■ドムドムは黒字企業に生まれ変わった
社長就任後2年8カ月目、ついにドムドムハンバーガーは黒字転換を達成しました。ドムドムにとっては、本当に久しぶりの黒字だったはずです。
店舗売上だけでなく物販の売上も加わっていたため、黒字着地は予想していました。それでも、通期決算で最終益がわかったときは本当に嬉しくて、みんなで手を叩き、喜びを爆発させました。
ただ、黒字だけが目的だったわけではありません。
「とにかく売上さえ増えればいい」という感覚で歩んではいませんでした。
お客様の郷愁と愛着、期待に支えられているブランドとして、お客様とスタッフの人生に寄り添い、喜んでいただける商品やサービスを提供する。そういった会社経営の核となる部分に注力すると決めていました。
これはその決意の結果で、その後も5期連続の黒字を維持しています。
スタッフとの信頼関係を築いた社内風土の改革、ドムドムらしさを模索した日々、そこから導き出されたコアコンセプトを守ること、そうした取り組みのすべてがつながってきたのだなと感じます。
■「採算が取れないのでは?」と疑問視された出店
2021年は、新店舗の出店が続いた年でもありました。
最初は3月の千葉県「市原ぞうの国」です。「ぞうの国」と「どむぞうくん」の象つながりで、園のリニューアルオープンに合わせて出店のお声がけをいただきました。
浅草花やしき店と同じくレジャー施設内の出店です。入園料がかかる上、休園日もあり、アクセスがいいわけでもない。コロナ禍という状況だったこともあり、社内では「採算が取れないのでは?」という声が上がりました。
■現地視察をして感じた「出店の意義」
確かにその通りかもしれないと思いましたが、現地視察をして、出店する意義のほうが大きいという結論に至りました。
店舗の立地は、水浴びショー「エレファントスプラッシュ」を間近で見られるフードコートです。
そこで、目を輝かせながらショーを見る子どもたちの手にドムドムハンバーガーがあったら、象が怖くて泣き出してしまったお子さんがドムドムハンバーガーを召し上がって笑顔になったら、どんなに素敵だろうと想像が膨らみました。
子どもたちの記憶の中に「象さんのショーを見ながらドムドムハンバーガーを食べた思い出」が残ってくれたらいいなと願いながら、出店の意義を感じました。
7月には、宮城県「イオンモール新利府北館」を出店。
そして8月には、新業態として、既存店舗より高い価格設定のプレミアムバーガーをメインに打ち出す「ツリーアンドツリーズ(TREE&TREE's)」を新橋に開店しました。
2年前の六本木イベントで好評だった和牛バーガーを、より多くの方に召し上がっていただきたいと思ったことがきっかけでした。
店のコンセプトから店名、ロゴまですべて、自分が先頭に立って進め、オールキャッシュレスにも挑戦。独自のオペレーションスタイルを構築しました。
この取り組みは、黒字転換した好調な時期でもあったため、「日経スペシャル ガイアの夜明け」(テレビ東京系)から取材が入り、開店までのプロセスを追っていただくことになりました。また、この出店と合わせてLOFTさんとコラボした36種の開店記念グッズ製作、共同販売にも挑戦しました。
■新橋「ツリーアンドツリーズ」は1年で撤退
しかしタイミングが悪いことに、ツリーアンドツリーズの開店直前に再び緊急事態宣言が出てしまったのです。夜間のアルコール提供などで売上を伸ばす見込みは大きく外れ、弱り目に祟り目で、店を構えたビルをカプセルホテルにする計画が浮上。ツリーアンドツリーズは1年ほどで撤退することになってしまいました。
期待したチャレンジは不完全燃焼に終わり、とてもやりきれない気持ちになりました。ただ、私はこの出店を「失敗」だとは思えませんでした。どんなに万全の準備をしても、不測の事態が起きてうまくいかないときはあるものです。
■たくさんの収穫を得たので「失敗」じゃない
今回開店したからこそ、完全キャッシュレスのオペレーションシステムを構築できた。
そう考えると、これは失敗ではなく、学びが多くてたくさんの収穫を得た機会と捉えられます。
そして、「ガイアの夜明け」の宣伝効果は凄まじいもので、他店の売上を押し上げ、併せてドムドムハンバーガーの知名度も上げてくれました。もちろんLOFTさんとのコラボグッズも好調で、当時のドムドムのライセンスビジネスの中ではトップの売上になったのです。
■翌月、今度は「銀座」に挑戦することに
まだ、ツリーアンドツリーズを営業していたときのことです。私の講演を受講された「銀座スイス」という老舗洋食店の社長様が来店され、和牛バーガーの味を絶賛してくださいました。「銀座でやったほうがいい」と褒めてくだったうえに、「元の店があった場所で、ビルの解体をするまで使える物件があるから、よかったらそこでやらないか」と、お誘いまでいただいたのです。
