※本稿は、能勢章『「度が過ぎたクレーム」から従業員を守る カスハラ対策の基本と実践』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。
■認知能力が低下した高齢者のカスハラ加害
2025年には、全人口の約18%を75歳以上の高齢者が占めると言われています。高齢化が進むにしたがって、高齢者がカスハラ加害者になることがよくあります。高齢者のなかには、認知能力が低下した状態でカスハラ行為を行うこともあります。
認知症の高齢者のなかには、認知機能の低下が原因で、いきなり怒ったり暴言・暴力といった問題行動を起こしたりすることがあります。認知症になると、不安や恐怖などの感情をコントロールできず、暴力的な行動をしてしまうことがあるそうです。判断力や記憶力の衰えを自覚していることも多く、その衰えに対して配慮された対応をされると自尊心が傷つけられたと怒り出す場合もあります。自分の置かれた状況を理解できないことがあり、また、それを理解できていても、すぐに忘れてしまうこともあって不安を感じてしまうという場合もあります。
介護サービスなどで認知症の高齢者による暴言や暴行などの行動が起こることがよく知られていますが、それ以外の場合でも、認知症の高齢者がカスハラ加害者になることがあります。
■自尊心が傷つくと、さらに暴力的になることも
私が経験した事例でも、スーパーマーケットでカスハラを行う認知症の高齢者がいました。通常のカスハラ加害者であれば、たとえば、暴言や暴行があっても、警察への通報や出入り禁止の措置を行うといった適切な対応をすれば、次第に収束していくことが多いです。カスハラ加害者が独自の正義感をもち、周りがいくら説得しても譲歩しないことが多いのですが、断固たる対応を継続していくと自分が正しいとは思いつつも、自分に不利な状況だけは次第に理解し始めるため、段々とフェードアウトしていくことが多いのです。
ところが、認知症の高齢者の場合は、自分の置かれた状況を理解できない、または、それが理解できていてもすぐに忘れてしまう傾向があります。そのため、いくら警察への通報や出入り禁止の通告などがなされても、自分が不利な状況に追い込まれていることすら理解していないことが多く、継続的にカスハラ行為を行ってしまうことがあるのです。
認知症の高齢者においても、自己の正義感が固く根付いているという点では通常の場合と同じで、周りが説得しようとしても、それに応じないだけでなく、対応する従業員から合理的な説得を受けると、判断力や記憶力の衰えを指摘されたと感じて、自尊心が傷ついてしまい、さらに暴力的になってしまうこともあるのです。
■企業や店舗はあくまで従業員を守るべきだが…
それでは、このような場合に企業としてはどうすればいいのでしょうか。
確かに、認知機能が低下したことが原因で暴言や暴行に至るわけですから、同情すべき点はあるかもしれません。そうであるがゆえに対応する従業員としてはどこまで毅然とした対応を貫いていいのか迷うところがあるでしょう。
しかしながら、同情すべき点があったとしても、対応する従業員に対する暴言や暴行などのカスハラ行為を黙って見過ごすわけにはいきません。カスハラ対策は職場環境改善策の一環になりますから、あくまでも従業員を守ることに力点を置くことが重要です。
カスハラ加害者はもはや顧客ではないため、たとえ認知症のカスハラ加害者であっても、従業員に危害を加える以上、出入り禁止や警察への通報といった毅然とした対応を行うことが必要なのです。
そうは言うものの、認知症の高齢者は、店舗が毅然とした対応を行っていることすら理解しない、または、それを理解していてもすぐに忘れてしまうということも少なくありません。毅然とした対応の実効性が確保できないという問題があります。
そのような場合には、認知症の高齢者の状況を理解する家族に対して、カスハラ行為について説明して、今後店舗に入店させないことを家族に約束してもらい、事態の収束化を目指すべきかと思います。
■カスハラ加害者には4つの特徴がある
そもそも、カスハラ加害者には、どのような特徴があるのでしょうか。
その特徴を理解することは、効果的な対策を講じるうえで役立つとともに、従業員を守るために不可欠なものです。
カスハラ加害者の属性としては、「高齢層が多い」という調査データがあります〔パーソル総合研究所(2024年6月5日)「カスタマーハラスメントに関する定量調査」〕。
私のところへ依頼されるのは、悪質なカスハラ事例が多いのですが、このような属性に加えて、悪質なカスハラ加害者の特徴として、次の4つのものがあります。
■加害者の特徴①独自の正義感をもっている
カスハラ加害者は、独自の正義感をもっていることが多いです。その正義感はたいてい身勝手で歪んだものなのですが、本人のなかではそれが軸として強固なものになっており、こちらが何を言っても揺るぎません。独自の正義感が固い信念として根付いているため、企業の担当者だけでなく、弁護士が相手であっても、なかなか説得には応じませんし、引き下がらないことがよくあります。
周りから見れば、なぜそこまでこだわるのかと不思議に思われるのですが、カスハラ加害者本人のなかでは、自己の論理に従った行動をしているだけであって、自分では100%正しいと確信しており、まったくおかしいと思いません。
カスハラ加害者への対応においては、普通の交渉ではよくある「落としどころ」がありません。自身の立場が認められるまで執拗に主張し続けられることになります。そのため、なかには店舗側(企業側)が譲歩して、カスハラ加害者に特別な対応を行ってしまうことがあります。
■企業が譲歩すると「成功体験」になってしまう
カスハラ加害者から見れば、このような特別な対応を受けた成功体験を通して、自己の正当性が裏付けられ、カスハラ加害者の独善的な傾向がより一層強化されることになります。
