人に好かれるにはどうすればいいのか。吉本総合芸能学院(NSC)で講師を務める放送作家の桝本壮志さんは「明石家さんまさんは『好きな芸人』『嫌いな芸人』ランキング両方で上位に入っている。
万人に好かれようとするのは時間の無駄だ。むしろ自分が周囲を好きになろうと努力するほうが、結果的に得をする」という――。
※本稿は、桝本壮志『時間と自信を奪う人とは距離を置く』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。
■「嫌いな男」から「理想の上司」になった芸人
あなたの周りに生き辛そうな人はいますか?
明るい未来が見えない、職場から逃げ出したい、友達がいない。そんな方へ、出川哲朗さんに学ぶ「生き辛さと向き合う4つの思考法」をお届けします。
(1)「生きてりゃ何かある」
僕が「ゴチになります!」(日本テレビ『ぐるぐるナインティナイン』)でご一緒していた1990~2000年代、出川さんは「嫌いな男」「抱かれたくない男」の代名詞で、彼が出演すると「うるさいから出すな」「見たくない」といった苦情がテレビ局に届くほどでした。
しかし現在では、CMキングになったり「理想の上司」の上位に名を連ねていたりします。そんな出川さんから学んだのは「生きてりゃ何かある」という未来への希望です。どんなに嫌われても、他人の評価が低くても、生きているかぎりバッドエンドはない。それを体現している貴重な現代人と言えるのです。
■「ヤバいよ、ヤバいよ」に学ぶポジティブ変換
(2)「辛い」を「ヤバい」に換えるポジティブさ
どんな修羅場に追い込まれても「辛い」とは言わず「ヤバいよ」と口にする出川さん。
この「ヤバいよ」を言い換えると「おもしろくなってきた」。
そう、いかなる状況下でも「楽しんでみよう」という態度が日常装備としてあるのです。
幸運は「おもしろくなってきた」のようなポジティブな言葉と仲良しで、なぜか機嫌がいい人のもとへ吸い寄せられていきます。あなたの周りにいる前向きな人とは、持って生まれた性格ではなく、持っているテクニックが優れている人なのです。
漫画やアニメで、主人公の命を奪いに来る好敵手が、ストーリーが進むにつれ命を救う味方になる展開があるように、幸運がアンラッキーな顔をしてやって来るパターンも人生のド定番です。あなたも「辛い」を「ヤバい」に換え、あなたなりのヒーローやヒロインになってください。
■「好き」と言ってくれる一人がいればいい
(3)「不安」は未来からやって来る。だからこそ「いま」
先日NSCの授業で「僕なんて、才能がないんで……」と自虐した生徒に「すげえな、天才じゃん」と返しました。彼はぽかんと口をあけていましたが、「才能がないのにココまで生きて来られたのは、すごい才能だよ」と加えると、やわらかく顔を崩しました。
この励ましも、出川さんの「才能なんてなくても生きていけるよ!」という言葉が源泉でした。仕事、貯金、恋愛も、いつだって不安は未来からやって来るものですが、まだ何一つ起こっていない未来に気を揉みエネルギーを注ぐより「大切ないま」に体力を使ったほうがいい。大勢に認められていなくても、まずは一日一日、手ごたえのある暮らしをする。その延長線上にしか未来はない。
そういった思考になれるだけでも立派な才能なのです。
(4)「友達100人できるかな?」精神より「大切な一人」
一日ずつ手ごたえのある暮らしをしていく思考法は、人間関係にも応用可能です。
子供のころ歌った「友達100人できるかな」の精神は美しいですが、どんなに周囲が「嫌い」でも「オレは好き」と言い続ける友人が一人いることのありがたさ。出川さんの場合は、内村光良さんの存在がそれに当たります。
大勢の人に好かれていなくてもいいのです。目の前にいる親友やパートナーを愛でていきましょう。
■好かれようと頑張るよりも好きになる努力をする
「人に好かれるためのコツは?」という質問は毎年のようにされます。多くの人に好かれたい、たくさんフォロワーがほしい、いいね! もほしい。もはや「人気商売」は芸能人だけでなく全世界の人々を指す言葉になりました。
この手の相談をされたとき、僕は生徒らに「いろんな努力があるけど、人に好かれようとする努力が一番ムダな努力だよ」と答えます。
明石家さんまさんは「好きな芸人ランキング」と「嫌いな芸人ランキング」で、どちらも上位に入っています。そこから分かるのは、私たちがSNSにランチの写真を載せても、好いてくる人と嫌ってくる人、どちらもいるのが普通だということ。

