最近の金利上昇で銀行では金利5%の円定期預金も登場している。ファイナンシャルプランナーの藤原久敏さんは「金利が5%であるのは確かだが、これにはカラクリがある。
それを知っておかないと思わぬ損をすることもある」という――。
■金利5%を、信じてもいいのか?
「金利5%の円定期預金を見つけたんですよ、いま、こんなに金利は上がっているんですね!」
まるで宝物を発見したかのように、セミナーや相談の現場にて、このように意気揚々と話しかけてくる方が、たまにいます。実際、街中の銀行ポスターなどでも、目を見張るような高金利を見かけることはありますよね。
もっとも、多くの人は、すぐにこの高金利には大きなカラクリがあることに気付いてガッカリするのですが、中には、「ちょっと知らない間に、いま、そんなに金利が上がっていたのか⁉」とばかりに、その高金利を真に受けてしまう人もいるわけです。
とくにここ最近、国内の金利上昇の気配がニュースになり始めていることもあってか、そのような人が増えているような気がします。
■あくまでも、1年間預ければ、の話
さて、冒頭の「金利5%」のカラクリですが、それは、「1年間預けてこそ、表示通りの5%の利息を受け取ることができる」ということです。なぜなら、預金等で表示される金利は、基本的には「年利(1年間での利息の割合)」での表示だからです。
ですので、その円定期預金が「1年物」であれば、100万円預けると、1年後の満期時には5万円もの利息(税引き前)を受け取ることができます。もしそうであれば、私自身、いますぐその銀行に飛んで行って、資産の大半を預けたいものです。
しかし実際には、ほぼ間違いなく、その預金は「1カ月物」や「3カ月物」など、預入期間は1年未満であり、その場合、1年間も預けることはできず、1カ月後、3カ月後に満期を迎えることとなります。そしてもちろん、満期後には、通常の(低い)金利が適用されることとなるのです。
■利息5万円のはずが、わずか1万円程度
たとえば、「金利5%(3カ月物)」とあれば、それは、5%もの金利で預けることができるのは3カ月間だけということです。
ですので、その預金に100万円預けた場合、3カ月後の満期時に受け取ることができる利息は1万2500円(100万円×5%×3カ月/12カ月)(税引き前)です。
100万円の5%だから5万円、というわけではありません。つまり、5%の数字はウソではありませんが(預けている間は、金利5%が適用される)、現実でもないのです(元本に対して、きっちり5%の利息がもらえるわけではない)。
ちなみに、この「金利5%とあるが、これは3カ月物である」との説明に、ごくたまにですが、「えっ、それじゃぁ、3カ月で5%も利息が付くの?」と勘違いされる方がいます。
100万円預けたら、3カ月後に5万円(税引き前)の利息が受け取れるとの勘違いですが、それはあまりにも都合良すぎる解釈で、そんなことありませんよね。繰り返しになりますが、表示されている金利は「年利」なので、それはあくまでも、「1年間預けた」ときに受け取れる利息の割合なのですから。
なお、(見かけの)高金利のカラクリとしては、他にも、「投資信託購入と同時預入のみ」「新規口座開設時の特典」「退職金限定プラン」など、対象者を限定したようなケースもありますが、それらの場合には、いまの金利水準であれば、せいぜい1%程度といったところでしょう。
5%程度もの金利となれば、やはり「預入期間は1年未満」を絡めたケースが濃厚と言えるでしょう。
■パッと見た目の数字でのインパクトは、常套手段
このように、(受け取れる利息を大きく見せようと)見た目の金利を高く表示することは、昔からの、金融機関の常套手段と言ってもよいでしょう。もっとも、パッと見た目の数字でインパクトを与えようとする手法は、なにも金融機関に限った話ではありませんが。
たとえば、一般の小売店やスーパーでも、「50%キャッシュバック(但し、上限500円まで)」「80%OFF(但し、一部指定商品のみ)」などと、(諸々の条件があるものの)パッと見た目の数字でインパクトを与えようとするチラシやポスターをよく見ますよね。
もっとも、我々消費者もそこはよく心得たもので、そんな数字を真に受けることは少なく、「はいはい、条件があるんでしょ」と、わりと寛容だったりもするわけです。

