■父親のため息「いくつまで働けばいいのでしょうか?」
「私は、いったいいくつまで働けばいいのでしょうか?」
相談に来たのは父親(63)でした。相談者には子どもが2人います。長男(35)は学校卒業後に就職し、そのまま仕事を続けています。今では結婚後に自宅を購入して、少し離れた場所に住んでいます。孫も2人います。
一方、次男(32)は現在仕事をせずに親に養われています。部屋から一歩も出られないというわけではなく、買い物には出かけます。ただ、仕事ができないのです。本人も何とかしなければと思っているようですが、焦るばかりで、どうしてよいかわからず、「自分に合う仕事が見つからない」と言っているそうです。
次男は、高校を卒業すると、地元のメーカーに就職しました。今後成長が期待できる業種ではありませんが、安定した企業で、両親は安心したものです。
思い切って転職をすることにして、給料が魅力的な不動産業に就職しました。すると、一転して厳しい生活が待っていました。ノルマに追われて、休日も返上して営業に奔走しなければなりません。ぬるま湯のような前職が懐かしく、転職したことを後悔ばかりします。結局その仕事も長くは続かず、1年もしないうちに退職してしまいました。
次男は再び転職活動を始めましたが、3年で2回も自己都合退職をしていると、色眼鏡で見られてしまい、なかなかうまくいきません。条件の良さそうな企業では不採用が続き、誰でも採用してくれそうな企業には魅力を感じません。2回の就職の失敗が、どうしても次男を慎重にさせてしまいます。「またひどい職場だったら……」と思うと、積極的に応募をすることがためらわれます。
その間、アルバイトをすることもありましたが、バイトをすると時間を取られて、就職活動がままなりません。親元で暮らしていましたので、毎日の衣食住に困ることはありません。バイトを辞めたものの、就職活動にも積極的になれずに、やがて無職の期間が長引いてしまいました。
その間、父親は早く就職するように、何度も厳しく叱責しましたが、就職を決めるのは本人です。なんとか早く就職を決めてもらいたいと思いながら、月日が流れ、次男は30代を迎えていました。
「ほとんど職歴がない無職の30代なんて就職先はありませんよね。私が採用担当者だったとしても採りませんから」
父親は最近では、次男の就職については諦めているようです。
「次男はもうこのまま仕事をしない状況が続きそうです。そうなると、私が働いて収入を得ていかなければなりませんね」
「しかし、今のお勤め先で働けるのは65歳まで、あと2年ぐらいではないでしょうか」
「そうです。まあ、その後は高齢者向けの仕事を探して、何とか収入を得なければなりません。そこで、私は何歳まで働けばよいのか、調べてもらえませんでしょうか?」
■「あと何年働けばいいか?」シミュレーションで出た答えは…
家族のために数十年間まじめに働いてきた父親は、今後もさらに収入を得ることが必要な情勢で、私のもとを訪ねてきたとのことです。私は現在の収入・支出、貯蓄などを基にシミュレーションを作成しました。
◆相談者の家族構成
父親:直樹さん(仮名)63歳(会社員)当事者の父親
母親:真由美さん(仮名)60歳(パート勤務)
長男:35歳(結婚して、別所帯)
次男:拓也さん(仮名)32歳(無職)※当事者
◆資産
・貯蓄額:約2000万円
・自宅は持ち家(戸建て)
◆収入
父親の給与収入(手取り額):概算350万円/年
母親の給与収入(手取り額):概算100万円/年
◆支出
生活費:年額約250万円
シミュレーションの設定条件は下記の通りです。
・父親は84歳、母親は89歳で他界し、本人85歳までの53年間をシミュレーション。
・父親の現在の給与手取り額は350万円で、2年後の65歳からは別の仕事で給与120万円(+年金250万円)で、73歳まで働く。母親の現在の給与手取り額は100万円(65歳から年金も)で、そのまま70歳まで働く。
・年金手取り額は父親が250万円、母親は150万円で、65歳から受給。本人は65歳から基礎年金を満額で受給。
・現在の生活費は年250万円。父親が亡くなった時点で3割減、母親が亡くなった時点で4割減とした。
・各費目の上昇率は、収入は年1.5%、生活費は年2.0%、住居費は年1.0%。預貯金の利率は考慮していない。
両親が65歳からの年金収入に加え、70代までせっせと働き続けたことで、家計の貯蓄は現在の2000万円から3倍近くの5590万円まで増えました。29年後に母親が亡くなった後は、遺産相続で長男が貯蓄額の半分を相続したことなどにより、貯蓄残高が急減しますが、次男が80歳までは貯蓄がもつ、という計算になります。
逆に言えば、父親は少なくともあと10年、73歳までは働かないと、息子が生きていかれなくなるということです。
「う~ん。あと10年、お父様が73歳、お母様が70歳まで働くと、ご次男が80歳まで貯蓄を維持できそうです」
「あと10年も働かなくてはならないのですか……」
父親は絶句しました。
シミュレーションの条件では、自宅を次男が相続し、その上で貯蓄を長男と次男で半分ずつ相続する設定にしています。かなり次男に偏った相続で、長男にはがまんしてもらうことになります。長男の理解を得ることが大切ですが、それでも次男の老後は万全とは言えません。
「なかなか厳しいですね。でも仕方ないですかね」
■両親の老後が一番ラクになるシナリオとは
通常、60代前半で貯蓄が2000万円あり、持ち家であれば、65歳以降はリタイアして、年金生活しながら、たまに旅行をしたり、おいしいものを食べたりして、悠々自適とまではいかないもののそれなりにゆとりある老後生活を送れそうですが、この家庭の場合、両親は65歳以上も働くのがマストであり、余計な出費は一切許されません。確かに厳しいものがあります。
