リーダーは貴重な時間をどう使うべきか。スターバックスコーヒージャパンでCEOを務めた岩田松雄さんは「新卒で入社した日産自動車で、効率を徹底的に意識するよう鍛えられた。
持ち時間の違いを生み出すのは小さな積み重ねだ」という――。
※本稿は、岩田松雄『新版「ついていきたい」と思われるリーダーになる51の考え方』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。
■「行き先階ボタン」と「閉まるボタン」
会社の資源は「ヒト・モノ・カネ・情報」といわれます。それ以上に、最も大切な資源は、「時間」です。時間は決して取り返しの利かない資源だからです。
これは、リーダーの行動についても同じことがいえます。与えられた時間はみな同じ。ですから、時間と効率を常に意識することがとても大切です。私は幸いにも、日産自動車で若いときにこれを徹底的に鍛えられました。
工場で生産管理の仕事をしているとき、ストップウォッチを片手に動作分析を担当していました。現場に行って、どの作業にどのくらいの時間がかかっているのかを洗い出します。さらに、その上で、どうすれば作業を早く無駄なく正確に行うことができるのか、分析していったのです。

こうした細かな「カイゼン」の積み重ねで、日本の製造業は、効率的な製造プロセスを作り上げ、世界一となりました。そして同時に、これはどんな業種でも、どんな仕事においても、もっといえば日常的な小さな行動でも同じだと私は思います。
例えば、エレベーターに乗るとき、やるべきことは、「行き先階ボタン」を押すことと、「閉まるボタン」を押すこと。
では、どちらを先に押せば効率的なのか、答えはおわかりでしょうか。
「閉まるボタン」を押してから、「行き先階ボタン」を押すことです。
こうすると、先に「行き先階ボタン」を押して、それから「閉まるボタン」を押すよりも、0.数秒ですが、早く扉を閉める指示を出すことができます。わずか0.数秒、とも思いますが、これが積み重なっていくとどうなるか。0.数秒は数秒になり、それが積み重なって数分になり、やがて何時間、何日にもなるのです。
■できることは、すぐにやってしまう
時間と効率を意識するという基本動作があるかないか、それを若い頃に身につけているかどうかで、手にできる時間に大きな差が生まれます。小さな積み重ねが、持ち時間の違いを生み出すのです。
人間に与えられている時間は、誰に対しても公平です。一日に24時間しかない。
その時間をどう有効に使うか。無駄なくいかに効率的に使うか。その意識の差が、人生において大きな差を生むのだと思います。
例えば、同時にできることは同時にする。同時にできないときには、どちらを先にこなせば効率的なのかをすばやく考える。無駄に思える時間は極限まで減らしていく。そうした習慣が、効率的な時間の使い方を可能にするのです。私はお風呂で、どういう順番で洗えば効率的かということまで真剣に考えたこともあります。
そしてこれが、行動力にも大きな影響を与えます。何をすべきか。いつすべきか。時間と効率を意識することが、行動力をも高めることになるのです。

基本的に私のスタンスは、極めてシンプルです。それは、できることはすぐにやってしまう、ということ。人は物事をすぐに忘れてしまうからです。忘れてしまってトラブルになれば、解決に何倍もの時間を使わないといけなくなります。
だから、すぐにやる。すぐに動く。
■仕事の効率を上げるメール活用術
メールも、私はあっという間に返信してしまうので、驚かれることが少なくありません。ずっとパソコンの前に座っているんじゃないか、と言われたこともあります。しかし、メールをため込んでいても、良いことはひとつもありません。どうせ返さないといけないのであれば、さっさと返してしまったほうがいいのです。野球でボールをすぐ投げ返すのと同じように、物事は常に、すぐに相手に返すのです。そうすれば、こちらが他のことをやっている間に、相手側で物事が進んでいってくれます。