しかし、それが金融機関の場合、なんだか騙されたと感じる人も多いかと思います。
それはおそらく、その(パッと見た目の数字の)カラクリを見抜くためには知識(今回のケースであれば、「金利は年利表示」であること)が必要で、その知識のない人に勘違いさせようとしているのでは、との疑念が湧くからかもしれませんね。
■あえて、小さい数字で表示することも
さて、ここまで解説してきた「金利5%」の表示では、「(5%という)大きな数字で惹きつけたい」という意図が感じられるわけですが、それとは逆に、あえて小さい数字を表示することで、安心感・確実性・信憑性を高めようとするケースもあるので要注意です。
そしてそれは、投資詐欺の類いで目にすることも少なくなく、その典型的な文言が、たとえば「○○で、月2%のリターンを目指します」といったものです(※)。
※ここまで説明してきたとおり、通常、金利は「年率」表示だが、月2%といった記載であれば、それは「月率」表示である
ちなみに、○○の部分には、「最新のFX取引システム」「不動産クラウドファンディング」など、トレンドを捉えたキャッチーなものであることが多く、最近であれば、「暗号資産トレード」「AIによる運用」などが考えられますね。
■小さい数字の効果とは?
月2%(月利2%)ということは、単純に計算して(単利計算で)年利24%となります。なお、複利計算だと、年利24%を超えます。
そして、この24%という数字には、少しでも投資経験・知識のある人であれば、いや、まったく投資経験・知識がない人でも、これはさすがに高すぎる(あり得ない)と、直感でも分かるはずです。
もし、いきなり24%を示されたのなら、ほとんどの人は警戒度をMAXに引き上げることでしょう。
ましてや、それが元本保証を謳っていれば、まず投資詐欺の類と判断されるでしょうし、元本保証を謳っていなくても(「目指します」などの表現であっても)、それだけ異常に高い数字を掲げていては、相当あやしいと警戒されるであろうことは間違いありません。
しかし、2%であれば、それは実現可能に思えてもしまうわけです。つまり、最初に月2%の数字を出されることで、この2%という控えめな数字に、そして、毎月という小刻みな期間に、むしろ、「手堅く安心」「コツコツと堅実」といった、投資の王道の香りすら感じさせることができるのです。

■投資詐欺の、高等テクニック
もちろん、少し計算すれば、月2%は年24%(複利計算であればそれ以上)のことだと分かります。つまり、2%という控えめな数字であっても、それが月利表示であれば、実際には(※)、やはり異常に高い数字(24%)であることには変わりません。
※前述のとおり、一般には、リターンは年利で示されるものであり、それがあえて月利で示されているだけである
しかし、この手堅い2%を積み重ねて実現されるであろう24%については、いきなり一方的に示された24%と違って、(その数字は自身で計算したという自負からも)貴い数字のように思えてしまう人も、少なからずいるわけです。
そして、そんな心理を上手くついたのが「月2%」の月利表示であり、そんな月2%の魅力に囚われた人にとっては、AIや暗号資産といったキャッチーなフレーズも(本来であれば、それらは投資においては「あやしい」の一言ですが)、大いに魅力的に映ることでしょう。
そうなってしまえば、もうすっかり、その商品の虜となってしまうわけですね。
このように、期間を短く区切って、まずは「小さい数字」を示すことは、それによって安心感や現実感を与え、そこからお客様自身に、「(これは一見、小さい数字だけど)でも実は、かなりの高リターン」であると気付かせるように誘導するという、高度なテクニックだとも言えます。
だからこそ、この「月2%」といった月利表示は、投資詐欺の古典でもあり、昔から、そしていまでもなお、よく使われているのです。それだけ、パッと見た目の数字のインパクトは大きいわけですね。
その罠について、頭では分かってはいても、油断すると、ついうっかり、ということも多々あるわけで、ぜひとも気を付けたいところです。

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藤原 久敏(ふじわら・ひさとし)

ファイナンシャルプランナー

1977年大阪府大阪狭山市生まれ。大阪市立大学文学部哲学科卒業後、尼崎信用金庫を経て、2001年に藤原ファイナンシャルプランナー事務所開設。現在は、主に資産運用に関する講演・執筆等を精力的にこなす。
また、大阪経済法科大学経済学部非常勤講師としてファイナンシャルプランニング講座を担当する。著書に『株、投資信託、FX、仮想通貨… ファイナンシャルプランナーが20年投資を続けてみたらこうなった』(彩図社)など。

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(ファイナンシャルプランナー 藤原 久敏)
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