■副業で始めた結婚相談所が半年で廃業
近年、結婚相談所はフランチャイズや副業での参入が相次いでいます。その一方で、短期間で廃業に追い込まれる事業者も少なくありません。

「副業で始めるには甘くなかった」
こう語るのは、2022年に開業し、約半年で廃業に至った清水さん(仮名)です。
システムエンジニアとして働く傍ら、「土日にできる」「年収・月収○○円可!」という触れ込みに惹かれてある結婚相談所連盟に加盟。38歳の時に約200万円を投じて開業しました。
しかし、現実は厳しいものでした。
ノウハウもないまま制作したホームページへのアクセスは伸びず、入会希望者は一向に増えません。そればかりか、固定費として毎月5万円近くが出ていきました。副業の収入としては重い負担です。
■当てにしていた友人は「年収証明」で離れていった
開業前に入会を約束してくれた友人が何人かいましたが、当てにしていた彼らは「友人に年収を教えることへの抵抗感」が大きなハードルとなり、入会の約束を反故にされてしまいました。結婚相談所への入会には年収証明が必須ですが、これが開業前には気づかなかった盲点でした。
加盟先からのサポートも清水さんが直面する課題の解決には至らず、結局ひとりの会員も獲得できないまま、開業資金も合わせると約250万円の赤字が積み上がり、半年足らずで廃業を決めました。
清水さんは、「市場調査や業界知識の不足、経営経験のなさが響いた」「一般の会社員がいきなり個人で始めるには難しいビジネス。恋愛相談の延長ではなく、高度な専門性とビジネススキルを要する仕事だ」と振り返りました。

■「アプリの台頭」だけじゃない、始めやすく潰れやすい業種
帝国データバンクによると、2023年に発生した結婚相談所の倒産・休廃業は22件。そのうち倒産件数は年間11件と、過去最多を更新しました。
背景には「開業しやすく、廃業しやすい」という業態特性があります。
廃業率が高いことは、一見すると業界の衰退を示しているように見えますが、これは単にネガティブな現象と言い切れる話ではありません。
よく「マッチングアプリの台頭で結婚相談所が不要になった」と言われますが、実態はもっと複雑です。アプリで成婚する人もいれば、うまくいかず相談所に来る人もいる。あるいはアプリと相談所の両方を並行する人もいれば、アプリを使わず結婚相談所に来る人もいる。両者は競合関係にあたるとも言えますが、それぞれが異なる役割を果たしているとも言えます。
婚活の選択肢が多様化した結果、利用者のニーズも細分化しているのが実情です。むしろ廃業の主な要因は、こうした環境変化に対応できない、旧来のビジネスモデルが通用しなくなったことにあります。本当に顧客に価値を提供できる相談所だけが生き残る、まさに「変化と進化」のプロセスが始まっているとも言えます。
■開業に必要な初期費用は数百万円、月額コストも十数万円
実際に結婚相談所を開業するには、どれほどのコストがかかるのでしょうか。

