■中国EV市場が伸びた起爆剤はテスラ進出
2018年に125万台に過ぎなかった中国EV市場が2024年に1158万台にまで大きく成長した最初の起爆剤はテスラの中国進出であった。上海ギガファクトリーで生産を開始した「モデル3」が大ヒットとなり、中国の若年層消費者がSDVの魅力を初めて実感したことが、その背景にある。
この潮流は、テスラと同様にSDVの価値提供をブランドの核とするニオ、シャオペン、リ・オートという新興御三家の成長を後押しした。30万元(約600万円)を超える高級SDVへの需要に火が付き、市場を拡大させた。しかし、この段階での主戦場は、依然として富裕層を対象としたビジネスであった。
2020年夏、50万円から購入可能なEV「宏光(ホンガン)MINI」が月販5万台を超えるほどの爆発的なヒットとなった。サイズは全長が3メートル、全幅が1.6メートルと日本の軽自動車規格(全長3.4メートル以下、全幅1.48メートル以下、全高2メートル以下)の全長を少し短く全幅を広くとったイメージである。中国ではA00と定義される超小型セグメントは一気にEVに置き換わったのである。
この段階では、車両価格が10万~20万元(約200万~400万円)のレンジにあったEVの普及は一般消費者には深く進んでいなかった。一般消費者にはガソリンとハイブリッド車が人気であった。それを切り崩したのがBYDである。
■海外販売台数100万台超えが視野に
大衆車クラスにガソリン車よりも安いBEVやPHEVを導入してきた。SDVの大衆化に加え、BYDはSDVのグローバル化にも邁進している。長期的には総販売台数の50%を海外販売台数から生み出すことを目指している。海外販売台数は2024年の41万台から、近い将来に100万台水準を超える可能性が高い。
すでに簡単な解説をしているが、BYDの本質的なコスト競争力は、①LFP(リン酸鉄)ブレードバッテリー、②先進的な電子プラットフォームと統合されたハードウェア、③垂直統合され内製化された基幹部品がある。
EVの成功要因は、大きく3つに分けられる。第1に、標準化され、部品統合度の高いEV専用プラットフォームを設計すること。専用化によって、ガソリン車時代の古い構造から決別できる。
第2に、電池・モーター・インバータの「三電」と呼ばれるEVの基幹技術に加え、ソフトウェアや半導体などSDVの要素技術を自動車メーカーが垂直統合し、自ら開発・生産すること。第3に、SDVを基盤とした魅力的な新技術や、バリューチェーン、新規事業を拡大し、スマートフォンのようにアプリケーションで収益を上げることだ。
■収益性で苦戦するテスラ
2024年度の粗利益率を比較すると、BYDは19%、リ・オートは21%と比較的高水準にある。
EVコストの34%が車載電池、9%がeアクスル(モーター、ギア、インバータ)で占められている。三電で44%にも達するのである。BYDはこれら三電すべてを内製化しており、その製造コストは、標準的なグローバルメーカーと比べて40%も低いと筆者は試算する。
このコスト構造を生み出してきたのが「ブレードバッテリー」と「eプラットフォーム3.0」であった。ブレードバッテリーは2020年に発売を開始した。従来の車載電池は、セルをまずモジュール化し、そのモジュールを電池パックに組み込む構造を採る。一方、ブレードバッテリーは、薄く長い刃(ブレード)のような形状のセルを、モジュール化せず直接電池パックに高密度で配置する方式を採用している。
この構造により、従来のLFP電池と比べて体積効率を50%向上させることに成功している。体積当たりのエネルギー量を示すエネルギー密度では、一般的な三元系(NMC/NCA)電池を円筒形にして高容量化したテスラの4680バッテリー(サイズが直径46ミリ、軸長80ミリの筒状)が優位とされてきた。
■BYDの優れたバッテリー技術
しかし、第2世代のBYDブレードバッテリーはエネルギー密度を210Wh/kgまで高め、小型化と搭載効率の向上を同時に実現している。
筆者は中国・深圳にあるBYD本社の技術展示会場で、三元系電池と自社製ブレードバッテリーの双方に釘を打ち込む「釘刺し試験」をライブで見学した経験がある。三元系電池はすさまじい炎と煙と共に熱暴走を起こしたが、BYDのLFP電池セルは何の反応もなく釘は貫通した。
安全性こそがブレードバッテリー最大の魅力である。テスラの4680が高エネルギー密度と高性能を追求するなら、ブレードバッテリーは安全性と低コストで引けを取らず、これら2つのバッテリー技術は世界のEV市場を牽引する優れた技術であることに疑いはない。
■日本の約半分の期間で完了する開発スピード
一般に、中国の開発サイクルは日本に比べて短期間で進む傾向にある。なかでも、コンセプト提示から量産まで約20~23カ月、金型設計から量産開始まで13カ月で完了するとされるBYDの開発スピードは突出して速い。日本メーカーの約半分の期間で完了する計算である。
その推進力は大きく2点に整理できる。第1に、垂直統合×標準化プラットフォームの存在である。第2に、巨大なR&D組織による「人海」に支えられた並列開発と迅速な設計変更である。統合度が高く標準化されたE/Eアーキテクチャに基づくSDV車両アーキテクチャ「eプラットフォーム3.0」により、開発工程と調達構造は簡素化されている。
ソフトウェアとハードウェアを分離して開発・調達を進め、ECUの削減とソフトウェアの集約・再利用可能な共通基盤へのプラットフォーム化を通じて、短期開発が可能となる。
■「996」勤務が当たり前の中国
11万人規模の開発要員は、効率追求が可能な工程では3交代勤務し、シームレスに開発を実施するとの情報もある。人海戦術的に車両開発と生産段取りを並列させることで、高速な開発実行が図られていると、ある日本メーカーの渉外担当役員は警戒する。
こうした構造的な差異に加えて、デジタルシミュレーションのCAD/CAM、金型試作検証回数を意図的に減少させる開発工程管理も、開発期間の短期化を後押ししていると見られる。商品企画のリードタイムを圧縮し、短いサイクルで新モデルを市場投入する。販売実績に基づいて成否を選別し、売れ筋へ製品ラインアップを迅速に寄せていくことも実施する。
開発が3交代勤務で稼働しているか否かは確証がないものの、かつての日本に見られたモーレツな働き方を実施している可能性は高いと見てよい。いわゆる「996(午前9時から午後9時まで、週6日勤務)」は中国企業で一般化している。唯一の休日である日曜でさえ、「メールや電話は頻繁に来て、即座の返答が必要なのだ」と、ファーウェイのある開発者は筆者の取材に苦笑まじりに語った。
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中西 孝樹(なかにし・たかき)
ナカニシ自動車産業リサーチ 代表アナリスト
オレゴン大学卒。山一證券,メリルリンチ証券等を経て,JPモルガン証券東京支店株式調査部長,アライアンス・バーンスタインのグロース株式調査部長を歴任。現在は,株式会社ナカニシ自動車産業リサーチ代表アナリスト。
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(ナカニシ自動車産業リサーチ 代表アナリスト 中西 孝樹)

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