仕事の視野を広げるには読書が一番だ。書籍のハイライトを3000字で紹介するサービス「SERENDIP」から、プレジデントオンライン向けの特選記事を紹介しよう。
今回取り上げるのは立花義裕『異常気象の未来予測』(ポプラ新書)――。
■イントロダクション
日本ではここ数年、夏場には猛暑が続き、冬には豪雪が増えている。地球温暖化の影響との認識は広まっているが、こうした「異常気象」の原因を具体的に説明することは意外に難しい。
災害への感度を高めるためにも、なぜ異常気象が起きるのか、今後どうなっていくと考えられるのかを知っておくことは重要だろう。
本書は、地球温暖化が影響する異常気象の原因を、偏西風の蛇行を起点に解説する。
偏西風の蛇行は激しくなる傾向にあり、日本は、偏西風から切り離されて生じる「ブロッキング高気圧」の影響で猛暑が続く傾向にあるという。また、赤道付近から流れ込む速く熱い黒潮が「大蛇行」している影響で、日本付近の海面水温は世界でも突出して高くなっており、それが秋を短くする原因になっているようだ。また、北極海氷の激減も日本の気候に影響を与えているという。
著者は、三重大学大学院生物資源学研究科、地球環境学講座・気象・気候ダイナミクス研究室教授。北海道大学低温科学研究所、東海大学、ワシントン大学、海洋研究開発機構等を経て、現職。日本気象学会理事、日本雪氷学会理事。
1.日本に集中する異常気象

2.なぜ日本に猛暑が来るのか

3.地球温暖化による世界全体の水温上昇

4.なぜ温暖化で豪雨が増えるのか

5.温暖化が日本にもたらす冬の異常気象

6.異常気象で私たちの生活はどのように変化するのか

異常気象 Q&A

■日本、ヨーロッパ、北米で猛暑が頻発する背景
地球温暖化の影響による異常気象は、特定地域を狙い撃ちします。
この狙われた国が日本なのです。その理由は大きく分けて二つ、大気と海洋の異常です。
7月の北日本の気温の平年からの差を示したものを見ると、2021年以降が連続して暑いことがわかります。猛暑が続く大きな要因は、日本を含めた中緯度上空に吹く「偏西風」の蛇行にあります。偏西風は寒気と暖気の境目に吹いていて、北には寒気、南には暖気があります。
近年、偏西風が(*通常の蛇行に比べて)激しく蛇行する傾向があり、北に出っ張ったところにちょうど日本が位置しています。そこに高気圧が留まることで日本は暑くなっているのです。日本だけではなく、ヨーロッパと北米で北に出っ張って蛇行しています。そのため、ヨーロッパや北米でも猛暑が頻発しているのです。
■日本上空にとどまる「熱いブロッキング高気圧」
偏西風は、南北の蛇行が日々激しさを増して、蛇行の先端がちぎれることも。ちぎれたモノが、偏西風から切り離され、単独で渦を巻くこともあります。凸型の蛇行の先端が北でちぎれると、渦巻きの向きは時計回りとなり、これが高気圧性の渦となるのです。
「ブロッキング高気圧」と呼びます。逆に凹型の蛇行の南でちぎれれば、反時計回りの渦が孤立。これは寒気の履歴を引きずる冷たい低気圧の渦で、「寒冷渦」と呼びます。
これらの渦は偏西風から切り離されることから、ほとんど動きません。従って、ある場所の上空に延々と寒冷渦が留まったり、熱いブロッキング高気圧が居座ったりします。ブロッキング高気圧や寒冷渦が発生すると、ほぼ例外なく異常な気象現象が長時間継続します。ブロッキング高気圧は干ばつや猛暑、寒冷渦は激しい雨や、雷雨の原因になります。冬であれば、寒気や豪雪が延々と続きます。
近年の日本の猛暑は、ブロッキング高気圧が延々と日本付近に留まった事例が多いです。2024年秋のスペインでの豪雨は、激しい蛇行から切り離された寒冷渦が、スペインの上空で延々と留まったことが一因です。2025年冬のロサンゼルスにまで及んだ山火事も、蛇行する偏西風から切り離された寒冷渦がロサンゼルスの南方に位置し、その低気圧に向かう強風が気象要因の一つでした。
■2023年以降の日本の海面水温は「ダントツに異常」
温暖化で世界中の海面水温が急上昇しています。
水温は一旦上がると下がりにくくなります。猛暑で上がった日本周辺の海面水温は、日射しが秋めいてきても下がりません。
実は日本の四方を囲んでいる海に熱を貯金できていることで、夏の気温は40度程度で留まっています。海へ貯金できていなければ、日本の夏も大陸の猛暑のように50度の世界になってしまうでしょう。50度の世界を防いでくれている一方で、熱い海が日本の秋を消しているという板挟み状態が生まれています。
しかも2023年以降の日本付近の海面水温は、世界の中でもダントツに異常です。世界全体では、0.6度程度の海面水温の上昇ですが、日本周辺では時と場所によっては、平年水温より10度も高い海域も。
日本の太平洋側には、赤道付近からの暖かい黒潮が流れています。流れが速く、熱帯地域の熱を運んでくるので、黒潮流路上の海面温度は高くなっています。黒潮の流れの速さは、世界の海流の中で1番か2番で、その速さは秒速2メートル。これは水泳の自由形200メートルの世界記録保持者より速いです。
その黒潮の流れも近年、異常をきたしています。
紀伊半島沖から東に抜けるはずが、一旦南に蛇行してから北上し、伊豆半島のあたりへ。黒潮が日本の南で蛇行する現象を「黒潮大蛇行」と呼び、7年以上続いているのです。
■熱帯の海の影響を世界一受けるのは日本
2023年以降は黒潮大蛇行に拍車がかかっています。伊豆半島のあたりへ向かった黒潮は、千葉県を北に回って岩手県から北海道のすぐ南あたりまで北上。岩手県や北海道南岸まで黒潮が北上するような異常海流は、近代観測が始まって以来のことです。2年以上もこの状態が続いていて、その影響で、東北や北海道周辺の海面水温は平年よりも5度以上高くなっています。東北地方周辺の海が屋久島周辺の海と同じくらいの温度となったことに相当します。
なぜ黒潮がこれほど北上したのかと言えば、偏西風が北に蛇行し、それにつられて黒潮も北に曲がったからです。海流もその上を吹く風に引っ張られて、流されてしまうのです。黒潮から分かれて流れる対馬暖流が流入する日本海の水温も異常に高温なので、猛暑と残暑が厳しくなっています。涼しいはずの北海道も記録的猛暑となる理由の一つです。
海流が輸送する熱の量は、流速や流量が大きいほど多く、水温が高いほど大きくなります。
熱帯の太平洋の水温は、西部ほど高温です。ほかの海流とは異なり、黒潮は速い、熱いの両方を兼ね備えているので、熱帯の熱を世界で一番大量に中緯度に運んでいます。そして、黒潮が運ぶ熱流がぶつかる場所、それが日本列島の南岸です。
黒潮の源流部は、西部熱帯太平洋。フィリピンやインドネシア付近です。このあたりの海面水温の高さは世界一で、その高温の水がハイスピードで日本にやってきています。日本の気候が熱帯の海の影響を世界で一番強く受けるのは宿命なのです。
■寒暖の変化が非常に激しい冬になっている
なぜ温暖化でも、冬になると寒波や豪雪が起こるのでしょうか。例えば、2024年から2025年にかけての冬期は、青森県津軽地方や北海道の岩見沢で、12月としては観測史上最深となる積雪記録を更新しました。
日本を含む北東アジアを始め、北米など北半球中緯度各地では、近年、強い寒波が襲来しています。一方で、温暖化によって冬期平均気温は高くなり、暖冬傾向にあるのも事実です。つまり、寒暖の変化が非常に激しい冬になっているのです。

