■どちらかが辞めない限り続くストレス
こんにちは、産業医の武神です。1年を通じて産業医面談の中でよく持ち上がってくる課題が、上司へのストレスに関するものです。
「あの顔を見ると憂鬱になる」「上司とはウマが合わない」「仕事の意欲が削がれる」といった訴えを私は年中聞いています。明らかなハラスメントはなく、マネジメント上の問題もないにもかかわらず、相性が合わなくてストレスを訴えるケースが多いです。これは、非常にやっかいな問題です。なぜなら、このストレスは上手に対処しないと、どちらかが辞めない限り続く、終わりの見えないストレスになりかねないからです。
今月はこのようなとき、上司・部下間の相性問題を乗り越えるために、私がどのようなスタンスで産業医面談をしているかご紹介させていただきます。あなたのお役に立てば幸いです。
■「上司のせいで自分のパフォーマンスが出せない」
私のクライアントでいきなり適応障害の診断書を提出して休職に入ったのは、30歳の男性社員Aさんでした。休職開始後初めての産業医面談で彼は、この1カ月間、不安とパニック症状と不眠があったことを教えてくれました。
Aさんは、4年前に入社、2年前に部署異動、半年前から今の上司の下で働いているとのことでした。
Aさんによると、彼はハイパフォーマーで実力が認められての異動だったが、異動後しばらくは新しい部署、メンバーに慣れることができずストレスがあった。その中でも頑張り、だんだん慣れてきたところ、今の上司がきて、ストレスが一気に増えた。上司の上司に相談したものの、異動はさせてもらえず、ストレス状況が悪化したとのことでした。
「上司の指示は戦略的におかしいことが多く、自分がいつも正しいことを言うので上司に目の敵にされている。今は上司がストレスなだけでなく、上司から与えられる業務も全てストレスに感じる。仕事が楽しくない」と語ります。
次第に朝の不安、会社での過呼吸等の症状が出始め、睡眠は悪化、この3週間はほとんど眠れなくなり、心療内科を受診したところ、適応障害で休職との診断書が出た。内服薬はないとのことでした。
■進歩が見えない産業医面談
私はこの会社の産業医として、Aさんとは毎月面談を行なっています。Aさんは、実家に帰ってからは少し症状が落ち着いたようです。私としては、復職までに彼に、休職に至った過程や原因の分析と、今後の対策を考える振り返りをしてほしく、それを伝えるタイミングを待っているのですが、毎回産業医面談でAさんは上司への不満を述べ、どうやったら異動できるかの質問をするばかりで、なかなか言い出せずに数カ月が経過しています。
休職して3カ月が経った頃、まだ睡眠が安定していないので、睡眠導入剤の内服を検討してはどうかと言ったところ、主治医にも同じことを言われたが、自分に原因がないのにどうして薬を飲まないといけないのかわからない、という返事でした。
■異動の可能性を探り続けた結果…
産業医面談の中で私は、休職中は会社のメールを見ないこと、職場の関係者に連絡を取らないこと、異動希望を会社に伝えても「まずは元気になってください」という返事しかもらえないだろうから、今はしないことを伝えていました。しかし、Aさんは私に対しては会社とは連絡を取っていないというものの、人事からの情報では、Aさんは様々な人に連絡をとり、異動の可能性を探っているようでした。
Aさんには、元気になったら一度人事としっかり話し合うことを伝えましたが、私の声は届かないままでした。半年ほど経つと社内では、休職中なのに異動希望であちこちに連絡を取っている社員がいることや、上司の悪口を言いふらしていることがマネジメント層に広まってしまっていました。最初はこの上司の管理能力に懐疑的であった人たちも、次第にこの上司へは同情するようになっていきました。
休職して実家にいる限りは、症状も落ち着いており、日常生活はほぼ問題なく送れているAさんですが、いまだに復職の話は主治医から出ていないようで、このまま自然退職となるまで時間が過ぎてしまうのか、産業医の私は心配しています。
■職場の対人関係ストレスで「上司」は定番
働く人のストレスに関するさまざまなアンケート結果を見てみると、職場のストレスの原因の上位にはたいてい、仕事の量や質(仕事量や業務負荷)、仕事の失敗や責任の発生、対人関係が入っています。例えば、厚生労働省の調査では1位が「仕事の量」、2位が「仕事の失敗、責任の発生等」、3位が「仕事の質」、4位が「対人関係」でした(厚生労働省「令和6年 労働安全衛生調査(実態調査)」)。
私の産業医経験からすると、職場の対人関係ストレスの原因の半分以上は、上司です。ですので、Aさんが上司に対する気持ちを打ち明けてくれても、私は驚きませんでした。
このような上司との関係性を原因とした適応障害のケースでは、多くの場合、1~2カ月間会社から離れることにより本人の症状が改善し、次第に心身ともに元気になってきます。
■他人は思い通りに変えられない
職場は仲良しグループの集まりではありません。ある特定の目標(業務目標)のために集められた大人の集団です。年齢差もあります。合わない人とも目標達成のためにやっていかねばならず、そのために役職や役割等が各自に与えられているのです。そして、その人たちとスムースにやっていくために、さまざまなルールがあります。