2025年のあるアンケート調査によると、加害経験者のうち、「カスハラに当たる可能性があると認識していた」は28.4%にとどまる一方で、「正当な批判・論評だと思ったから」が60.5%という結果が出たとのことです(弁護士ドットコム、2025年3月17日「カスハラの加害・被害の実態等についてのアンケート」)。客観的に見ればカスハラだと言えるものでも、ほとんどの場合、カスハラ加害者の自己評価としては、正当な批判・論評だったということなのです。
私が扱う事件のなかには、威力業務妨害罪で刑事裁判になる場合もあります。告訴代理人として裁判を傍聴していても、客観的には明らかに暴言や威圧的な言動があるにもかかわらず、「正当なクレームであるから業務妨害に当たらない」と述べて否認するカスハラ加害者もいました。
客観的な証拠が刑事裁判で提出され、それを確認したにもかかわらず、「正当なクレーム」と主張し続けるわけですから、「カスハラ加害者の正義感はこんなにも強いのか」と驚いたことがあります。
■加害者の特徴②弁が立つ人が多い
カスハラ加害者は、自己の立場を正当化するために言葉巧みに説明して、揚げ足を取ったり、自分の不利なことについては話を逸らしたりするなど、弁が立つ人が多いです。口下手な人は少なく、少なくとも自分なりの正義感を表現できるだけの話術があると言えます。
そのため、カスハラ加害者だけの話を聞けば、口がうまいだけに一見正しいようにも思えるのですが、従業員の話もよく聞くと、カスハラ加害者が自己に都合の悪いことを隠していたり、嘘をついたりしていたことがわかるのです。このような特徴をもつカスハラ加害者に対して、従業員が不用意に対応すると、巧みな話術によってカスハラ加害者に翻弄され、しなくてもいい謝罪をしてしまって、余計に状況を悪化させてしまうことがあるのです。
■加害者の特徴③経験者が多い
カスハラ加害者は、クレームを言いなれているという意味での経験者が多いです。同じクレームを同じ会社に時期を変えて何度も入れている場合もありますが、別々の会社にそれぞれ違うクレームを入れるという場合もあります。
私がカスハラ加害者と話をしていると、特に悪びれることもなく、過去のカスハラ行為を武勇伝のように語ってくる人がいます。喫茶店でカスハラ加害者と話していたときには、私の目の前で喫茶店の従業員に対して躊躇なく新たなカスハラ行為をした人もいました。
あまり人口が多くない地域では、私が依頼を受ける前にすでにその地域のいろいろな店でカスハラ事件を起こしていて、ちょっとした地域の有名人になっていたこともありました。
また、なかには、営業やお客様相談室でもともと働いていて、自分もカスハラの被害者だった人もいて、今度は自分が加害者になるケースもあります。自分も被害を受けていたから腹いせでやってやろうというよりも、被害を受けていたからこそ、これぐらいの意見を言っても当然に許されるだろうという考えで、あるいは、これぐらいのことは最低限やらなければならないという教育的な意味でカスハラを行っていたのだと思われます。
前述したように、カスハラ加害者には、「高齢層が多い」という属性があります。このような属性は経験者が多いという特徴とも合致するものと言えます。
いずれにしても、経験者ですから、製品やサービスに対する理解が深かったり、クレームを入れたときの流れを理解していたりして、相手にするとなかなか手ごわい場合が多いのです。
■加害者の特徴④言いやすい相手を選ぶ
カスハラ加害者は誰彼なしにカスハラ行為を行っているわけではありません。自分よりも立場の弱い人や言いやすい会社を選んでいる傾向があります。ストレス耐性が強そうな人よりもストレス耐性が弱そうな人を選ぶことが多いです。
たとえば、スーパーマーケットなら男性従業員よりもレジ打ちをする女性従業員、病院なら医師よりも受付窓口の職員に対して、カスハラを行うことが多いです。
普通の人ならあり得ないのですが、暴言もある意味でコミュニケーションのツールの一つとして利用していて、怒鳴ったら怖がる人を選んで暴言を吐くのです。特に特徴③で説明したような経験者は、過去の経験からどういう立場の人が弱いかをよく理解しているため、被害を受けた企業からすれば、一番嫌がるところを攻めてくることがあるのです。
■企業は特徴を踏まえ有効なカスハラ対策を
常に自分が勝てるパターンを認識していることが多く、自分が優位な立場に立てる状況でクレームを言ってくる傾向があります。
20代や30代の若い従業員がカスハラの被害にあいやすい傾向がある一方で、カスハラ加害者の属性としては、「高齢層が多い」というものがあります。こうした被害者と加害者の年齢の差があることで、年配の顧客が自分よりも若い従業員に対して優位な立場にあると感じて、不適切な態度を取りやすいという側面もあると言えます。
このように、カスハラ加害者には、「高齢層が多い」という属性のほかに、4つの特徴があります。企業がカスハラ対策を講じるに当たっては、この4つの特徴を踏まえて行うことが不可欠です。
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能勢 章(のせ・あきら)
弁護士
能勢総合法律事務所代表弁護士、「カスハラドットコム」運営者。コンプライアンス系の法律事務所に所属した後、2012年に独立して能勢総合法律事務所を設立。「カスタマーハラスメント(カスハラ)」という言葉がない時代から企業から多くの依頼を受け、度が過ぎたカスハラへの対応に従事。基本方針策定から現場での運用までの実務をカバー。
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(弁護士 能勢 章)

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