私は別な提案をしました。
「それよりは、やはりご本人が少しでも働けると、改善の効果が大きいです。アルバイトのような働き方でも、長く続けることができればその効果は大きくなります。
次男が65歳まで年収100万円程度の収入を得られれば、本人の老後まで貯蓄が不足する懸念がなくなります。それは、両親とも70代まで働かず65歳で退職した場合でも同じです。
2つめのシミュレーションの設定条件は下記の通りです。
・1年後より本人の給与手取り額は100万円となり、32年後の64歳まで続く。そのうち40%を貯蓄していく。
・父親、母親とも65歳でリタイアし、給与収入はなくなる。
・その他の条件は、1回目のシミュレーションと同じ。
「それ(次男の定期収入)を期待しているんですが、なかなか……」
父親は言葉に詰まってしまいました。
「もちろん、簡単なことではないでしょう。特に親から『働きなさい』と言われるのは逆効果でしょう。そのことは、本人が一番わかっていますから」
「では、どうすれば?」
「まずは、このシミュレーションを見せてみてはどうでしょうか? 目先のことではなく、将来のことを考えるきっかけになればと思います。もちろん、これを見せたからといってすぐにご本人の態度が改善するわけではないと思いますが」
提案しながら、私もあまり自信がありません。
「そうですね。今のままでは何も変わりませんので、何かをしないと」
父親もあまり期待していない様子です。
■32歳の無職次男の希望で面会すると…
いったん、父親の相談は終わりました。それからしばらくしてのことです。次男から「会いたい」と連絡がありました。私はカウンセラーではありませんので、本人との面談で改善に導くことはできませんが、それでも「会いたい」というのを断る理由はありません。面談日時を設定すると、1人でやってきました。
「父からファイナンシャル・プランナーさんに相談したと言われまして。私が働いていないことを相談していたのですよね。私もわかってはいるのです。しかし、無職の期間が長くなってしまい、もうこれからでは就職も難しいと思います。いい仕事でもあれば働きますが、なにかありますか?」
「いや、今『いい仕事』と言われても、すぐにこれと紹介はできません。だいたい拓也さんが何に興味を持っているか、どんな仕事が向いているかもわかりませんので」
「自分でも何が向いているのか、わかりません。そもそも仕事ができるのかどうかも……」
「そうですよね。しばらく仕事をしていなかったのですから。幸い今は人手不足が深刻化していますので、職歴が空いてしまったとしても、働く場がないわけではありません。自分に合った仕事を見つけて長く働けば、自立した生活を送ることができます」
「就職できたとしても、また合わなかったらと思うと、怖い気持ちもあります」
「それなら、まずは『若者サポートステーション』に行ってみてはどうでしょうか?」
「若者サポートステーション(通称:サポステ)」は、15~49歳までの仕事をしていない人を対象に、就職に必要なスキルを身に付け、就業に向けたサポートをしてくれる厚生労働省委託の支援機関です。各都道府県に2~10カ所設けられており、一部を除いて無料で利用できます。若者サポートステーションの主な活動には、次のようなものがあります。
① 相談:まずは面談で、現在の悩みや仕事に対する障害を、担当スタッフが共有し、解決に導きます。
② 各種講座の開催:履歴書の書き方などの就職支援セミナーだけでなく、コミュニケーション講座やビジネスマナー講座などを開催しており、「働く」ための準備をしていきます。
③ ジョブトレ:実際に企業で就業体験を行います。実際に働いてみことで、どのような仕事なのかを理解することができます。
④ 情報提供:就職のためのさまざまな情報を得ることができます。
⑤ 集中訓練プログラム:サポートステーションによっては、合宿形式で集中訓練プログラムを行っているところもあります。生活リズムを整え、ボランティアや農業体験で「働く」ことを体験します。
⑥ 就職後の支援:就職した後も、相談応対やサポートをしてもらえます。
私は、このようなことを説明し、近くの若者サポートステーションを紹介しました。
「まずは、スタッフの方に相談してみて、働くための講座を受講してみるとよいですよ」
「そうですね。でも、ちょっと不安でもあります」
「拓也さんと同じように、長く仕事をしていなかった人も多く参加していますから、励みになりますよ」
その後、次男から連絡がありました。若者サポートステーションに行って面談をしたこと、そしてビジネスマナー講座を受講することになったことの報告をもらいました。就職が決まるのはまだ先のようですが、着実に一歩前へ進んでいるようです。その結果次第で、両親が働かなければならない期間が決まります。
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村井 英一(むらい・えいいち)
ファイナンシャルプランナー
「働けない子どものお金を考える会」メンバー。
大手証券会社で個人顧客の投資相談業務を長年行い、ファイナンシャルプランナーとして独立後は、資産運用に限らず、家計の見直し、住宅購入、老後資金など幅広い相談を受ける。
特に、長期にわたる家計のシミュレーション分析を得意とし、ひきこもりや障害を持つお子さんとそのご家族の資金計画を行っている。
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(ファイナンシャルプランナー 村井 英一)

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