図表1は、相談所連盟への加盟料や、オフィスを構えるための賃料など、開業にかかる初期費用と、運営するうえで月々発生する主なランニングコストを示したものです。
加盟料は安いところで50万円程度ですが、平均すると200万円~300万円、中には600万程度かかるケースもあります。さらに一度加盟すると婚活のデータベースにアクセスするための「システム利用料」が月2万円~5万円ほど継続的にかかります。
一方、主な収入源は会員からいただく入会金、月会費、成婚退会料です。入会金は10万円前後、月会費は2万円、成婚退会料は20万円が相場となっています。
つまり、支出に対し、会員数に応じた収入をどう確保するか。このバランスをいかに取るかが、相談所経営の肝となります。
■「男性特化」「写真撮影」で差別化し黒字化
ここからは、実際の開業事例から、運営の明暗を分ける要因と課題を見てみましょう。
ケース①
男性向けの婚活に特化するヒーローマリッジは、ある結婚相談所連盟と法人契約を結び、約300万円で2023年に開業しました。開業の決め手は、男性向けに本質的なサポートを提供する相談所が少ないと感じたことです。同社は元々マッチングアプリ専用の写真撮影サービスを展開しており、その経験から男女間の恋愛観や課題が大きく異なることを実感し、男性に特化することで明確な差別化ができると判断しました。
ランニングコストは会員登録費用などで月額約30万円ですが、写真撮影サポートやセミナーなど独自のサービスが強みとなり、開業から約1年で黒字化を達成しました。
ただし、集客は常に課題であり、時代背景やターゲット層の変化に合わせて、手法やコンテンツを柔軟に調整し続けることが不可欠だと考えています。
ケース②
布施俊和さんは自身が結婚相談所で約9カ月活動し、結婚した経験から結婚相談所の価値に気付き、出会った妻とともに初期費用約200万円をかけ自宅で結婚相談所「StartUp Life」を2025年に開業しました。
まだ黒字化には至っていませんが、順調なスタートが切れている自負があるといいます。というのも、布施さんの持つ人事職の経験とキャリアコンサルタントの国家資格が結婚相談に役立っているというのです。「ライフキャリア」の視点で婚活を捉え、必要な方にはキャリア面談も同時に行うことで、この二刀流が想定以上にうまく機能しているといいます。
当初は知人や知人からの紹介が中心でしたが、最近では口コミやHPからの問い合わせも増え、中には「AIが当社を勧めてくれた」という方もいるそうです。年内黒字化は見えているといい、「さらに持ち味を研きお客様に選ばれ成果にコミットする結婚相談所を目指す」と意気込みます。
■月2万円を払い続けるも入会者ゼロが続く
ケース③
2025年に夫婦で結婚相談所を開業した上田さん(仮名)の初期費用は、店舗を持たない開業だったため、相談所連盟への法人加盟で、約200万円でした。
しかし、開業直後に本業の売上が急減。新規事業である結婚相談所に注力する余裕がなくなり、現在は本業の立て直しに集中せざるを得ず、結婚相談所の活動は休止状態になっています。月に2万円ほどのシステム利用料は払い続けている状態です。
知人たちを頼りに入会者を確保できると考えていましたが、思った以上に集客は厳しく、「見込みが外れた」といいます。
いまだに入会者はゼロです。加盟金の元を取るため、数カ月後には活動を再開したい考えです。
■「周りに独身が多い」では顧客は獲得できない
結婚相談所の業界には、具体的に4つの構造的変化が進行していると言えます。
①競合環境の複雑化
近年、金融業、宿泊業など異業種からの参入が相次いでいます。さらにオンライン婚活サービスの普及により、気軽に活動を始めることも可能になりました。
こうした選択肢の増加により、結婚相談所に頼るという選択が以前よりも大衆化してきました。その結果、利用者は、サービスの内容、価格、成婚の実績、会員数、会員属性、相談員の質、口コミ、ブランド力など、さまざまな軸で判断するようになり、競争環境は一層厳しさを増しています。
②顧客獲得手法の高度化
こうした競合が乱立する中で生き残るには、他社との差別化を明確にし、その強みを活かしたターゲット顧客へのアプローチが不可欠です。
以前は、広告を出せばある程度集客できましたが、現在はそれが通用しません。差別化を尖らせ、顧客の心理やニーズを細分化し理解したうえで、自社の強みを活かした緻密な戦略が必要です。
「周りで独身の人が多いから」「知り合いのつてで顧客獲得が見込める」といった考えで顧客が獲得できる時代ではないのです。
■「恋愛相談の延長」では差別化にはならない
③顧客の求めるニーズの変化