ルールを設けることで衝突やストレスを避けられることもあります。しかし、繰り返しますが、職場は仲良しグループの集まりではありません。ルールがあってもイライラしたり、がっかりしたりすることがあるのは仕方がないのです。他人の言動が悪かったとしても、多くの場合、気分が悪くなるのも傷つくのも自分です。相手は無自覚でストレスなく働いていて、自分が退職か異動をしない限り、その集団での生活、つまりストレスも続きます。
忘れてならないのは、他人は(自分が望むようには)変えられません。
体調の悪い時は、休職に至る自分の症状の変化や原因を考えただけで、症状が悪化し眠れなくなってしまいます。また、そのような時に復職後の対策を考えても、前向きに建設的に考えられることは少なく、さらに症状が悪化するだけです。なので、振り返りは睡眠が安定して日常生活がほぼ問題なく過ごせるようになってから行ってもらっています。毎月の産業医面談ではそのタイミングを待ち、いいタイミングになったら、振り返りのための質問を投げかけ、一緒に考えています。
■なぜ上司は「今のポジション」にいるかを考えてみる
ところがAさんの場合、半年たってもまだ上司への不満が本人の口から溢れ出ていました。いっそのことハラスメントホットラインなどに相談してはどうかと提案したら、以前上司の上司に相談したがダメだったから無理だと思う、今後のことを思うと、そこまでことを大きくしたくないとの返事でした。薬は相変わらず飲みたくないといいます。
8カ月ほど経った頃、産業医面談でAさんは、カウンセリングを受けてみたいがどこか紹介してもらえないかと聞いてきました。私は、会社の契約しているカウンセリング会社の連絡先を後で人事から伝えると返事しました。
どうしてカウンセリングを使ってみようと思ったのか聞いたところ、「会社のメールを見ていて、上司が昇進したと知り、不眠や動悸の症状が悪化したから」とのことでした。
Aさんが今後よくなるのかどうかは正直私にはわかりません。しかし、ある程度症状が落ち着いたとき、私がAさんに聞きたい質問は、「なぜその上司が社内で長年そのポジションでいられるのか、そして昇進できたと思うか。他の人はその上司をどのよう評価していると思うか、その根拠は?」です。
私がAさんにこの質問を投げ掛けたい理由は2つあります。
1つめは、上司に対する感情的問題から一旦離れ、上司の役割や行動を客観的に評価し直してほしいからです。この会社で上司が上司でいられるのは、必ず、上司として優れたものがあるからで、会社が評価しているからです。ウマが合わないからといって頭ごなしに否定するのではなく、一度よく考えることで、復職後の上司との関わり方(報連相や成果の見せ方等)が何か見えてくるかもしれません。
また2つめは、会社の評価基準を知ることで、自分自身の評価について、他人/会社は自分をどのように評価しているかを考えるきっかけになれば嬉しいと思っています。
いつかAさんにこの質問をできる日が来ることを願ってやみません。
■精神疾患での労災請求件数は増加中
厚労省がまとめた令和6年度「過労死等対策白書」によると、2024年度に仕事が原因で精神疾患を発症したとして労災請求した人は3780人、認定されたのは1055人で、いずれも過去最多でした。請求件数は年々増加を続けていて、2010年と比べると約3倍に増えています。
ちなみに、たまに部下と合わないという上司からの相談も産業医面談では経験します。
----------
武神 健之(たけがみ・けんじ)
医師
医学博士、日本医師会認定産業医。一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事。ドイツ銀行グループ、バンク・オブ・アメリカ、BNPパリバ、ムーディーズ、フォルクスワーゲングループ、BMWグループ、エリクソンジャパン、テンプル大学日本校、アドビージャパン、テスラ、S&Pといった大手外資系企業を中心に、年間1000件以上の健康相談やストレス・メンタルヘルス相談を実施。働く人の「こころとからだ」の健康管理を手伝う。2014年6月には、一般社団法人日本ストレスチェック協会を設立し、「不安とストレスに上手に対処するための技術」、「落ち込まないための手法」などを説いている。著書に、『職場のストレスが消える コミュニケーションの教科書』や『不安やストレスに悩まされない人が身につけている7つの習慣』『外資系エリート1万人をみてきた産業医が教える メンタルが強い人の習慣』などがある。働く人のココロとカラダをサポートする無料AIチャット相談サービス「産業医DrT」を運営。
----------
(医師 武神 健之)

![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 昼夜兼用立体 ハーブ&ユーカリの香り 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Q-T7qhTGL._SL500_.jpg)
![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 就寝立体タイプ 無香料 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51pV-1+GeGL._SL500_.jpg)







![NHKラジオ ラジオビジネス英語 2024年 9月号 [雑誌] (NHKテキスト)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Ku32P5LhL._SL500_.jpg)
