■対照的な理由で、投資を始めた2人
会社員のAさん、30歳。
これまで投資にはまったく興味がありませんでしたが、老後資金の不安にかられ、そして、金融機関からのNISAセールスに乗せられて、興味のないまま、半ば義務的に投資を始めました。
真面目なAさんは、投資を始めるにあたって本やセミナーで勉強をして、いわゆる「投資の王道」とされる長期分散投資を実践。そして投資実践後も、毎日1時間程度、まるで仕事のように、投資の勉強に費やしています。
そんな投資にかける時間的・労力的負担を重く感じ、また、資産の値動きにも精神的負担を感じるも、将来のためにやめるわけにはいかないと、頑張って続けています。その努力の甲斐もあって、1年間で10万円の利益を得ています。
一方、同じく会社員のBさん、30歳。
投資には興味を持ちつつも、仕事が忙しく、なかなか実践することができませんでしたが、最近、ようやく時間に余裕ができて、念願の投資を始めることができました。投資を実践する前から、投資雑誌等を読んでいたBさんは、以前から興味のあった個別銘柄を購入。
そして投資実践後も、以前から興味のあった会社なだけに、『会社四季報』や会社IRは随時チェックし、その事業内容や業績の推移をワクワクしながら見守っています。休日などは丸一日、そのような研究に没頭することもあり、こんな楽しいことを、これまでやってこなかったことを後悔しているくらいです。
しかし、その運用成果は振るわず、1年間で10万円の含み損が出ています。
■成功しているのはどちら?
さて、そんな対照的なAさんとBさんですが、投資で成功しているのは、いったいどちらでしょうか? 数字だけを見れば、もちろん、10万円の利益が出ているAさんですよね。しかしAさんは、投資に費やす時間・労力を非常に負担に感じ、さも仕事のように感じています。
もし、投資を仕事と捉えれば、Aさんは1日1時間、投資に時間を費やし、それで年間10万円の利益ですから、時給換算だと300円足らず(10万円÷365時間)です。だとすれば、これはまったく割に合わない仕事であり、あり得ない条件での労働を強いられていることになります。
また、その精神的な負担も考慮すれば、Aさんにとって、投資は苦行とも言えるでしょう。
一方で、Bさんは投資を非常に楽しんでいます。休日などは丸一日、銘柄研究に没頭することもあるくらいですから、Bさんにとって投資とは、完全に趣味(レジャー)と言っても良いでしょう。
■投資の損失がレジャー費になる⁉
ですので、その損失(含み損)は、レジャー費と捉えることができます。仮に、Aさんと同じく、投資に費やす時間を1日1時間(年間365時間)とすれば、その損失は1時間あたり300円足らずですから、今どき、こんなにお得なレジャーはないでしょう。
このように、投資成果を数字(損益)だけでなく、精神的な満足・充実度もあわせて考えれば、成功者(幸せな人)はもちろん、Bさんの方ですよね。
そして実際、このBさんの方を目指したいという人は多いかと思われます。
■犬の散歩は、仕事か? レジャーか?
この、物事を「どう捉えるか」の大切さは、投資だけに限りません。
たとえば、犬の散歩。
とくに犬に興味がない(むしろ嫌い)、そして運動が好きではない(むしろ嫌い)な人にとってみれば、犬の散歩は苦行そのもの。それを「やれ」と言われて強制的にやらされれば、まさに仕事です。
であれば、今どき時給1200円くらいもらわないと、とても割に合わないですよね。しかし、犬が好きな人や、運動が好きな人にとってみれば、犬の散歩は趣味・レジャーそのもの。
実際、動物と触れ合えるテーマパークなどでは、「ワンちゃん散歩」といったアクティビティもあって、1000円、2000円くらいの料金は取られるはずです。そして実際、それだけの料金を支払って、犬の散歩をする人もたくさんいますよね。
同じ物事でも、それをどう捉えるかによって、「お金をもらうべき仕事」なのか、それとも「お金を支払ってもよいレジャー」なのかが変わってくるわけです。
■宝くじは、愚か者に課された税金、なのか?
