やるべきことを後回しにしてSNSやゲームを始めてしまうことは、現代人なら誰しも経験があるのではないだろうか。著述家のニルス・ソルツゲバーさんは、「魅力的なコンテンツが、私たちの注意をそらし、先延ばしグセを助長している。
テクノロジーの誘惑をかわして生産的な人生を送るなら、環境を整えなければならない」という――。
※本稿は、ニルス・ソルツゲバー著、弓場隆訳『科学的根拠で 先延ばしグセをなくす』(かんき出版)の一部を再編集したものです。
■現代は「注意をそらすもの」に囲まれている
リーダーシップの第一人者でベストセラー作家でもあるロビン・シャーマは、現代社会の特徴を的確に表現している。
「私たちは注意をそらすものに囲まれて生きている。目を奪うようなものがいたるところに存在するが、そういうものをいくら追い求めても、本物の価値を見いだせることはめったになく、充実した人生にはつながりにくい。
現代社会の複雑なシステムによって、あまりにも多くの人が過度に忙しくし、見知らぬ人たちと過度につながりをつくり、過度に刺激を受けている。こういうライフスタイルの代償は何か? 人びとは死の床に就いたとき、最小の価値しかもたらさない活動に自分の最大の時間と能力を使い果たしたことに気づくことだ」
■SNSに1日何時間を費やしているか?
毎日、平均的なアメリカ人労働者は注意をそらすものに2.1時間を費やし、11分ごとに他のことに意識を向け、4.7時間もテレビを見て、6分ごとにメールをチェックし、メールのやり取りに1.7時間を費やしている。
1970年代、総人口の4~5%が先延ばしグセを自覚していたが、現在では20~25%が先延ばしグセに悩んでいる。
つまり、先延ばしグセのある人の割合がこの約半世紀で5倍に増加したのだ。
先延ばしグセがこんなにも蔓延するようになった原因はなんだろうか?
お察しのとおり、現代特有の現象であるスマートフォンのメール、SNS、ゲームといった注意をそらすものが激増しているからだ。
■テクノロジーは先延ばしグセを助長する
先延ばし研究の第一人者ピアーズ・スティール博士は、注意をそらすものと先延ばしグセの関係について次のように述べている。
「誘惑が身近にあることが、先延ばしグセの致命的な原因のひとつだ。
そして、その注意をそらすものが魅力的であればあるほど、私たちは仕事をしなくなる」
テック企業は次々と誘惑を生み出し、それを魅力的にしている。
昨今、誘惑がますます魅力的になり、仕事がますます退屈になっている。そしてその結果が先延ばしグセの蔓延なのだ。
1970年代の人々にとって、テクノロジーによる誘惑はテレビしかなかった。
だが、それすら現在とは比較にならない。1970年代のテレビは500チャンネルもなかったし、サブスクリプション・サービスもなかった。
かつて私の父は、「子どもの頃夜の10時以降にテレビをつけると、いつもアリが走り回っていた」と言った。電波信号がないから、テレビのスイッチを入れても白と黒が混じったような点が画面いっぱいに映るだけで、それが父にはたくさんのアリが走り回っているように見えたのだ。
■生産性を対価にしてコンテンツを楽しむ
現代では、テレビを見て、ゲームをし、SNSをチェックすることはしても、瞑想や運動、読書、勉強をするのは難しい。
しかも、この問題は悪化の一途をたどるばかりだ。
エンターテインメント業界はけっして現在の栄光に満足しているわけではない。
たえずゲームやSNS、テレビ番組のコンテンツをより魅力的なものに改良し、それらに依存する人を増やして、めざましい成果をあげている。

その代償はあなたの生産性である。
先延ばしグセを克服して生産性を高めたいなら、注意をそらすものによる誘惑をうまくかわす方法を学ぶ必要がある。
そこで、そのための秘訣を紹介しよう。
■「完全排除」か「面倒なアクセス」
SNSにアクセスするために、いちいち自宅の屋根に登らなければならないとしたら、どれくらい頻繁にSNSをチェックするだろうか?
そう頻繁ではないはずだ。
だが私たちは、SNSやゲーム、テレビのために屋根に登る必要はない。
結局のところ、問題は注意をそらすものにいとも簡単にアクセスできてしまう点にある。実際、そういうものは瞬時に利用できる。
誘惑にさらされていることは、先延ばしグセにとって致命的な要因のひとつだ。
つまり、先延ばしグセを克服するには、注意をそらすものにアクセスしにくくすることだ。注意をそらすものを完全に排除するか、アクセスを面倒にするといい。
幸いなことに、それを実行するのはけっして難しくはない。
そのための効果的な方法をいくつか紹介しよう。

