仕事や暮らしのあらゆる領域にAIが浸透する中で、「人間の存在価値はどこにあるのか」という問いが、これまでになく突きつけられている。感動プロデューサーの平野秀典氏は「あるヤクルトレディが顧客からもらった感動体験に、そのヒントがある」という――。

■AI時代に必要な「7つのシン」とは
これまで2回にわたり、AI時代を生き抜くための処方箋として「感動力」や「自然知能」という概念を紹介してきました。
最終回となる今回は、その自然知能を体系化した「7つのシン」に触れながら、人間とAIが共演する未来の可能性を考えていきます。
10月1日に発売された新刊『シン・感動力』では、AIと人間の関係を考える中で「自然知能」を7つの切り口(7つのシン)に整理しました。
頭文字の「シン」には、「新」「真」「深」「信」「神」「心」「清」という7つの意味を込めています。
これらは一見すると抽象的に思えますが、日常のあらゆる場面で発揮される実践的な自然知能を表しています。
7つのシンすべての中核となるのが、「感動力」です。
感動とは、相手の期待を少しでも超えた瞬間に生まれます。
・営業の現場では「想像以上の提案」に

・教育の場では「予想を超える学び」に

・組織の現場では「期待を超える信頼関係」に
感動は人を動かし、組織を動かし、社会を動かす原動力になります。
AIが合理的に導いた「正解」だけでは動かない人の心を、動かすことができます。
■AIは強力な伴奏者
AIと人間を「競争」の関係で捉えると、人間は劣勢に立たされます。
しかし「共演」として捉えたとき、AIは強力な伴奏者になります。
AIが膨大なデータを分析し、人間は「深」の知能でそこに意味を与える。

AIが最適解を提示し、人間は「信」の知能で人と人をつなぐ。
AIが仮想世界を描き、人間は「心」の知能で共感と物語を紡ぐ。
そして、そのすべての共演を束ねるのが「感動力」です。
感動力を自然知能のエースとして発揮することで、AIと人間は対立ではなく共創の未来を描けるのです。
■ヤクルトレディが教えてくれる“感動の共演”
AIと共に働く時、私たちが絶対に忘れてはならない問いがあります。
「それは人を感動させられるのか?」
効率や正確さだけでなく、心を動かす力こそが、共演の鍵です。
ヤクルトレディは、ただ商品を届けるだけではなく、地域の「見守り手」として毎日を過ごしています。
*岡山ヤクルト販売のヤクルトレディの体験談
「暑い中いつもありがとう」と笑顔で迎えてくれるお客様。
最初はチャリティー活動で訪問し協力を頂いた方が、今では毎週Yakult1000を飲み続けてくださっています。
訪問の度にお客様は料理のコツや家事のアドバイスを教えてくれる先輩ママさん。
ある日、梅ジュースを作って「飲んでいき~」とおもてなしされました。
実はお客様は、訪問時間に合わせて冷蔵庫でグラスを冷やし、白桃スムージーの色が変わらない最も美味しいタイミングで出してくれていたのです。

冬には暖かいコーヒーや手作りお菓子も用意され、すべて訪問時間を計算してのことでした。
■ヤクルトの原点が人を動かす
ヤクルトレディはこう語ります。
「私は健康を届ける仕事をしていますが、逆にお客様からどれだけ心を元気にしてもらっているのだろうと感激しました。
他にもたくさんの方に元気をもらい、心の健康をいただいています。
相手のことを想い、優しい気持ちで丁寧に接することが、身体と心の健康につながっていくと信じています」
ヤクルトの生みの親である代田稔博士は、戦後の混乱期に「人々の健康を守りたい」という一心で乳酸菌研究に人生を捧げました。博士の願いは、ただ病気を治すことではありません。病気になる前に予防し、誰もが笑顔で暮らせる社会をつくることでした。
この「人の幸せを願う心」こそがヤクルトの原点であり、時代を越えて受け継がれているDNAです。単なる商品やサービスを超えて、人の心を動かし、生活を支える。その背景には、まさにAIには代替できない“感動力”が息づいています。
■ドラマをつくるのは人間
結局のところ、AIは人を感動させるために生まれてきたわけではありません。
AIはあくまでツールであり、伴奏者。

未来のドラマを紡ぐのは、自然知能を持つ人間の役割です。
「7つのシン」という知能を磨き、特に感動力を発揮していくこと。
それが、AI時代をただ生き延びるのではなく、自ら未来を演出するための最大の鍵となるのです。

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平野 秀典(ひらの・ひでのり)

感動プロデューサー®/講演家/作家/俳優

一部上場企業でのビジネスマンとしてのキャリアと、20年にわたり「演劇」の舞台俳優として活躍した異色の経歴を持つ感動のスペシャリスト。ビジネスと演劇の融合から生まれた独自の「感動創造メソッド」を確立し、企業の業績向上や組織変革に劇的な成果をもたらしてきた実績を持つ。サントリーホールや紀伊國屋ホールといった一流会場でのビジネスセミナー開催や、現在も主演舞台に立つ俳優としての活動を通じて、感動力の新たな可能性を切り拓き続けている。

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(感動プロデューサー®/講演家/作家/俳優 平野 秀典)
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