋に糖質を摂り過ぎると、その影響はおよそ2カ月後、つまり冬ごろに血糖値やヘモグロビンA1cの上昇という形で表れてきます。急激な上昇でない限り自覚症状はあまりないと思いますが、この秋はちょっと食べ過ぎたなと思う人は、2カ月後を目安に血糖値をチェックして、不安があれば医師に相談してください。
経験から言えば、健康な人も30代半ばになったら血糖値を意識し始めていただきたいですね。私のクリニックでは、振り返ればこのころから糖尿病の前兆が始まっていたなという患者さんが少なくありません。
特にデスクワークが中心の人は、筋肉の質と量が落ちやすく、血糖値が上がりやすい傾向にあります。
■居酒屋でハイボールvs.カフェで秋のスコーン
また、女性は食事を選ぶ際にカロリーを重視する人も多いですが、ついでに糖質にもぜひ着目を。その上で、フルーツだけ、メロンパンだけといった単品の食事にならないよう注意しましょう。
実は、男性が居酒屋でハイボールと枝豆と焼き鳥(塩)を注文するより、女性がカボチャやサツマイモのスイーツを食べる場合の方が糖質は高い。「今日のランチはカフェラテとパンプキンスコーンだけ」と、食事量を控えめにしたつもりでも、想像以上に糖質を摂っているのです。
繰り返しになりますが、それらは「食べてはいけない」のではなく、「食べ過ぎてはいけない」だけです。秋の味覚のうち糖質の高いものを食べる際は、量を控える、食後に体を動かすなど、工夫しながら楽しんでいただきたいと思います。

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矢野 宏行(やの・ひろゆき)

糖尿病専門医

やのメディカルクリニック勝どき院長。医学博士。1981年生まれ。2006年に日本医科大学卒業後、同大学附属病院に勤務。その後、国立国際医療研究センター研究所の糖尿病研究センターで糖尿病について研究をする。2023年、やのメディカルクリニック勝どきを開院。「Dr.ゆきなり」としてYouTubeでも情報発信をしている。著書に『ミスター血糖値が教える 7日間でひとりでに血糖値が下がるすごい方法』(アスコム)、『自分でできる! 薬に頼らない糖尿病の大正解』(ライフサイエンス出版)がある。

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(糖尿病専門医 矢野 宏行 取材・文=辻村洋子)
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