注意をそらすウェブサイトをブロックする
ここで言及しているのは、フェイスブックやインスタグラム、スナップチャット、ニュースサイトなどだ。そこで、Cold Turkeyなどのツールを使えば、パソコン上のそれらのウェブサイトをブロックすることができる。このツールは、どのウェブサイトをいつブロックするかを選択することができる。私はこの機能がとても便利だと感じている。スマートフォンでも特定のウェブサイトをブロックすることができる(私はTrend Micro Mobile Security)というアプリを使っている。
集中を乱すアプリをスマートフォンから削除する
かつて私は毎日1時間を使ってスマートフォンでゲームをし、SNSをチェックして、ユーチューブで動画を見ていた。だが最近では、集中を乱すそれらのアプリは私のスマートフォンにはない。そういうアプリをすべて削除したからだ。
オンラインゲームを削除する
私は中学と高校を通じて、デミゴッドというオンラインゲームにハマっていた。そのゲームで10万分以上を費やした経験から断言できるのは、やるべきことを頻繁に先延ばしにしていたということだ。あなたが先延ばしグセを克服したいと真剣に考えているなら、オンラインゲームは禁物である(少なくとも一時的にはそうだ。いずれまたゲームをしたくなったら再開すればいい)。

ゲーム機を売り払う
手放すのがやりすぎだと思うなら、少なくとも目に入らないところに置こう。
「目に入らなければ、気にならなくなる」というのは的確な対処法である。
以上のやり方は完璧な対策ではないが、少なくとも誘惑に屈しにくくなる。
ブラウザを開き、SNSのアイコンをタップする代わりに、ウェブサイトをブロックするツールを使えば、SNSの利用法を再び見つけなければならない。集中を乱すものにアクセスするのを難しくすれば、先延ばしグセは改善できる。
■先延ばししない「環境」をつくる
「プライミング効果」という言葉を聞いたことがあるかもしれない。
なんらかのことが、別のきっかけになる作用のことだ。
周囲の環境は、無意識のうちに私たちの行動の引き金になっている。
たとえば、おいしい料理のにおいは食欲をかき立てるし、机の上にデザートをのせた皿を置くと、それを見たスイーツ好きの人は思わず食べたくなる。フレンドリーな人たちを見ると、私たちはより親切になって利他的な行為をしたくなる。
私たちを取り巻く何かが先延ばしのきっかけになり、別の何かが先延ばしをやめて目標に取り組むきっかけになる。
先延ばしグセを克服するには、好ましいきっかけになるように環境を整える必要がある。
そして、先延ばしの衝動をもたらすきっかけになるものはすべて排除しなければならない。
つまり、よい行動のきっかけになるものを歓迎すべきということだ。
以上のことを日々の生活に取り入れるためのアイデアを紹介しよう。
ブラウザをスッキリさせる
ホットリンクやブックマークが目に入ると、気が散ってすべきことができなくなる。ブラウザはできるかぎりからっぽであるべきだ。
スマートフォンを遠ざける
スマートフォンをオフにするか、少なくとも機内モードにしよう。
そして、スマートフォンをできるだけ目に入らない場所に置こう。仕事をしているときに目に入ると、無意識にチラチラ見てしまうから、時間を浪費しやすくなる。
すべての通知をオフにする。スマートフォンやパソコンの通知は集中を乱して先延ばしの衝動を誘発しやすい。通知をオフに設定しよう。
机の上をきれいにする
これも同じことだ。
机の上が散らかっていると、緊急でも重要でもないことを無意識にしてしまうきっかけになる。机の上はできるかぎりきれいにしておこう。
仕事と生活のスペースを片づける
整理整頓のできていない空間には、集中を乱すものがいたるところにある。仕事を効率的にやり遂げたいなら、本や雑誌、スマートフォンを見えないところにしまっておこう。「目に入らなければ、気にならない」は真実である。
働きやすい環境をつくる
目標と関連しているものは何か? 仕事をやり遂げるためのモチベーションを高めるものは何か? 目標達成に無意識に専念させるものは何か?
夜、本を読みたいなら、ナイトテーブルの上に本を置いておけばいい。仕事のプロジェクトをまとめたいなら、机の上に関連資料を置いておけばいい。心を落ち着けたいなら、机の上に小さな仏像を置いておけばいい。その他、名言を書いた付箋やイメージ画像など、モチベーションを高めるものはいくらでもある。
目標の達成を後押しする環境をつくるか、先延ばしグセを誘発する環境をつくるか、どちらがいいだろうか? それはあなたが選択することだ。

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ニルス・ソルツゲバー
起業家・著述家・ブロガー

かつては「筋金入りの先延ばし屋」だったが、科学的根拠にもとづく方法を何百冊もの自己啓発書から徹底的に学び、ついにその悪習を克服。生産的で満ち足りた人生へと変わる。ポジティブ心理学、睡眠、瞑想に精通し、執筆や心理学研究、そして世界中を旅することをこよなく愛している。

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(起業家・著述家・ブロガー ニルス・ソルツゲバー)
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