この「どう捉えるか」の視点は、宝くじでも、大いに有効です。ご存じの方も多いと思いますが、宝くじの還元率は50%未満です。
つまり、宝くじを投資(お金を増やす手段)と捉えれば、これはまったく割に合わない投資です。ましてや、一瞬で結果が分かってしまうドキドキ感を精神的負担に感じる人にとっては、非常にしんどい投資と言えるでしょう。
しかし、宝くじをレジャーと捉えれば、その期待値のマイナス分は、レジャー費として納得できるのではないでしょうか。とくに、高額当選へのワクワク感を相当得られる人にとっては、非常に満足できるレジャーとなるわけです。
実際、宝くじを買う多くの人は、(意識して、もしくは無意識に)レジャーと捉えているかと思われます。
世間では、「宝くじは、愚か者に課された税金」などと揶揄されることもありますが、それは、この「宝くじをどう捉えるか」の視点がゴッソリ抜けているわけですね。たしかに、投資と捉えれば「愚か者に課された税金」でしょうが、レジャーと捉えれば「手軽で満足できるレジャー」なのですから。
■楽しむことができれば、「勝ち」は確定
さて、世の中の投資本、投資セミナー(動画)などでも、前述の宝くじのように、「投資をどう捉えるか」との視点がゴッソリ抜けているものがほとんどです。しかし、投資においては、まずはそこをしっかり考えておきたいものです。
なぜなら、冒頭のAさんのように仕事と捉えるのか、それともBさんのように趣味(レジャー)と捉えるのかによって、まったく違ったものになるわけですから。そして、Bさんのように捉えることができれば、それはある意味、投資必勝法と言えるのかもしれません。
趣味やレジャーのように投資を楽しむことができるのなら、すなわち、ゴルフや釣りのように、知識を身に付け、腕を磨く過程を楽しむことができ、スポーツ観戦のように、先の見えない展開をワクワクしながら見守ることができるのであれば、たとえ投資で損失が出ても、それはレジャー費として納得できますよね。
であれば、気持ちのうえでは損失とは感じないわけですし、それどころか、十分な満足感を得られているはずです。
収支トントンなら、それは「タダで楽しめた」ことになりますし、少しでも利益が出たなら、それは「タダで楽しめたうえに、お金も入ってきた」わけですから、それはもう大満足でしょう。
つまり、投資を趣味やレジャーと捉え、心から楽しむことができれば、よほどの損失が出ない限り、(気持ちのうえでの)「勝ち」は確定しているとも言えるでしょう。
■投資を楽しめるか否かを判断するのは、自分自身
このように、「投資を楽しむ(趣味やレジャーとして捉える)こと」が投資必勝法だとすれば、気になるのは、「どうすれば、投資を楽しむことができるのか?」ですよね。
ただ、投資は楽しもうと思って楽しめるものではなく、「楽しめる人は(ナチュラルに)楽しめるし、楽しめない人は(努力しても)楽しめない」ものです。それは、ジェットコースターを楽しめる、お化け屋敷を楽しめる、との感覚に近いかもしれません。
つまり、投資を楽しめるか否か、つまり投資にワクワクするかしないかは、知識やテクニックでコントロールできるものではなく、その人の、元々の資質によるところが大きいわけです。
ジェットコースターが苦手な人に対して、ジェットコースターを楽しめ、と言っても無理がありますからね。
そして当然ながら、自分が投資を楽しめるか否かは、誰に聞いても教えてくれません(そもそも、分かるはずがない)。それは自分自身でしか、判断できないのですから。
■投資を楽しむために、まず、やってみること
投資を楽しめるか否か、それを自分自身で判断するにしても、実際に、投資をやってみないことには分かりません。
投資なんて嫌だと思っていたけど、実際にやってみたら面白くてハマった人もいます。
逆に、投資は面白そうだなと思っていたけど、実際にやってみたら面倒で、しかも資産変動にメンタルがしんどくなってしまった人もいます。
実際にやってみないことには、自分自身がどう感じるかは(自分自身でも)分かりません。なので、アレコレ考えるよりも、まずはやってみることが大切なのです。
なお、一言で投資といっても、実に様々な投資商品や手法があります。
そして、「投資信託は投資対象が漠然としていて面白みに欠けるけど、個別株投資はダイレクトに企業に投資できるので面白い」や、「積立投資は地味で面白くないが、スポット投資でタイミングを計るのは面白い」など、投資商品や手法によって、その感じ方は、人それぞれ。
■王道の投資にこだわらないほうがいい
ですので、(世間一般では「王道」とされる長期分散投資だけにこだわらずに)できるだけ多くの投資商品・手法を試すことで、自身が楽しいと思える投資商品・手法が見つかる可能性は高いでしょう。
そして、楽しいと思える投資商品・手法が1つでも見つかれば、その投資そのものを楽しむことを意識することで、高い満足度が得られる可能性は高く、それは、(少し大袈裟かもしれませんが)人生を豊かにしてくれるはずです。
また、投資を楽しいと感じることができれば、おのずと、知識の習得・情報の収集などに取り組むようになり、それは「投資力」の向上につながり、そして運用成果へのプラス効果も期待できるでしょう。かの孔子も、「楽しむものには勝てない」との格言を残しています。
■投資を楽しめない場合は、どうする?
ただ、残念ながら、実際にいろいろと投資をしてみても、どれもこれも楽しめない(ワクワクしない)人もいることでしょう。楽しめないどころか、投資にかける労力を苦痛に感じ、また、値動きがどうしても気になって、精神的にしんどいという人もいることでしょう。
そのような人は、無理に投資をする必要はありません。
実際、「投資はやるべきですか?」と相談されたときには、私は、「投資が負担に感じるのであれば、無理にしなくてもよいです」と答えています。
無理に投資をして、多少儲けたとしても、そのために費やした時間や労力、精神的な負担を考えれば、(冒頭のAさんのように)まったく割に合わないのですから。投資を楽しめない人は、よほど大きな利益を得ない限り、(気持ちの上での)「負け」は確定しているのですから。
とはいえ、その人のライフプランや収支状況を踏まえ、どうしても投資の必要性があると判断したときは、投資は「仕事」と割り切ってもらって、必要最低限の投資(基本的には、NISAでの投資信託積立などの長期分散投資)を、必要最低限の労力でやるように提案しています。
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藤原 久敏(ふじわら・ひさとし)
ファイナンシャルプランナー
1977年大阪府大阪狭山市生まれ。大阪市立大学文学部哲学科卒業後、尼崎信用金庫を経て、2001年に藤原ファイナンシャルプランナー事務所開設。現在は、主に資産運用に関する講演・執筆等を精力的にこなす。また、大阪経済法科大学経済学部非常勤講師としてファイナンシャルプランニング講座を担当する。著書に『株、投資信託、FX、仮想通貨… ファイナンシャルプランナーが20年投資を続けてみたらこうなった』(彩図社)など。
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(ファイナンシャルプランナー 藤原 久敏)