偏西風は冬でも激しく蛇行しています。ただし、その蛇行パターンは夏とは反対の動きになっています。近年の冬は、日本付近と北米で、偏西風が南へ垂れ下がる傾向に。この蛇行が激しさを増し、北極の寒気が二つに分裂、北極の外へ移動するようになりました。その影響で、北極全体の寒気は弱まり、分裂した寒気のうちの一つが日本周辺まで大移動するようになったのです。
寒気は暖水を好む性質があるため、移動先は暖かい海であることが多いです。北極の寒気が好む、暖かい海に囲まれた日本は、北極の寒気と暖水が出会う場所になってしまったのです。
■偏西風蛇行の一因は「北極海氷の激減」
このような激しい偏西風蛇行が起きる一因となっているのが、北極海氷の激減。沖の北極海の海氷は2017年以降、急激に減少し、海氷に穴が空いたような状態が継続しています。穴のサイズは直径約1000キロメートル。そして、その穴は年々拡大しています。
穴では暖かい水面が大気に接することで大量の熱が大気に供給され、北極の上空の気温が上昇します。暖かくなった海を避けるように、偏西風は迂回して北極点近くまで侵入、その反動で北極の寒気を東西に引き裂いて、偏西風の南北への蛇行をもたらしています。アラスカでは、偏西風が北に激しく蛇行し、中緯度の暖かい湿った気流が北極へ移動しています。その反動で、アジア・北米では、偏西風が激しく南へ蛇行し、寒気が中緯度へと移動するのです。
■夏は40度超えが当たり前、ノロノロ台風が襲来…
将来考えられる季節変化を、列記します。
・サクラの開花の早期化

・梅雨入り前から猛暑

・北海道にも梅雨が来る

・日本に冷夏は来ない

・夏は40度超えが当たり前

・夏でも梅雨のような豪雨

・ゲリラ雷雨が増える

・ノロノロとした台風や強烈な台風が襲来

・厳しい残暑のまま10月でも暑い

・紅葉の遅延

・ときどき来る大寒波で、短時間にドカ雪と豪雪
このような季節変化が一般的にならないようにするためには、温室効果ガスの削減が急務です。ただし、削減できたとしても、すぐには元の気候には戻らないため、二酸化炭素を削減しつつ、気候変化に適応していくことがなにより大切なのです。
※「*」がついた注および補足はダイジェスト作成者によるもの
■コメントby SERENDIP
東京都心部の猛暑や、東北地方の豪雨といったローカルな異常気象は、元をたどれば北極海の氷の穴や、フィリピン近海の高水温の影響、偏西風の激しい蛇行といったグローバルな気候変動の影響を受けており、さらにその背景に温室効果ガスの増加があると言われている。組織におけるトラブルもまた、表層的な現象にとどまらず、背景により深い構造的な問題が潜んでいる場合もあるだろう。目に見える問題の根本に、見えにくい大きな問題が潜んでいるという点で、気象と組織には似た点があるのかもしれない。

----------

書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」
ビジネスから教養まで、厳選した書籍のハイライトを10分程度で読めるダイジェストにして配信する書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」。国内の書籍だけではなく、まだ日本で翻訳出版されていない、海外で話題の書籍も毎週日本語のダイジェストにして配信。(毎週、国内書籍3本、海外書籍1本)上場企業のエグゼクティブなどビジネスリーダーが視野を広げるツールとして利用しています。

----------

(書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」)
編集部おすすめ