※本稿は、安斎響市『1%の気くばり』(大和書房)の一部を再編集したものです。
■欲しくない商品をゴリ押しする「残念な営業マン」
気くばりできる人は、相手の意見を尊重し、できない人は、自分の考えを押しつける
自分が重視していることを、相手も重視するとは限らない
ビジネスの基本は、「常に相手視点で考える」ことです。
これは、どんな業界のどんな職種の仕事でも確実に必要とされる考え方です。
たとえば、営業職はわかりやすいですよね。
「弊社はこの商品を売りたいんです」
という下心が丸出しだと、なかなかお客さんの心は?めません。
やはり、相手視点で
「あなたが抱えている問題を解決いたします」
というアプローチで営業トークをするのが基本です。
「当社製品は特許申請中の独自技術で、他社製品の半分の軽さを実現しており、これは世界最軽量レベルでして……」
などと自慢のような話を聞かされても、肝心のお客さんが「軽さ」を重視していなかった場合、どんなにその点をアピールされてもピンと来ません。
それは、お客さんが今解決したい問題ではないからです。
同様に、「今なら半額です!」と値段でゴリ押しされても「価格」を重視していないお客さんの心には届きません。
半額だろうが無料だろうが、もともと要らないものは要らないのです。
■実績のある営業パーソンでも意外と陥りがちなこと
中には、「低価格でそこそこの商品より、高くても高品質なものが良い」と考える人もいます。
こういうタイプのお客さんには、
「劣化しない素材なので長く使えます」
「アフターサービスが充実していて長期保証があります」
などのアピールが響くはずです。
それなのに、
「半額です!」
「この価格で買えるタイミングは二度と来ないかも!」
「セール期間は明日までです!!」
とやたらとディスカウントを強調しても、その営業は成功しませんよね。
当たり前のことですが、相手のニーズを理解することから始めるのが大切です。そのためには、自分が話すよりも先に、まずはしっかりと相手の話を聞くことです。
一方的にセールスをするのではなく、お客様と双方向のコミュニケーションをするからこそ、より解像度を上げて相手視点に立てるのです。
これはかなり単純な例なので、さすがにこんな初歩的なミスをするセールスパーソンはいないと思います。
ただ、「お客さんが欲しいものとズレたアピールをしていないか?」という視点で振り返ってみると、若干ハッとする人もいるのではないでしょうか。
ベテランで実績のある営業職の人でも、お客様のニーズを思い込みで判断しているなど、意外とやってしまっていることはあります。
■「雑に扱われている」と感じると問題が発生する
こうした一方的なコミュニケーションは、経理や人事、総務などのバックオフィス系職種でも散見されます。
●誰も求めていない新しい福利厚生制度や社内コミュニケーションイベントを一方的に導入する総務部
●多くの社員が「面倒くさいなぁ」と思う退屈な内容の研修セミナーを強制参加で実施する人事部
●「この申請書類の内容は間違っています」と突き返すだけで、どこをどう修正すべきか詳しく説明しない経理部
●「新しいシステムの使い方」を説明するときに、そもそもなぜ旧システムから変更しないといけないのか、背景を一切説明しない情報システム部
こういう事例は、枚挙にいとまがありません。「なんか横柄(おうへい)だな……」と感じる人も出てくるでしょう。
いずれにせよ、
「相手はどう感じるだろうか?」
「この話を、どう受け取る可能性があるか?」
という想像力が欠けています。
小さなことですが、
「チャットやメールを送る前にわかりづらい部分や説明不足な箇所がないか、一度確認する」
「自信がなければ誰かに読んでもらってから送る」
など、ワンクッション置く。最後に、「何かご不明な点があれば、遠慮なく質問してください」とひと言を添える。
こうしたケアをしておくことです。
問題が発生するのはいつも、相手が「雑に扱われている」と感じたときです。組織の歪(ひず)みを生む前に、対処が必要です。
■「優先順位の非対称性」に注意
組織内のコミュニケーションでは、なぜこうしたすれ違いが起こるのでしょう?
それは、自分たちのチームが重要視していることが、相手にとっても重要だとは限らないからです。
社内調整の現場では、たびたび「優先順位の非対称性」の問題が起こります。
たとえば、新規社内研修の導入というプロジェクトがあるとしましょう。
人事部はこの仕事が役員命令の最優先事項なので、
「早く参加確認の返事がほしい」
「全員に積極的に参加してほしい」
と思っています。
しかし、その研修の受講対象の営業部は、
「この月末の忙しい時期に社内研修なんてふざけんな。そんなのいつでもいいだろ」と思っているかもしれません。
すると、研修に参加してもPCを開いてコソコソ内職をしていたり、終了後のアンケートが未回答で放置されたりと、あまり良くない結果になってしまいます。
このとき、本当に人事部がやらないといけないのは、次のような内容です。
●事前に営業部の部門長や責任者にしっかり研修目的の説明をして理解を得たうえで、部長→課長→メンバーの順に研修への積極的な参加を働きかけてもらうこと
●あらかじめスケジュール調整をして営業部が忙しい時期を避ける、研修の実施回数を増やして参加しやすいタイミングで出席してもらうなど、参加しやすい工夫をすること
こういった気くばりがあれば、営業部も
「まあ、そちらも色々とご事情はあるのでしょう」
「スケジュールを合わせてもらえるなら、できる限り参加しましょう」
と何とか協力してくれるかもしれません。
■真に考えるべきは「相手にとっての優先順位」
相手側に対する気くばりゼロで、ただ「重要な研修なので参加してください!」とだけ伝えても、「あなたにとっては重要でも、私にとっては重要じゃないんです」という認識のズレが生じてしまいます。
仮に研修の内容がどんなに良いものだったとしても、
「こっちは月末の追い込みで、それどころじゃないんだよ……」
とピリピリしている状態で無理に受けさせたら、その良さは伝わりません。ただの押し付けになってしまいます。