かつては「結婚することが当たり前」という価値観が強く、標準化されたアドバイスでも十分でした。
しかし現在は、「結婚しない」「事実婚」「子どもを持たない」など多様な選択肢が広がり、個々の価値観に合わせた個別対応が不可欠です。
SNSやネット記事で婚活情報が簡単に入手できるため、画一的なアドバイスでは利用者の心に響きません。「女性はパステルカラーの洋服を着ましょう」などのような従来型の指導だけでは時代遅れとなります。一人ひとりの状況や価値観に寄り添う対応が求められます。
④スタッフの専門性スキル
自宅をオフィスとすることで低資本での開業が可能な一方、会員管理やマッチングサポート、成婚までのフォローには高度な専門性が求められます。資格は不要ですが、かつてのような「相談業務」だけでは通用せず、専門的スキルが必要となり、経験だけでは対応できないケースも多くなっています。
単に「友人の恋愛相談にのっていた」だけでは十分でなく、高度な知識と技術が業界の標準になりつつあります。
■結婚相談所に求められる信頼性と専門性
事例でもある通り、今後、事業者には2つの要素が必要となります。それが「信頼性」と「専門性」です。
結婚という人生の重要な決断を支援する以上、信頼性の確保は不可欠です。単なる知名度や広告露出ではなく、個人情報の適切な管理や具体的な取り組み、そして利用者の口コミや評判も、信頼性を測る重要な指標です。
一方で、画一的なアドバイスでは顧客満足を得られなくなった現在、一人ひとりの状況に応じた個別対応力が求められています。
これには心理学的知識、コミュニケーションスキル、データ分析能力など、幅広い専門知識が必要です。さらに、AIやデータ分析を活用した科学的なマッチング手法、デジタルツールを使った効率的な顧客管理など、技術的な専門性も重要度を増しています。
しかし、高い専門性を持っていても信頼関係がなければ顧客は離れます。逆に信頼されていても専門性が不足していれば、結果を出すことはできません。今後の結婚相談所運営では、この両方が不可欠です。
■婚活業界は転換期を迎えている
結婚相談所業界で起きている変化を俯瞰すると、これは多くの業界が経験してきた「成長期から成熟期への移行」の典型的なパターンです。しかし、この業界には他とは異なる独特な特徴があります。
例えば、2000年代のIT業界では、技術的専門性の向上が主な差別化要因でした。美容業界では、技術力とサービス品質が重要な要素です。しかし結婚相談所業界では、「信頼性」と「専門性」の両方が同時に、かつ高いレベルで求められるという特殊性があります。これは扱う商材が「人生の重要な決断」であるためです。専門性だけでは顧客の不安を解消できず、信頼性だけでは結果を出すことができません。
近年では、大手や異業種の参入により選択肢が増え、競争激化によって各社のサービス品質は向上し、透明性も高まっています。結婚相談所を「簡単に開業できる」時代の終焉は、お客様にとって「質の高いサービスが受けられる」時代の始まりを意味します。
しかし、この「質の向上」には、避けられないトレードオフがあります。専門性を高めるほど人件費がかさみ、入会金や月会費といった利用料金は高額化していきます。質を上げれば上げるほど、大衆化から遠のく――これが、業界が抱える構造的なジレンマです。
結婚相談所が本当の意味で社会の婚活インフラとなるためには、専門性を維持しながらお客様に納得いただける価格を実現する新しいビジネスモデルの登場が必要です。
業界が大きく変わりつつある今、その答えが出る日は、そう遠くないのかもしれません。

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平田 恵(ひらた・めぐみ)

タメニー株式会社広報

立命館大学卒業。新卒で人材派遣会社に入社し、入社後わずか7カ月で課長に昇進。その後約5年間、高校野球のリポーターなどフリーランスとして様々なメディアの現場を経験。再び人材業界の勤務を経て、2016年9月にタメニー株式会社(旧株式会社パートナーエージェント)に未経験広報として入社。2019年8月に人事部マネジャーへ異動(広報も兼任)、2020年10月からグループ広報の立ち上げをひとりで行う。2023年第一子を出産し、産後8週で仕事へ復帰。結婚式や婚活のプロとして数多くのメディアへ出演中。

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(タメニー株式会社広報 平田 恵)
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