人は忘れてしまう動物です。大切なことだって、平気で忘れてしまう。だから、言ったこと、聞いたことというのは、記憶に残らない可能性が高い。
私自身、自分の記憶力にまったく信頼を置いていません。いつも忘れてしまうことを前提にしています。大切なことはやはり文字にして書いて、残すべきだと思います。
今ではとても便利なツールができています。それこそが、メールです。
メールに大切なことを残しておけばいい。何を、だけではなく、誰に、いつ、どのように、も残せるのがメール。これは、有効に使わない手はありません。
■相手に負荷をかけるメールは「御法度」に
私は、立ち話でパッと言われたり、報告を受けたり、さらには電話で伝えられたりしたことについても、その場ですぐにメモできないときは「後でメールを入れておいて。
忘れてしまうから」とお願いするようにしていました。
それこそ社内を歩いたりすると、いろいろな人から声をかけられて、多くの情報に接することになります。電話も、かなりの数がかかってきます。何かお願い事をされても、正直なところすべてはとても覚えてはいられません。何か言っていたな、くらいは覚えていても、何だったのかは思い出せないことも多い。
しかし、メールを送っておいてもらえたら、後でチェックすることができます。
ただ、そうすると、どうしてもメールの数が増えてしまう、メールが読み切れない、なんてことにもなりうる。だからこそ、部下にお願いしていたのは、表題だけ見れば内容がわかるようにすることです。
もっといえば、できるだけ読み手に負担をかけないようなルールを、チーム内で作り上げてしまうのも、ひとつの方法です。例えば、結論を最初に書く。時間があれば中身を見ればいい、という流れにする……。
だらだらと言い訳がましい長い文章があって、添付ファイルまで含まれていて、クリックを何度もしないと結論にたどり着けないようなメールは御法度にしてしまうのです。

■必ずしもメールに本文などいらない
コンサルティング会社時代に、私が感心したのが、タイトルだけ、というメールでした。表題にアスタリスク(*)が付いていれば、本文がないというメッセージ。「*今日9時に集合」「*会議時間、15時に変更」など、1行で済んでしまうものには、本文を入れない。見たときは、何も書かずに返信だけする。そうすれば、最低限のクリックだけで良くなる。効率を重んじるコンサルタントならではだと思いました。
基本的に上司は部下から報告がほしいものです。細かな報告はいい。メールを読んだかどうか、やったかどうか、だけがわかればいい。ただ、詳しい報告を求めるとメールが膨大になってしまいます。それなら「*○○の件、順調」というタイトルだけでいい。
みんなの行動をすばやくできるメール術、ぜひ独自で編み出してほしいと思います。
Slackなどのチャットツールを使ってみるのもいいでしょう。
忘れてしまうから、と部下にメールを送ってもらっていた私ですが、私自身で覚えておかないといけないことも、「書き残す」ことを意識していました。
私の場合は、ポスト・イットに手書きした「To Do List」(やるべきことリスト)をパソコンに貼り付けていました。これで、やらなければいけないことは一目瞭然です。
リストの個々の項目は、進行状況もわかるようにしていました。項目ごとに円を描いて四等分し、4分の1ずつ、終わったところで塗りつぶしていくのです。
■年間の「やりたいことリスト」も書いておく
これによって、今やるべきことがどのくらい進捗しているのか、25%くらいまで来ているのか、50%くらいなのか、あるいは75%まで来ているのか、わかるようにしていました。
やるべきことを管理するだけでなく、それぞれの進捗状況も目で見て把握できるのです。
書いて残すことを意識していたのは、直近のやらなければいけないことだけではありません。長期で「こんなことをやりたい」というものも、文字に落とし込んでいました。
ザボディショップ時代、お正月に「今年こんなことをやりたい」と50の項目をリストアップして、書いて発表したことを覚えています。社内報を発刊する、絶版になっていた創業者アニータ・ロディック著『BODY AND SOUL』を再版させる……。
こんなにたくさん夢のようなことができるわけがない、という声も聞こえてきそうでしたし、私も3分の1くらいでもできたらいいなと思っていたのですが、年末、振り返ってみると、70%以上の項目が達成できていたのでした。
書いて残すことによって、やるべきことに、より意識が向かうのだと思います。実際、ときどき見返していました。あの件はどうなった、と尋ねたりもしていました。
聞いたら書く、思ったら書く。それを習慣にしてみてください。

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岩田 松雄(いわた・まつお)

リーダーシップコンサルティング代表

リーダーシップコンサルティング代表取締役社長。元立教大学教授。元早稲田大学非常勤講師。実践女子大学客員教授。1958年生まれ。大阪大学経済学部卒業後、日産自動車に入社。セールスから財務に至るまで幅広く経験し、UCLAアンダーソンスクールに留学。その後、外資系戦略コンサルティング会社、日本コカ・コーラビバレッジサービス役員を経て、アトラスの代表取締役社長として3期連続赤字企業を再生。さらに、タカラ常務取締役を経て「THE BODY SHOP」を運営するイオンフォレストの代表取締役社長に就任し、売り上げを約2倍に拡大させる。2009年、スターバックス コーヒー ジャパンのCEOに就任し、次々に改革を断行して業績を向上。UCLAビジネススクールよりAlumni 100 Points of Impactに選出される。2011年、リーダー育成のためのリーダーシップコンサルティングを設立し、現在に至る。2023年、早稲田大学よりティーチングアワードを受賞した。

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(リーダーシップコンサルティング代表 岩田 松雄)
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