これが、「優先順位の非対称性」の問題です。仕事上のさまざまな場面で起こり得るトラブルです。
他にも、たとえば日々の仕事の中で、「メールの返信が遅くて、なかなか確認が取れない……」とイライラする状況などもありますよね。
このとき、「あの人はなんて仕事が遅いんだ」「メールの返信くらいサッとやってくれればいいのに」「まったく、しっかりしていないんだから」と相手を責めるのは簡単です。
しかし、真に考えなければならないのは「相手にとっての優先順位」です。
■返信を促す前に、相手の優先順位を上げてもらう
メールが返ってこない原因は、「相手の仕事が遅いから」「相手の態度が悪いから」ではなく、「こちら側と向こう側では優先順位が違うから」の可能性があります。
●こちらが送ったメールの内容は、相手にとって「後回しにしていい」程度の重要性でしかない
●「早く返事が欲しい」という緊急性が正しく伝わっていないため、他の案件を優先して対応している
●自分にとっては重要案件でも、相手は今日中に対応が必要な案件をいくつも抱えているため、今すぐに返事をもらおうとするのは無茶である
このように「この件は相手の目にどう映っているのか」を想像して、相手の考えや置かれた状況を理解したうえで対応をしなければ、一方的に「早く返事をください」とだけ催促をしても仕方がありません。
そこで必要なことは、相手に対して自分が依頼した案件の優先順位を上げてもらうことです。
なぜ返信が欲しいのか・返信がない場合何が起こるのかを丁寧に説明する、相手にとってどんなメリット・デメリットがあるのかをしっかりと説明する、忘れた頃にリマインドしてあげるなど、さまざまなアクションが考えられます。
自分から、相手を動かす工夫をしているかどうかの問題です。
仕事の中で、無意識のうちに独りよがりなコミュニケーションをしていないか、相手視点での情報伝達ができているかを一度振り返ってみましょう。
■自分の要望を相手のメリットにつなげる言い換え
普段の仕事だけではなく、当然、転職や副業などキャリアのあらゆる場面でも「相手視点」の重要性は変わりません。
転職活動において、
「私はどうしてもこの仕事がやりたいんです」
「転勤は絶対したくないです」
「週2日のリモートワークが希望です」
など、自分の意向ばかり強調する人は、転職エージェントにも企業の面接官にも嫌われます。
逆に、
「御社のビジネスにこういう風に貢献できます」
「御社の商材のこういう部分に強い興味を持っています」
と相手の話を中心に会話できる人が、最終的に選ばれて内定を獲得します。
仮に、仕事内容や転勤の有無などの希望をどうしても伝えたい場合も、次のように相手視点での言い換えをすると良いでしょう。
●「私はこの仕事がやりたい」
(言い換え例)→「この仕事なら自分の経験を生かして大きな貢献ができるので、ぜひやりたいと考えている」
●「転勤はしたくない」
(言い換え例)→「一つの場所に腰を据えて生活基盤を安定させ、顧客との長期的な人間関係を作っていきたい(だから転勤は避けたい)」
●「リモートワークしたい」
(言い換え例)→「現在、育児の事情で遠方から通勤せざるを得ず、通勤時間を業務に集中する時間に充てた方が成果を挙げられる(だから週2日は在宅にしてほしい)」
いずれにせよ、一方的に要望を伝えるのではなく、「自分の要望を叶えることが、相手のメリットにつながる言い方」に変換することが大切です。
■自分視点の情報発信に価値は生まれない
副業でお金を稼ぐ際にも、考え方はほぼ同じです。
たとえば、YouTubeで情報発信をしたい、Instagramでフォロワーを増やしてマネタイズしたい、noteで有料記事を売りたいなどの場合、「僕が大好きな映画作品を、第3位から順に発表します!」という投稿は絶対にバズりません。
その情報は、誰も欲しておらず、完全に「自分視点」だからです。
あなたが、大谷翔平か宇多田ヒカルであれば、「過去に影響を受けた映画」など超個人的なトピックでも十分な注目を集めることができるかもしれません。しかし、ただの一般人がこんな投稿をしても、何の価値も生まれません。
せめて、
「元スタバ店員が語る超オススメのカスタマイズドリンク第1位?第3位」
「365日ダイソーに通う私が見つけた最新ベスト収納便利グッズ⑤選」
などでないと、他人から求められることはありません。
「自分がやりたいこと」をやるのではなく、「相手が欲しがるもの」を提供するのは、転職や副業も含めてすべてのビジネスプロセスに共通する基本中の基本です。
チェックポイント□自分が話す前に、相手の話を聞いていますか?
□相手のニーズから外れたアピールをしていませんか?
□自分の言動を「相手はどう感じるか?」考えていますか?
□最後に「ケアのひと言」を忘れていませんか?
□「相手にとっての優先順位」を上げる工夫をしていますか?
□自分の要望を伝える際、相手のメリットになる言い方をしていますか?
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安斎 響市(あんざい・きょういち)
転職ライター
1987年生まれ。日系大手メーカー海外営業部、外資系メーカーなどを経て、2020年より外資系大手IT企業のシニアマネージャー。「転職とキャリア」をテーマに、ブログ、Twitterなどで情報発信を続け、日経BP『日経トレンディ』、東洋経済新報社「東洋経済オンライン」、マネーフォワード「MONEY PLUS」など、多くのメディアで取り上げられている。著書に『私にも転職って、できますか?~はじめての転職活動のときに知りたかった本音の話~』(ソーテック社)、『転職の最終兵器 未来を変える転職のための21のヒント』(かんき出版)などがある。
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(転職ライター 安斎 響市)

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