けっきょくは相手の見かた・性格・生活環境しだいですし、万人に好かれる魔法なんて存在しません。そんな無理ゲーにコツコツ時間を割くより、リバーシブルの服をくるんと回すように思考をくるんと逆にして、「自分がどれだけ周りを好きになれるか?」という新ゲームを起動したほうが倍がけで得をします。
ちなみに、さんまさんをはじめ多くの人気芸人が「職場に一人、好きな人をつくっておくと仕事が楽しめる」と言っています。声が好き、ファッションが好き、笑いかたが好きなど何でもいい。好かれたいと気を張るより「好きを増やす」で気楽にゲームする。このスタンスのほうが気さくで話しかけやすい人になるので、かえって周囲から好かれたりするんです。
■一流芸能人はみんな「忘れる」のがうまい
好かれる人は「○○すのが上手で○○れる人」。さて、「○○」には何が入ると思いますか? 生徒に出題したところ、もっとも多かったのは「はなすのが上手でたよれる人」でした。
が、残念ながら答えは違います。好かれる人は「ゆるすのが上手でわすれる人」なのです。
志村けんさん、嵐、トム・クルーズまで、これまで多くの一流と打ち合わせや会議をしてきましたが、好かれる人は「小さなことにこだわらない人」がとても多いです。
これを人間関係の土台にできる人は他者のミスや能力不足にも寛容になるので、おのずと「許すのがうまい人」になり、些細なことも気にしないので「忘れるのがうまい人」という品格が手に入ります。

ちなみに、年以上「好感度ランキング」で1位だった綾瀬はるかさんも、以前番組で「悩みごとは……、悩んでいることがあるのに、いつの間にか忘れちゃうことです」と語っていました。
■悩むよりも自分のために時間を使う
さらに、人に好かれている一流にはもう一つ共通点があります。それは「自分のことを嫌いな人もいる」ということを知っていて、それを受け入れているという性質です。
一流と呼ばれる芸能人、起業家、クリエイターで「人望がある」と思われている人たちは、けっこう嫌われていたりもするのですが、それすらも「忘れることができる」のです。
そして彼らは「忘れる」の報酬は「時間」だということを知っています。くよくよ悩まないので自分時間は増える。その時間のインセンティブを使って、服を買いに行ったり、筋トレに励んだり、英会話を習ったりする。これらの、おしゃれ・筋トレ・スキルアップは、すべて「自分を磨いて、より自分を好きになるための行動」なのです。
好かれている人は、自分を好きになる投資ができる人であり、好きなことをして、そんな好きなことをしている自分の姿を見て、好いてくれる人が現れたら理想的な出逢いになるということを知っている人でもあるんですね。

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桝本 壮志(ますもと・そうし)

放送作家

1975年、広島県生まれ。1994年、吉本総合芸能学院(NSC)大阪校13期に入学。1998年 放送作家デビュー。
現在までの主な担当番組に『ぐるぐるナインティナイン』(日本テレビ)、『池上彰のニュースそうだったのか!!』(テレビ朝日)、『2022 FIFAワールドカップ カタール大会』(ABEMA)ほか多数。2010年よりNSC講師に就任。授業の評価アンケートで10年連続人気投票数1位を獲得。

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(放送作家 桝本 壮志)
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