■株を選ぶときに「高配当」を基準に選んでいいのか
個人投資家に人気なのが高配当株(配当利回りの高い株式銘柄)への投資。「株価下落のリスクが小さく、安定収入を見込める」と言われますが、本当にそうでしょうか。最近の企業の配当政策を確認し、高配当株投資の問題点と個人投資家に相応しい投資スタイルについて考えてみましょう。
高配当株投資をしている投資家にとって気になるのが、企業の配当政策(配当方針)ではないでしょうか。ここ1~2年、DOEの目標を掲げる上場企業が増えており、ちょっとしたブームとなっています。DOE(Dividend On Equity、株主資本配当率)の計算式は次の通りです。
DOE(株主資本配当率)=配当金総額÷株主資本×100
株主の持ち分である株主資本に対して、配当をどのくらいの割合で支払ったかを示す指標です。
DOEがブームになる前、多くの日本企業が配当性向の目標を掲げていました。現在でもそれをもとにどの程度、株主還元するかを決める企業も多いです。配当性向の計算式は次の通りです。
配当性向=1株あたりの配当額÷1株あたりの当期純利益×100
こちらは、その年の当期純利益から配当金をどれくらいの割合で支払うかを示す指標です。
当期純利益が毎年大きく変動するのに対し、株主資本は過去からの蓄積なので増資などをしなければそんなに大きく増減しません。したがって、DOEでは配当性向よりも毎年の配当額が安定します。
■「高配当株=株主価値が高い」ではない
つまり、DOEの目標を掲げる企業は、安定配当を目指していることを意味します。実際に株主総会や経済誌のインタビューなどで、多くの経営者が「当社は安定配当で株主に報いていく方針です」と表明しています。
この安定配当をさらに一歩進めた、累進配当を表明する企業も増えています。累進配当とは、企業が配当額を毎年増やすか、増やさなくとも減らさずに維持し続ける(=安定的に増やす)という配当政策です。
多くの日本企業が当たり前のように志向している安定配当・高配当ですが、ここに大きな問題があります。
まず理論から説明すると、経済学者のF.モディリアーニとM.ミラーは、税金や取引コストが存在しない完全市場では、配当政策は株主価値に無関係であることを示しました。これは「MM命題」と言われ、ノーベル経済学賞を受賞しています。
企業は株主のものなので、企業が生み出した当期純利益は、すべて株主のものです。仮に企業が100億円の当期純利益を計上し、すべて配当したら、株主の銀行口座に100億円が振り込まれます。
つまり、当期純利益を配当金として還元しようが社内に内部留保にしようが、当期純利益の置き場所と配当を支払う時期が違うだけで、株主にとっては損も得もありません。理論的には、配当政策は「どうでもいい」わけです。
■機関投資家の取引からわかる配当の合理性
では、税金や取引コストが存在する現実の世界ではどうでしょうか。
個人投資家は、配当金による株主還元を大歓迎し、とくに高齢者は「年金の足しにしたい。利益が出たらすぐ配当金を払って欲しい」ということで、高配当株を好みます。
一方、巨額の資金を運用する機関投資家は、配当金を受け取ると頭を抱えます。配当金が銀行や証券口座に入金されたら、そのまま遊ばせておくわけにはいきません。そのため機関投資家は、次の投資先を探す必要があります。
日本の税制では、配当金に20.315%の税率で所得税が課されます。もし現在の投資先が成長していて株価上昇を見込めるなら、所得税を差し引かれて受け取った配当を次の投資先を探して投資したり、現在の投資先に再投資したりするよりも、配当せず株価上昇を享受する方が合理的です。
逆に、投資先がライフサイクルの成熟期にあり、衰退期に向かうなら、株価下落が懸念されます。機関投資家にとっては株価が下落する前に配当金を受け取って、別の成長企業に投資する方が合理的なのです。
■成長している企業の特徴
つまり、税金や取引コストが存在する現実の世界では、「成長企業は配当金を出すべきではない、成熟・衰退企業は配当金を増やすべき」という結論になります。安定配当や闇雲な高配当は間違っており、企業の将来性を勘案して配当金を増減させるというのが正解です。
「そんな馬鹿な」と思うかもしれませんが、以上は筆者が勝手に考えたことではなく、標準的なファイナンスの教科書に書かれていることです。
そもそも「成長企業」とは何でしょうか。一般的に売上高が伸びている企業のことを言いますが、その売上高の伸び率の標準値など確たる定義はありません。ただ、ゼロ成長の日本経済では年10%以上伸びていれば成長企業と言えるでしょう。
成長企業の特徴として、将来の成長期待を現在の株価に織り込むため、PER(株価収益率)が高くなる傾向にあります。PERとは利益に比べて株価が割高なのか割安なのかを判断するもので、数値が高いほど割高、低いほど割安だと判断されます。
日経平均株価のPERは過去13~17倍の範囲で推移しており、現在は18倍です。これが成長企業となると30倍や50倍となっていき、そういった企業は配当金を出さない方が得策です。
■マイクロソフトも成長期は無配を続けていた