そのときは銀座に出店する余裕がなく、お断りするしかありませんでした。しかし、ツリーアンドツリーズの撤退が決まったときに、ふとそのお誘いを思い出し、ダメもとで連絡をしてみると「ぜひ使ってください」とのこと。怪我の功名というか、ひょうたんから駒というか、なんと銀座に店を出すことになったのです。新橋から撤退した翌月のことでした。
銀座で店を構えるなら、和牛バーガーだけでなく、ドムドムハンバーガーのメニューも提供したいと考え、「ドムドムハンバーガーPLUS銀座店」に店名を変えて再スタートしました。
言うなれば、これは銀座への栄転。新橋店を短期間で畳むネガティブなイメージを払拭できたのではないでしょうか。
新橋店を畳んだことを「失敗」と呼ぶなら、銀座への栄転は「成功」。
うまくいかないことが起きたら、そこではもちろん反省します。ただ、失敗で立ち止まるのではなく、「これをどう花咲かせられるか」を考えれば、成功にたどりつけると思える出来事でした。
私にとって、失敗は「道の途中に起こる出来事のひとつ」でしかありません。だから、失敗したことをすぐ忘れてしまいます。講演会や取材で失敗談を求められるのですが、もはや何の話をすれば失敗エピソードになるのか、自分では判断できなくなっているほどです(笑)。
■夏の福袋が余っても「よかったじゃない」
毎年、お正月にはお得な割引券と「どむぞうくん」グッズを詰め合わせた福袋を販売しています。とても好評ですぐに売り切れるため、ある年、夏にも同様の「夏の福袋」を販売しました。お正月より少なくしてすぐに売り切ろうと思いましたが、余ってしまったのです。
販売担当者は焦りと不安で落ち着かなかったと思いますが、私は「よかったじゃない!」と声をかけました。
売れ残ったことをネガティブに見て、「失敗した」と落胆する人もいるかもしれません。しかし私は、新しい企画を実施したこと、月間の売上がプラスになったことを素直に嬉しく思いました。お正月は多くの店が福袋を出すため、相乗効果で売れて当然と言えます。それに比べて、夏の福袋を販売しているブランドは少ないにもかかわらず、大半が売れたのです。これは、評価に値することだと思いました。
物事がうまくいかなかったとき、「失敗した」と思うと気持ちが沈み、思考停止に陥りがちです。それどころか、マイナスなことばかり考えてしまうのではないでしょうか。
■失敗という概念はなくすことができる
うまくいかなかったときにまずすべきことは、視点を変えて物事を捉え直すことだと感じています。別の角度から見て、プラスになったことを探してみる。そしてひとつでもプラスなことに気づけたら、失敗と思っていたことが「一過程にすぎない」と思えます。
その後に丁寧に考察すれば、「これを成功に導くためには何をすべきだったかな」とプラスの方向に頭が働き出すはずです。
様々な見方や考え方をすることで、失敗という概念をなくすことができるのです。
万が一、ひとつも収穫がないと感じた場合でも、「このやり方ではうまくいかないんだ」と気づけたこと、それ自体が収穫ではないでしょうか。
■ドムドムファンに愛される「どむぞうくん」
ドムドムハンバーガーは、創業時から変わらずに象をシンボルマークにしています。「象のように親しみやすい存在になるように」そんな願いが込められているそうです。
デザインは年々変化し、私たちが事業承継したときに、赤を基調とした現在のデザインになりました。シンボルマークは一部の看板やユニフォーム、ポスターなどに使われてきましたが、ぬいぐるみなどの立体物になったのは2021年のことでした。
最近発売したファミリーマートカラーの「どむぞうくん」第2弾、黄色のボディに白い耳、赤いリボンがついた仲間も、ファミリーマート店舗限定で大好評でした。今では多くのブランドとコラボし、様々なカラーバリエーションのどむぞうくんが販売されています。
このアイデアは、商品開発担当でキャラクター好きの浅田さんの発案です。手のひらサイズの赤いボールチェーンぬいぐるみを販売したときも、すぐに人気に火がつき、大ヒット商品になりました。
社内でも「どむぞうくんにも仲間がいたほうがいいよね」という声が上がり、「どむぞうくんと仲間たち」という形で、4色販売することにしました。
■侍カラーのバージョンに購入希望者続出
ピンクの「どむこ」、緑の「どむさん」、黄色の「どむたろう」。それぞれにキャラクター設定があり、青色は「どむクルーズ」に決まりました。これは、営業のグループLINEで「外国の名前がいいかと思います」という連絡が来た際に、私が冗談半分で「どむクルーズ」と返信したところ、本当に採用されてしまい驚きました。ちょうどトム・クルーズさん主演の映画『トップガン』の新作が公開された頃でした。
