高市早苗首相が主導する「日本版DOGE」が11月25日に発足した。「租税特別措置・補助金見直し担当室」が正式名称で、片山さつき財務相の担当下に置かれた。
DOGEは2025年1月20日のトランプ政権発足と同時に設置された「政府効率化省(Department of Government Efficiency)」の頭文字で、実業家のイーロン・マスク氏がトップを務め、短期間の間に政府機関の閉鎖や政府職員の解雇などに突き進んだ。「小さな政府」を標榜するマスク氏の強引な手法に批判が噴出、マスク氏とトランプ大統領は袂を分かって、DOGEは既に解体されたとされる。そのDOGEを高市首相が日本で設置しようというのである。
日本版DOGE設置のきっかけは、高市自民党が公明党との連立を解消、日本維新の会と連立するに当たって結んだ合意文書に、次のような一文が盛り込まれたこと。
「租税特別措置および高額補助金について総点検を行い、政策効果の低いものは廃止する。そのための事務を行う主体として政府効率化局(仮称)を設置する」
■財務省と戦う武器として維新のDOGE論に乗った
もともと規制改革を掲げてきた維新の主張は、イーロン・マスク氏がやろうとしたDOGEに親和性が高い。維新が高市政権に協力するに当たって、DOGE設置を条件のひとつにしたのは頷ける。一方で、高市首相は積極財政論者で「小さな政府」路線を標榜しているわけではない。もっぱら財政均衡を掲げて緊縮予算に突き進んだり、増税を進めようとする財務省と戦う武器として維新のDOGE論に乗ったと考えられる。まだまだ高市首相と維新は同床異夢ともいえる。
ネット住民を中心に、高市首相が財務省に戦いを挑む姿勢には一定の支持がある。
2023年に森永氏が出版した『ザイム真理教 それは信者8000万人の巨大カルト』はベストセラーになっている。森永氏は国民生活を豊かにするための積極財政を訴えていた。こうした森永氏に感化された反財務省支持者が積極的に高市首相の政策を支持している。
■安倍元首相の長期政権を意識
安倍晋三元首相の後継者を自認する高市首相は、安倍氏が財務省と戦いながら、国民の高い支持を背景に長期政権を築いたことを強く意識している。安倍政権誕生まで、首相官邸は財務省出身の首相秘書官が仕切り、財務省の意向に従わない内閣は行き詰まっていたとされる。そんな中で安倍内閣は経産省の官僚を中核に首相官邸の体制を固め、政治主導で改革を進めた。
2013年に安倍首相が打ち出したアベノミクスによって景気は回復に向かうかに見えたが、2014年4月に消費税を5%から8%に引き上げた結果、景気回復ピッチが鈍化することになる。アベノミクスを支持していた元財務官僚で経済学者の高橋洋一氏は当時、飛行機が上昇して途中で逆噴射するようなものだとして、消費増税に反対したが、財務省の増税の影響は短期間で解消されるという説明を受け入れて増税に踏み切った。
当時2015年10月に8%を10%に再度引き上げることが決まっていたが、安倍首相は2014年7~9月期のGDPが成長軌道に戻らないのを見届けた上で、2014年11月に消費税の再増税の先送りを決断している。当時、安倍首相に近い議員は、首相が「財務省は嘘をつくから」と吐き捨てるように言っていたのを聞いたという。
■就任早々、財務省に先制攻撃を加えた
高市氏は安倍首相の財務省との対立をよくよく知っていて、就任早々、財務省に先制攻撃を加えたとみることもできる。高市体制の人事をみてもこの点は明らかだ。
高市氏は自民党税制調査会会長で財務省出身の宮沢洋一氏を交代させ、小野寺五典氏を新会長に登用した。また、「インナー」と呼ばれる幹部の非公式会合のメンバーには、経産官僚出身の西村康稔氏や、高市氏に近いとされる山際大志郎氏を送り込んだ。高市氏は人事を行う前の10月12日にSNSのXで「(優秀な財務官僚が作った)案を、税制調査会の役員会で精査した上で、税制調査会の全体会議(国会議員は自由に参加可能)で議論をして決める」とし、インナー会議で財務省主導のまま税制を決めてきた現状を変え、透明性を高めることを宣言した。
また、高市内閣の財務大臣に片山氏を任命したことも、財務省からするとやりにくいことこの上ない。片山氏は1982年大蔵省(現財務省)に入省、女性初の主計官を務めた。もちろん、財務省の仕事の進め方や考え方を熟知している。さらに、現在の財務省事務方トップの新川浩嗣事務次官は1987年の大蔵省入省だから、片山氏の5年次後輩である。霞が関は年功序列社会で、ほぼ入省年次でポストが決まる。先輩は絶対である。
■租税特別措置に手をつけられるか
もっとも、日本版DOGEで当面の目的としている租税特別措置や補助金について、大ナタをふるえるのかどうかは、まだまだ疑問だ。
租税特別措置というのは、特定の分野への支援などのために、本来の所得税法や法人税法で定められた税金ではなく、特別な税金を課す措置で、大半の場合、本来の税負担を軽減するために使われている。大企業などが恩恵を受けているケースが多く、自民党や自民党の政治団体、自民党議員に多額の献金をしている企業が恩恵を受けているのではないか、という疑念が指摘されている。自民党が頑なに拒んでいる企業団体献金の廃止を求める野党などの主張の一つの理由となっている。
つまり、高市首相が本気で租税特別措置の見直しに手をつけた場合、自民党への企業団体献金に大きな影響を及ぼす可能性がある。高市内閣に身内の自民党から批判が噴出してくる可能性があるわけだ。また、高市首相が財務省の権益に介入し始めた場合、財務省は租税特別措置の廃止を強く打ち出すことで、高市内閣を足元から突き崩す戦略に出てくることも考えられる。
■維新にとっては「成功しても失敗しても得」
そうしたアンチ高市の動きに対抗するためにも、カギを握るのが高市首相への国民の支持だ。日本版DOGEで財務省を敵に回すスタンスが、国民の支持を高めると現段階で高市首相は判断しているのだろう。逆に、日本版DOGEを作ったものの、租税特別措置に何の手もつけられなかったとなると、今は高い内閣支持率が一気にはげ落ちる可能性もある。
連立合意で日本版DOGEを求めた維新からすれば、高市首相が本気で斬り込んで各省庁による多額の補助金などにメスが入れば、身を切る改革を求めてきた維新の存在意義を示すことになる。
防衛費の大幅増額が既定路線になっていく中で、どうやって安易な増税から暮らしを守るのか。国民の目には日本版DOGEによるムダの削減は当然のことと映る。
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磯山 友幸(いそやま・ともゆき)
経済ジャーナリスト
千葉商科大学教授。1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長・編集委員などを務め、2011年に退社、独立。著書に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)などがある。
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(経済ジャーナリスト 磯山 友幸)

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