実際にアメリカのマイクロソフトは、急成長していた1975年の創業から38年間は無配を続けていましたが、2000年頃に成長が停滞し始め、2003年から配当金を出しています。日本企業も、高度成長期の頃は多くの企業が事業拡大などに資金を投じるため、配当よりも成長資金に回す企業が多かったのです。
大きな設備投資や事業拡大が見込めない衰退期では、配当金を増やす傾向にあります。これは現在の日本経済とも符合しているのです。
つまり、DOEといった新しい目標を掲げると、「最先端の経営トレンドを取り入れる優れた経営者」と思いがちですが、「DOE」「累進配当」「安定配当」などと高らかに謳う経営者は、ファイナンスの基本を勉強していないと言えます。
以上を踏まえて、個人投資家は高配当株投資とどう向き合うべきでしょうか。ここからは筆者の見解です。
成熟期にある企業や衰退している企業には、株価下落のリスクがあります。高配当株といっても利回りはせいぜい年4~5%です。一方、株価が下がるときには、一気に数十パーセント下がったり、最悪の場合ゼロになったりします。「高配当だから」と衰退企業に投資するのは、リスクが大きすぎます。
■個人投資家の正しい投資方法とは
ならば「成長企業で高配当の銘柄に投資すればよいではないか」という考えがあるかもしれません。たしかに成長期の企業なら株価下落のリスクは限られます。ただ、内部留保しその資金で成長投資をしていれば、もっと株価が上昇したはずです。高配当で成長機会を逸している“エセ成長企業”よりも、低配当の“真の成長企業”に投資する方が合理的なのです。
このように、衰退企業でも成長企業でも、高配当株に投資するというのは合理的ではありません。高配当株投資で成功するには、衰退企業の中から株価下落のリスクが小さい銘柄を見つけ出す高度な分析力が必要です。個人投資家にはハードルが高く、高配当株投資を避ける方が賢明です。
高配当株投資をしないなら、個人投資家はどのような投資をするべきでしょうか。これは、年齢と目的によって方針は異なります。
個人投資家が若く(50歳未満)、長い期間がかかっても着実に財産を増やしたいと考えているとします。
個別株の値動きは不規則で、短期的に上がるか下がるかは熟練のプロでもわかりません。ただ、長期的に経済は成長するので、市場に連動するインデックス型投資信託の基準価格は長期的に上がっていきます。
いつ上がるかもわからないので、一時にまとめて買うのは危険です。毎月5万円とか積立投資を続けるのが賢明です。ということで、若い個人投資家にはインデックス投信への積立投資がお勧めです。
■シニア世代はどこに投資すべきか
一方、悩ましいのがシニア世代の投資方針です。よくシニアの個人投資家は、「今さら大儲けしたいわけではないから、株価下落のリスクを抑えて、安定的に配当金をもらえれば十分」と言います。
たしかに、昔の電力業界のような規制業種への投資なら、株価下落のリスクがあまりなく安定した配当収入を得ることができました。しかし、今日の競争的な事業環境では、そういった旨みがある銘柄は皆無でしょう。
株式投資には株価下落のリスクがつきものです。「大儲けしたいわけではない」「安定的に配当金をもらえれば十分」というと謙虚な印象を受けますが、実はかなり高望みをしていると言えます。
個人投資家がリスクを避けて安定収入を得たいというなら、株式投資からは距離を置くのが賢明です。それより、元本・利息が保証されている債券、とくに民間企業が発行する社債への投資に注力するのはどうでしょう。
かつて社債は、最低投資単位が1億円と大きく、資金力のある機関投資家しか投資できませんでした。しかし、近年、いくつかの企業が最低100万円で投資できる小口の個人向け社債を発行するようになり、社債投資が個人投資家にも身近になっています。
例えば、ソフトバンクグループが今年4月に発行した個人向け社債は、5年債で利回りが年3.34%でした。倒産すれば元本は保証されないが、満期まで保有していれば金額が返還される利回り3.34%の社債と、株価下落・減配のリスクがある利回り4~5%の高配当株。リスクを回避したいというシニア世代の個人投資家にとって、前者が魅力的だと言えるでしょう。
※編集部註:初出時、ソフトバンクグループが発行する個人向け社債について「元本・利息が保証されている利回り3.34%の社債」と記載していましたが、正確な表現ではなかったのでなかったため、「倒産すれば元本は保証されないが、満期まで保有していれば金額が返還される利回り3.34%の社債」と訂正しています。(10月20日15:58追記)
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日沖 健(ひおき・たけし)
経営コンサルタント
日沖コンサルティング事務所代表。1965年、愛知県生まれ。慶應義塾大学商学部卒業。日本石油(現・ENEOS)で社長室、財務部、シンガポール現地法人、IR室などに勤務し、2002年より現職。著書に『変革するマネジメント』(千倉書房)、『歴史でわかるリーダーの器』(産業能率大学出版部)など多数。
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(経営コンサルタント 日沖 健)

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