2023年の「WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)」が始まり、日本中が熱狂していたときのこと。元来野球好きの私は、ドムドムは日本チームを応援できていないじゃないか! と気づき、純粋に野球ファンとして一緒に盛り上げたいと思いました。
そんな思いで出社すると、社内の片隅にどむぞうくんのバイカラーのサンプルが置いてありました。胴体が紺で耳が赤。くしくも、侍ジャパンのユニフォームと同じ配色……!すぐにその写真と共に、「侍カラーのどむぞうくん 奇跡的に1頭だけ産まれていました。#WBC決勝 #侍ジャパン」とツイートしました。
すると、その投稿は多くの人の目に留まり、購入希望者が続出しました。まったくの想定外の展開に驚きつつも、せっかくだからと、配色を逆にした胴体が赤で耳が紺のバージョンも作って販売することに決めました。
■ファンが命名した「どむみ」「どむへい」
販売を告知すると、「このどむぞうくんの名前は?」という投稿が相次ぎました。この商品はSNSに投稿してくださったお客様たちが生み出してくれたのだから、命名もお客様にお願いしようと思い、名前を公募。
応募総数は3000件を超え、赤い胴体のほうは「どむみ」に、紺の胴体のほうは「どむへい」に決まりました。それぞれの名前の発表時には、合計12万もの「いいね!」がつき、もちろんすぐに完売することができました。
どむぞうくんのキャラクターは、今やオリジナル商品よりも、アパレルや日用雑貨、スマホグッズ、ゲームセンターの景品など、IPビジネスでの商品のほうが多くなりました。
これもひとえに、日頃からドムドムに関心を持って応援してくださるお客様のおかげです。皆様の声が作り出した愛されキャラのどむぞうくんを、私はとても誇らしく思っています。
■お客様からの要望は、まず「やってみる」
おかげさまで、いまやドムドムは、ユニークで美味しいバーガーを出す、独自の路線を確立しました。さらに、前例や固定観念にとらわれず、お客様の声を反映したグッズ販売や異業種コラボもするバーガーチェーン、というイメージも定着したと思います。
ただ、これらは初めからコンセプトとして掲げてきたことではありません。あくまでも、試行錯誤を繰り返した結果、定着したイメージです。
プラスかマイナスか、といった損得勘定では考えずに、やりたいと思ったこと、お客様に喜んでいただけそうなこと、お客様からのご要望があることには、まず「やってみる」。
それを続けるうちに、徐々にパズルのピースが埋まっていき、ドムドムならではの絵が見えてきたように思います。
最初から完成図がわかっていたわけではありませんでした。
コロナ中のマスクも、ぬいぐるみのどむぞうくんもそうです。
もし前例や固定観念にとらわれ、「バーガーチェーンだから」というこだわりが強かったなら、「マスク不足で困っている人がたくさんいるのだから売る」という発想にはならなかったと思います。
■「こだわり」にとらわれると弱みになる
「こだわり」は強みの一つでとても大事なものですが、意識するあまりそれが制限となって、思ったことを素直に実行できなくなることもあります。
知らず知らずのうちに「こだわり」の枠に収めようとしたり、そつなくこなそうとして、よくも悪くも意外性のない結果になりやすいのです。
今ある「こだわり」は、過去の経験や思考によってできたものですよね。それにとらわれるということは、ある意味、自分で作った殻にこもることになるのかもしれません。
自分の殻に閉じこもっては未来が見えづらくなります。
こだわらない心は、新しい挑戦を引き寄せ未来を創る、楽しくて心強い武器になるかもしれません。
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藤﨑 忍(ふじさき・しのぶ)
ドムドムフードサービス社長
1966年生まれ。東京都出身。青山学院女子短期大学卒。政治家の妻になり、39歳まで専業主婦。しかし夫が病に倒れ、生活のために働き始める。最初はギャルブームの頃のSHIBUYA109のアパレル店長。店の売上を倍増させたが、経営方針の違いから経営者と対立し、退職。アルバイトでしのぐが、たまたま空き店舗を見つけ、居酒屋を開業。すると料理の美味しさや接客の良さで一躍人気店に。その腕を常連客に見込まれ、ドムドムのメニュー開発顧問に。「手作り厚焼きたまごバーガー」をヒットさせ、ドムドム入社。その後わずか9カ月で社長に。「丸ごと!!カニバーガー」などが話題になり、ドムドムの業績は確実に回復している。テレビ朝日系「激レアさんを連れてきた。」出演で話題に。
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(ドムドムフードサービス社長 藤﨑 忍)

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