糖尿病は生活習慣病の代表といえる病気だ。糖尿病専門医であり、昭和医科大学医学部の山岸昌一教授は「運動習慣なし、糖質の多い食生活を続けると、糖尿病リスクを高めることはもちろん、心臓病や骨粗しょう症など、さまざまな病気や不調につながる」という――。

■予備軍をあわせて2000万人にのぼる国民病
遺伝的な要因に加え、暴飲暴食や運動不足、肥満などによって起こる糖尿病。乱れた生活習慣が長年にわたって続くと、働き盛りの今は健康上に問題がなくても、シニアになったときに糖尿病を発症するリスクが高まります。人生をおう歌するはずのリタイア後に、食事制限や治療をしなければならない……。そんな将来になる可能性もあり得ます。
過去に行われた「国民健康・栄養調査」によると、糖尿病が強く疑われる者(糖尿病有病者)、糖尿病の可能性を否定できない者(糖尿病予備群)は、いずれも約1000万人と推計されると報告されています(平成28年「国民健康・栄養調査」)。
糖尿病が強く疑われる者の割合は、男性16.8%、女性8.9%(令和5年 国民健康・栄養調査結果の概要)。この10年間でみると、有意な増減はみられずほぼ横ばいとなっていますが、それでも予備軍を合わせると2000万人にものぼる、現代の代表的な生活習慣病です。
■運動不足、ストレス過多な生活は血糖値を下げにくくする
糖尿病は、血液中のブドウ糖の濃度が高くなり、慢性的に高血糖になる病気です。私たちの血液中に流れるブドウ糖の濃度は、すい臓から分泌されるホルモンのインスリンによって、一定に保たれています。食事をとると血糖値は上がりますが、インスリンの働きで血糖値が下がり正常に戻るというわけです。
しかし、乱れた食事や生活でインスリンが効きにくくなると、血糖値が常に上昇して、下がりにくい体に。そんな糖尿病のリスクを高める要因として、まず食事が挙げられます。

糖質やカロリーの高い食事は、血糖値を上昇させ、肥満を招きます。毎食、毎日、同じような食生活を続けていれば、いずれ糖尿病になるのは時間の問題です。
夜に暴飲暴食をすると、睡眠の質が低下するという報告があります。また、夜の時間帯は、糖が脂肪にかわりやすく、内臓脂肪が蓄積する原因に。内臓脂肪が増えるとインスリンの働きも低下し、ますます血糖値のコントロールが難しくなります。
次に、運動不足です。デスクワーク中心の社会では、座りっぱなしの時間が長く、体を動かす時間が極端に少ない人がたくさんいます。実は筋肉は、糖を取り込み消費する重要な役割を担っています。そのため運動が不足すると、筋肉量が減少。糖が消費されずに余ってしまい、血糖値が上がりやすくなっていきます。
三つ目に挙げられるのがストレスです。時間に追われて生活する現代、多くの人が何かしらのストレスを抱えながら働いているでしょう。
ストレスが多く、プレッシャーがかかる場面が増えると、交感神経が優位になります。すると、副腎から「コルチゾール」というストレスホルモンが分泌。コルチゾールはインスリンの効き目を低下させます。
さらに、糖尿病は年齢が上がるにつれて増えるのが特徴。女性は、女性ホルモンの減少によって糖を代謝しにくくなり、男性も女性も加齢によってすい臓の働きが徐々に衰え、インスリンを分泌する力が弱くなってきます。
■「AGE」は老化を加速させる
血糖値のコントロールは、全身の老化に関係しています。糖代謝がうまくいかずに血液中に糖が増えると、体内のたんぱく質と結びつき、「AGE(エージーイー)」という老化物質がつくられます。この現象を「糖化(とうか)」と呼びます。
糖化が起こると、血管から骨、肌まで、全身のありとあらゆる臓器が老化。機能が徐々に低下し、例えば疲れやすくなる、妊娠しにくくなる、骨がもろくなって閉経後に骨粗しょう症になるなど、不調や病気のリスクに。更年期障害や歯周病にも関係しています。
また、血管へのダメージが蓄積して動脈硬化が起こり、脳梗塞などの脳血管障害、心筋梗塞などの心血管疾患につながる可能性も高くなります。
美容面では、シミやくすみ、たるみが進行し、髪にもハリやコシがなくなるなど、年齢よりも老けて見える要因に。
さらに、AGEが高い人は、うつ病や不安神経症を発症しやすいことがわかっています。AGEが脳の食欲や活動を司る部位に慢性炎症を起こす可能性が指摘されています。
このように、高血糖によって起こる老化物質・AGEの増加は、心身ともにさまざまな病気の芽となってしまうのです。
■ちょっとした運動の積み重ねが糖尿病予防に
将来の糖尿病を防げるかどうかは、自身の生活習慣次第です。年をとって病気になってから生活習慣を正そうと思っても、長年続けてきた習慣はなかなかすぐに変えることはできません。だからこそ、30代から50代のうちに生活を見直すことが大切。
糖尿病を予防するために始めたいのが、日常の中でちょこまかと体を動かす習慣です。オーストラリアの研究で、1~2分ほどの激しい身体活動を1日2~3回行うだけで、約3%死亡リスクが下がることがわかりました(Nature Medicine 2022;28:2484-2485)。例えば、「バスが見えたからバス停まで小走りする」「お昼休みが終わりそうだから駆け足でオフィスに戻る」など、ほんの短い時間の運動でOK。
特に食後は血糖値が上がります。ランチを食べたあとに数分歩くなど、体を動かして食後血糖値を抑えましょう。
自宅でも、夕飯を食べてゴロゴロしていては高血糖に。横にならずに動くことを心がけましょう。
週1回、2時間ほど、好きなスポーツをする、子どもと思いっきり遊ぶなど、いわゆる「週末戦士」と呼ばれる運動習慣でも、心臓病やがんの予防効果が期待できます。
食事で気を付けたいのが、糖質の摂取量です。炭水化物や甘い物を過剰にとりすぎず、1日3食、バランスよく食べること。炭水化物は、例えば玄米や全粒粉パンなど、食物繊維を多く含んだものを選びましょう。食事の中で食物繊維をたくさんとることで、糖質の吸収がゆるやかになります。
夜遅くに食べ過ぎず、できるだけ早い時間に食べて睡眠の質をキープすることも、血糖値の安定、糖尿病予防になります。
現役世代のみなさんにとって、運動の時間を捻出するのは難しいと思います。日常生活の中で、体を動かせるチャンスを見つけてみてください。まずは食事と運動、どちらからでも良いので、今の生活に一つ、小さな健康習慣をプラスしてみることから始めましょう。

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山岸 昌一(やまぎし・しょういち)

内科医・医学博士

昭和医科大学医学部教授。
「AGE」に関する研究でアメリカ心臓病協会最優秀賞、日本糖尿病学会賞、日本抗加齢医学界賞を受賞。著書多数。

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(内科医・医学博士 山岸 昌一 構成・文=釼持陽子)
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